WOWOWは、毎週金曜午後10時に「ノンフィクションW」枠を設け、オリジナルのドキュメンタリー番組を放送中だ。この枠では、見る人を新しい世界へと誘うフルハイビジョンの“ノンフィクションエンターテインメント”番組をWOWOWプライムで毎週、テーマを変えて放送している。3月15日に放送される「太平洋に捧げるシェイクスピア~生きつづける、東北のことばと~」を担当したWOWOWの制作部の富樫佳織プロデューサーと東北新社の斎藤充崇プロデューサーと下田章仁ディレクターに番組の魅力を聞いた。
ウナギノボリ
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−−番組の概要と魅力とは?
シェイクスピアの戯曲を東北弁に翻訳し、「ふるさとの言葉」で「ふるさとの人々」に演劇の楽しさを伝えてきた仙台の劇団「シェイクスピア・カンパニー」が、東日本大震災後1年の活動休止をへて再始動する様子を10カ月間追った。震災で職場を失ったり、移住するメンバーもいて半数が活動に参加できなくなった。主宰の下館和巳さんは若い学生をオーディションし、新たな再出発をする。悲劇として知られる「ロミオとジュリエット」を喜劇に書き換え、津波で甚大な被害を受けた三陸沿岸の町に芝居を“出前公演”するまでの過程を通して、遅れる復興活動を目の当たりにしての戸惑い、娯楽のない町の寂しさ、それでも芝居を通して触れ合うことのできる、人の心の温かさを描く。
ナレーションは3月11日に宮城県気仙沼市で被災した、仙台出身のお笑いコンビ「サンドウィッチマン」の伊達みきおさんが担当します。
−−今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?
今回のテーマは、震災から2年の節目で「エンターテインメントにできること」というテーマを象徴するドキュメンタリー番組の制作でした。
大きな悲しみが生まれた日から1年たった春、親交のあった仙台のアマチュア劇団の主宰である下館さんから連絡をいただいたのが企画のきっかけです。これまで制作された番組は、東京をはじめ他の都市から被災地を訪れ、活動する人をとりあげるものばかりでした。震災から1年がたち、同じように被災をした仙台在住の劇団員たちが「同じ地面に暮らす自分たちが、東北を元気にしたい」と立ち上がる姿に、本当の被災地の現実が見えてくると考えました。
−−制作中、一番に心がけたことは?
取材対象者に「寄り添う」ことを心がけました。外部の人間として取材をするのではなく、劇団のメンバーや被災地に暮らす人々と同じ目線、同じ気持ちで感じ、映像に収めることが今回の番組テーマを最も正確に伝える方法だと考えたからです。12年5月から週末の稽古(けいこ)に通い、被災地を巡る公演も同行した結果、東北弁をかなりマスターしました(笑い)。「寄り添う」というモットーを実行した結果として、取材の終盤には劇団メンバーと気持ちが同化してしまい、やや客観性を失うという長期のドキュメンタリー取材で陥りがちな状況になってしまい、いざ構成や編集作業に入ると苦労しました(苦笑)。皆さんにも、番組に登場する一人一人に感情移入していただけたらうれしいです。(下田ディレクター談)
−−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?
あえて大変だった記憶を掘り起こしてみると、温泉での稽古を撮影したときは大変でした。今回、シェイクスピア・カンパニーが上演した「新・ロミオとジュリエット」は温泉街がテーマ。芝居の中に、温泉で登場人物たちが取っ組み合いのケンカをするシーンがあり、実際に温泉で稽古をしました。それがおよそ4時間にわたり、撮影していた自分はのぼせて具合が悪くなってしまったんです。役者たちは動いているので、お湯にずっとつかっていないため、大丈夫だったんですけどね。
それと取材したシェイクスピア・カンパニーは、稽古や公演後の節目に全員の前で自分が考えていることを発表する機会があるのですが、取材者の自分も、その発表を振られるんです。毎回、何を言おうか考えをまとめるのが大変でしたね(笑い)。(下田ディレクター談)
−−視聴者へ一言お願いします。
東北から遠く離れて暮らしていると、震災は日に日に「記憶」となってしまいます。この番組を見て、美しい東北の海を見つめながら生きてきた人が、たった1日で何を失ったのかを感じ、震災のこと、東北のことを忘れないでほしい。
震災後、テレビで報道される地区にはさまざまな支援が届いたり、イベントが行われたりしてにぎやかだったそうですが、丸1年たったころから、楽しいイベントがどんどん減って寂しくなっているそうです。番組を見て、小さなことでもいいので何かをしてみようという気持ちになってもらったり、たとえすぐに行動できなくても被災地に暮らす人たちの身になって考えてもらえたら制作者冥利に尽きます。
WOWOW 制作部 プロデューサー 富樫佳織
東北新社 プロデューサー 斎藤充崇
東北新社 ディレクター 下田章仁
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