85年のロンドンでの初演以来、いまなお上演が続く名作ミュージカル「レ・ミゼラブル」。文豪ビクトル・ユゴーの小説を原作にしたミュージカルが、「英国王のスピーチ」で知られるトム・フーパー監督の演出によって映画化され、21日から全国で公開された。19世紀のフランスを舞台に、わずかな量のパンを盗んだことで19年間も投獄された男ジャン・バルジャンの波乱に満ちた生涯が、出演者の歌声とともにつづられていく。映画のPRのためにこのほど、フーパー監督はじめヒュー・ジャックマンさん、アン・ハサウェイさん、アマンダ・セイフライドさんら主な出演者が来日。そのうちの一人、主人公ジャン・バルジャン役のジャックマンさんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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これまで、映画や舞台など数々の作品に出演してきたもののミュージカル映画は初めてというジャックマンさん。オリジナルの舞台版は、世界43カ国で上演され、6000万人を超える人々を魅了してきた。ジャックマンさんも、舞台版は3度見ており、また俳優養成学校を出た直後、あるオーディション会場で「レ・ミゼラブル」の1曲「星よ」を歌った経験もあった。その彼が今作は「舞台版では表現できない、時間の流れとスケール感を見せることができた」という。
映画版について「例えば、舞台版では、プロローグでバルジャンが歌いながら出てきたと思ったら、すぐに舞台のそでに引っ込んで、ひげを外し、カツラをかぶり、わずか15秒ぐらいで10歳近く年をとらなければならない。でも、この作品では(役作りをする)時間があったから、時間の流れ、時代というものをきちんと表現することができた」と話す。
ただ、「時間の流れをきちんと表現する」ということは、翻っていうと「バルジャンに科せられた強制労働がどれほど過酷なものかを描き」、また仮釈放後、再び罪を犯すも司教の真心に触れ改心し、市長の地位にまで上り詰めるバルジャンとは、肉体的に「明らかな変化がなければならない」。そのためジャックマンさんは、冒頭のやせ細り、ほおはこけ、目もおちくぼんだバルジャンを演じるために、「撮影前30時間は水分をまったくとらない」などを断行して体重を8キロ落とした。だが驚くのはそのあとだ。
その2日後の撮影までに、今度は体重を増やす必要があった。仮釈放後8年がたち、バルジャンは市長になっている。となると、体格もよくなっていなければならない。そのため、前菜、メーンディシュ、デザート、すべてを2皿ずつ、さらに大ジョッキのビール2杯という「これまで食べたことがないくらい」の大量の食物を胃に流し込み、「3キロほどを一気に増やした」。そのあとは徐々に増やしていったそうだが、映画の最後のほうのバルジャンの体重は97キロ。この作品のために、実に15キロも体重を増減させたのだ。ちなみに、インタビューの時のジャックマンさんの体重はベストの約90キロだという。
通常のミュージカル映画の場合、先に歌の収録を済ませ、俳優たちはその音に合わせ、いわゆる“口パク”で演技するという手法がとられる。しかし今作はすべてカメラの前で生で歌いながら撮影するという方法がとられた。演じる俳優の感情を重視したためだ。「フーパー監督は、最初から最後まで流れに沿って、(場面によっては)ステディーカメラを使って撮ってくれた。おかげで集中して歌うことができた」。さらにリハーサルは、8~9週間かけ入念に行った。そのため、「撮影当日は、歌い方など技術的なことを心配する必要がなかった。開放感すら感じて撮影に臨むことができた」と振り返る。
こうして完成した映画について「フーパー監督は、素晴らしい仕事をした」とその手腕を称える。もちろん舞台には「その物語をライブで演じられる」というよさがある。舞台俳優としても活躍し、ブロードウエーミュージカル「ボーイ・フロム・オズ」ではトニー賞主演男優賞に輝いているジャックマンさんであれば、生の醍醐味は身にしみている。だがその一方で「100メートル先の人にまで届けなければいけない」という観客との距離感も痛感している。その点、映画は「カメラが近くにあるからこその親密感」を観客との間に築くことができ、しかも今作では「ライブで歌うことができた」。つまりこの映画版「レ・ミゼラブル」は、「映画の最もいいところと舞台のいいところをうまく融合することができた作品」なのだ。「これだけ感動的な作品に出られたことを、私は心から感謝しています」。そう胸を張ったジャックマンさんからは、この作品に対する自信と愛着が感じ取れた。
余談ながら、これまでジャックマンさんを取材した人に聞くと、誰もがジャックマンさんを、「いい人だった」と口をそろえる。本当だろうか? たまたま機嫌がよかっただけではないか?と、この日の取材に臨んだのだが、本当に“いい人”だった。インタビュー中、こちらが作品を称える表現をすると、その都度「ドウモアリガトウ」と日本語で礼をいい、熱弁が止まらなくなると「(話が長くなって)ソーリー、ソーリー」と恐縮。さらにインタビュー終了後には、立ち上がり、握手をしながら「もう終わり? サンキュー、サンキュー」と労ってくれた。そして、次の取材陣に部屋を空けるためにあたふたと後片付けをする記者を気遣い、駆け寄り、荷物を運んでくれようとまでした。「ノー・サンキュー。大丈夫、大丈夫」と丁重にお断りしたが、そんなことをしなやかに自然にやってしまえるジャックマンさん。いい人だという評判は本当だった。
<プロフィル>
1968年、豪州シドニー生まれ。シドニーの大学でジャーナリズムを専攻後、演劇学校で学ぶ。卒業後テレビで活躍を続けるかたわら、ミュージカル「美女と野獣」のオーストラリア公演にガストン役で出演。98年にはミュージカル「オクラホマ!」ロンドン公演で主演し注目を集めた。映画デビューは99年。00年「X−メン」のウルヴァリン役で人気スターとしての地位を確立。主な主演作に「恋する遺伝子」(01年)、「ソードフィッシュ」(01年)、「X-MEN」シリーズ(03、06、09、11年)、「オーストラリア」(08年)、「リアル・スティール」(11年)など。また、ミュージカル俳優としても活躍しており、ブロードウエーミュージカル「ボーイ・フロム・オズ」(03~04年)ではトニー賞主演男優賞に輝いた。
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