保健所に収容された母犬と子犬、彼らの命を救おうと尽力する職員の姿を通して命の尊さを説く「ひまわりと子犬の7日間」が、16日から全国で公開された。メガホンをとったのは、山田洋次監督の下で20年にわたって共同脚本、助監督を務めてきた平松恵美子監督。公開間近の初監督作について話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画は、母犬と生まれたばかりの子犬が保健所に収容され、里親探しに奔走する職員の神崎彰司とその家族を軸に進んでいく。宮崎県の保健所で07年に本当にあった実話が基になっており、神崎彰司を堺雅人さんが演じるほか、保健所の先輩役にでんでんさん、後輩役にお笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さん、さらに、彰司の幼なじみで獣医の五十嵐美久を中谷美紀さんが演じている。
動物好きの父親が、仕事とはいえ保健所の犬を殺処分していた事実を知り、娘の心が離れてしまった。そのことに心を痛める彰司。一方、7日後には殺されてしまう運命にある母犬と子犬。この二つの家族の問題をリンクさせながら、奇跡の物語を無理なく作っていくことに苦労したと語る平松監督。自ら書いた脚本は、何度も改稿を重ねたという。
その今作は、序盤に流れる映像にはせりふがない。あまり例のないスタイルのため、関係者の中には反対する人もいたそうだが、平松監督は自分の意思を貫いたという。それは、のちに“ひまわり”と名付けられる母犬が、保健所に収容される前の、夏八木勲さんと草村礼子さんが演じる老夫婦に飼われていたころの場面。ひまわりにとってそのころのことは、幸せな思い出として記憶されている。「これは、単純に犬が可愛いという映画ではありませんから、しっかりと犬と人間が同一目線の高さに立った形でやりたいと考えていました。あの最初の部分は、犬の目線で語られているんです。人間が何かしゃべっているけれど犬の耳には届かないということを、ああいう形で表現したのです」と、その意図を語った。
映画は殺処分について触れている。セットではあるが、施設内にある装置も、宮崎県の保健所の協力を得て忠実に再現した。犬が死ぬ瞬間こそ映さないが、その直前までの職員の様子を勇敢にも見せている。「私としては、あのシーンはどうしても必要でした。神崎彰司という一人の父親、動物好きだと娘から思われている父親が背負っているものがどれほどのものであるかをきちんと表現するためにも必要でした。また、保健所に収容された犬たちが、里親が見つからなければどんな運命をたどるのか、それはもちろんひまわりの運命でもあるのですが、それをきちんと皆さんに分かってもらうために必要でした」と、その場面の重要性を力説する。
今作は宮崎が舞台であり、せりふは宮崎弁だ。主演の堺さんは地元・宮崎県出身。もちろん、方言指導の先生はついているが、せりふに違和感が出ないよう方言独自のいい回しを堺さんも考えてくれたという。「そうやって出てきた言葉というのは、命を吹き込まれた感じがするんです。非常に心強かった。一緒に作り上げたという感じがして、感謝しています」と、堺さんの助言をたたえる。
苦労したシーンに、彰司がひまわりにかみつかれるシーンを挙げる。「訓練された犬って、人にかみつくようには訓練されていないんです。仕掛けや見せ方をどうすればそういうふうに映るんだろうと、みんなで知恵を絞りあいました」と振り返る。そのかいもあり、また、ひまわり役の柴(しば)犬のイチが芸達者なこともあり、その場面は無事に撮り終えることができた。ちなみに、2月に開かれた記者会見で、犬が苦手な若林さんが証言した、犬とたわむれるシーンを撮ったものの、そこがカットされていたというがっかりエピソードについてカットした真意を問うと、「そういうことはありません。カットしたのではなく、犬が飛びかかってくれなくて撮れなかったんです。飛びかかってくれないまま、そのカットを使っているんです」と“身の潔白”を訴えていた。
これからも、師匠・山田洋次監督がそうであるように「人間を信じたいという思いを込めて、人間を見つめる映画を撮り続けたい」と話す。そして今回の初監督作について、「一般の方からどういうふうに受け入れられるのか、あるいは受け入れられないのかということで緊張感があります」としながら、仕上がりには「これだけ人間と犬とがしっかりと心を通わせ合って芝居をしている映画はなかなかないと思います。その点でこの映画は、かなりのところにいっていると自負しています」と自信をうかがわせた。映画は16日から全国で公開中。
<プロフィル>
1967年生まれ、岡山県出身。92年鎌倉映画塾に第1期生として入塾。在塾中から見習として山田洋次監督作「学校」(93年)に参加。以来、山田監督の助監督として「男はつらいよ 寅次郎紅の花」や「学校」シリーズ(93~00年)、「たそがれ清兵衛」(02年)、「隠し剣 鬼の爪」(04年)などに参加。共同脚本作品として、「武士の一分」(06年)、「東京家族」(13年)などの一連の山田監督作や、松岡錠司監督作「さよなら、クロ」(03年)などがある。初めてはまったポップカルチャーは、少女マンガ「キャンディ・キャンディ」。また、「ベルサイユのばら」にもはまり、「せりふを抜き書きしては、なになにちゃんはオスカル役。なになにちゃんはアンドレ役ね、とみんなに読ませていた」とのちに監督になる素養があったことををうかがわせるエピソードを披露した。
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