かつてはにぎわった音楽やゲーム、映画などのエンタメ産業がダウントレンド(下落傾向)にある。右肩上がりなのはソーシャルゲームくらいなものだろう。コンテンツ産業の未来を予想する一つの考えとして、かつて隆盛を誇った映画系ビジネスが低迷したときの体験を語りながら、現在のコンテンツ市場を俯瞰(ふかん)してみたい。
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かつて私が映画配給ビジネスに関わっていたのは80年中盤から90年前半で、レンタルビデオのブームで、町中にレンタルビデオ店が乱立した。メーカー側も増えていき、私が所属していたギャガコミュニーションズ(現ギャガ)は、ビデオ用のパッケージ向けのコンテンツを主にアメリカを中心に買い占め、それらをビデオメーカーにライセンス(権利)を販売することで売り上げを稼いだ。最初のうちはどんなコンテンツでも売れた。「血が出る」「首が飛ぶ」などの過激なシーンがあれば、あっただけ売れた。
ただ同然で買ってきたものが、10倍くらいのライセンス料で販売できた。当時は海外からコンテンツの権利を買うノウハウが一般的でなく、英語に担当なスタッフをそろえたギャガはコンテンツを買いまくっていた。しかし後年になると、人材とノウハウが流動し、今では基本さえ分かれば、海外の映画・映像マーケットに行けば誰でも買えるものになったが。当時のギャガにはある種の先行者利益があった。
そのうち、単純にビデオパッケージ化するだけでは販売数(レンタル店への導入数)が伸びなくなった。すると次は付加価値を付けるステージに入ったのだが、それは「劇場公開作品」というブランド作りだった。単に買ってきたコンテンツをビデオでストレートに市場に出すことよりも、映画館で公開した実績があれば、初回の受注も伸びるし、店頭での商品の回転も良くなるからだ。
しかし、やりすぎは崩壊を招く。結果、どこの会社も映画配給会社もどんどん劇場公開に乗り出すことになった。内容が劇場公開というレベルに達していなくても、「レンタルビデオ店に導入できるならば、どんな作品でも劇場公開だ」という観点から、クオリティーの低い作品までもが劇場公開された。もちろんこのシステムで、思わぬ名作や佳作に光が当たった功績もあるが、結果として粗悪なコンテンツも多くなり、ライトユーザーが離れて市場の縮小を招いた。
先日、ある大手ゲーム会社の開発者と話をする機会があった。すると「我々は何年かに1回、劇場用公開映画を作っているようなもの。時代が簡易なもの(ゲーム)を求めているのであれば、感覚がずれるのはあたり前ではなかろうか」という印象的な言葉があった。確かに市場が何を求めているのかを意識して作品を作らないとだめだろう。「受け手」ありきの「送り手」であることを改めて意識せざるを得ない。単なる「厚化粧」や「過剰包装」はまやかしに過ぎないのだから。
◇著者プロフィル
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。
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