第65回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人賞)や第85回アカデミー賞主要4部門ノミネートされたほか、さまざまな国際映画賞を獲得した「ハッシュパピー バスタブ島の少女」(ベン・ザイトリン監督)が20日に公開された。映画でヒロインの少女を演じたクヮヴェンジャネ・ウォレスちゃんは劇中でしっかりとした存在感を示し、史上最年少でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ話題を呼んだ。4000人の中から選ばれた逸材で、撮影当時は6歳だったというクヮヴェンジャネちゃんは、ノミネートに「楽しいけど、混乱したわ」と語る。映画のPRのため来日したクヮヴェンジャネちゃんに聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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映画でハッシュパピーは、世間から孤立した通称“バスタブ”と呼ばれる閉鎖的なコミュニティーに父親と2人で住んでいる。母親は家を出て行ったきりだ。多くの動物たちや仲間たちと触れ合いながら、穏やかに楽しく暮らしていた。しかし、100年に1度の大嵐に見舞われその地域は水浸しになってしまう。さらに大好きな父親も倒れ、自然の秩序の乱れによって、野獣たちが氷河の墓場からやって来るかもしれない、という危機が迫っていた……という展開。
大好きな仲間や地域を奪われたハッシュパピーが、困難に負けずに勇敢に立ち向かう姿が感動を呼ぶ作品だ。クヮヴェンジャネちゃんは「ハッシュパピーは勇敢なだけでなく、とても楽しい女の子よ。私と似ているところがいっぱい。自然も大好きだし、すてきなお父さんがいるところも同じよ」と笑顔で語る。
父親役のドワント・ヘンリーさんも同じく全く演技未経験で普段はパン工場で働いているという。2人ともプロの俳優顔負けの力強い演技を見せた。シャツ1枚で走り回ったり、泥んこになったり、海を泳いで渡ったり、動物たちと触れ合ったり、体を張ったシーンも多い。「自然も好きだし、(プライベートで)犬を2匹飼っているから動物も大好き。泳ぐ練習もいっぱいしたわ。すごく楽しい体験だった」と話す。
初めての映画撮影は、楽しさと驚きでいっぱいだったという。たとえば野獣と向き合うシーンは、スタッフが動かすハリボテを相手に芝居したと思っていたら、野獣に見立てたヘッドドレスをつけた動物との撮影だったといい、「映画を見たら、全然違う生き物で本当に驚いた!」と目を丸くして話す。
野生児そのものの役柄だが、長靴で泥の中を歩き回るシーンには苦労したそうだ。「とにかく泥が好きじゃないの。ドロドロになるシーンは楽しくないシーンの一つだったけど、やり遂げなければならないから頑張りました。あと、テレビの影響でブタはピンク色だと思っていたけど、毛が生えていて、触るときちょっと嫌だったの」と女の子らしい表情で語る。
映画の中でハッシュパピーにはさまざまな困難が降り注ぐ。生き残るために強くなって、地図から消え去るかもしれない世界(コミュニティー)を守ろうと、必死で立ち向かっていく。泣いたり怒ったり、感情の抑揚も大きい役柄だった。
「あまり人前で泣いたりしたことがなかったから、難しかった。自分のおじいちゃんが亡くなったときを思い出したり、スタッフが悲しい話を聞かせてくれたりして、涙を出したの。監督が『こういう感情が必要だから』と細かく指示を出してくれたのでやれました」
その生命力あふれる演技が認められて、アカデミー賞で史上最年少で主演女優賞候補となったが、「アカデミー賞をほとんど知らなかった」という。「オスカーさんて誰だろうと思って、いつ出てくるのかと思っていたらオスカー像のことだったの。けっこうエンターテインメントな楽しいイベントだったわ。でも、この年でノミネートされると、驚いて、ときどき混乱するのよ」と無邪気に語る。
ルイジアナ州で生まれて、現在9歳。「授業は算数と読み書きが好き。スポーツとゲームとペットと遊ぶことが好き。あと、おしゃれにも興味があるわ」という普通の小学生だ。「バスタブみたいなところに住んでみたいかって? 住みたいと住みたくないの両方かなあ。泥はイヤだけど、すべてが変わっていて面白いし、すてきなところもいっぱいあるから」とニッコリ。
これまで、将来は歯医者さんになりたいと思ってきたが、演技も続けたいと思うようになり始めた。今、次回作のリメーク版「アニー」に向けて準備中だ。
「ハッシュパピー バスタブ島の少女」は、監督・共同脚本・作曲を200ドルという低予算で新人のザイトリン監督が手がけ、サンダンス映画祭グランプリを皮切りに、今年の第85回アカデミー賞で監督賞にもノミネートされた。20日から全国で公開中。
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