ベルリンファイル:リュ・スンワン監督に聞く ベルリンで「不思議なインスピレーションを受けた」

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 韓国と北朝鮮の息詰まるスパイ戦を描く「ベルリンファイル」が13日、封切られた。メガホンをとったのは「生き残るための3つの取引」(2010年)や「相棒 シティ・オブ・バイオレンス」(06年)などで知られるリュ・スンワン監督。製作途中で金正日総書記が亡くなり、三男の正恩氏に政権移譲されたことで台本の変更を余儀なくされたという今作について、来日したリュ監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 映画「ベルリンファイル」は、ドイツの首都ベルリンを舞台に、北朝鮮の秘密諜報(ちょうほう)員と韓国国家情報院のエージェントが熾烈(しれつ)な攻防を繰り広げるスパイアクション。そこに、イスラエル情報局モサドやロシア人武器ブローカー、さらにアラブ組織やCIAがからみ、複雑でスリリングな物語が展開していく。北朝鮮側の諜報員ジョンソンを「チェイサー」(08年)や「哀しき獣」(10年)のハ・ジョンウさんが演じているほか、その妻ジョンヒに「猟奇的な彼女」(01年)や「10人の泥棒たち」(12年)のチョン・ジヒョンさん、韓国側のエージェント、ジンスに、スパイ映画出演が「シュリ」(1999年)以来14年ぶりとなるハン・ソッキュさんがふんし、リュ監督の実弟リュ・スンボムさんが、北朝鮮側の人間として出演している。

 リュ監督が今作の準備にとりかかったのは、2010年後半。その後、自身で書き上げた台本に手を加えていた11年12月、金正日総書記の死亡が伝えられた。撮影が目前に迫る中での訃報。「今後のことが予測できないだけに、現在の情勢を台本に反映させるべきか、かなり悩みました。しかしこれは現代を舞台にした話。“現実”を反映させないわけにはいかない。ですから、感覚を研ぎすまし、あらゆるチャンネルから情報収集しながら台本を修正していきました」と、当時下した自身の「危険な決定」について深刻な口ぶりで明かす。

 情報収集には、三つのルートが使われた。一つは、北朝鮮が専門の記者からの情報。二つ目は、韓国にある情報局の中で北朝鮮関連の業務を担っていた情報員。三つめは、この二つのルートから紹介された脱北者たち。脱北者にも、北朝鮮で特殊訓練を受けた人や実際にモスクワでスパイ活動をしていた人、北朝鮮で海軍将校をしていた人などさまざまで、彼らから北朝鮮の方言や武器取引にまつわる話、さらに欧州の大使館でスパイ活動をしていた人たちの生活ぶりなどを詳しく教えてもらい、それらを台本に反映させていったという。つまり今作は、フィクションでありながら、そうした情報源に裏打ちされ真実に近い表現がされているのだ。

 では、ベルリンを舞台にしたのはなぜなのか。そこには、朝鮮半島とドイツが、同じ“分断国家”であることに理由がありそうだ。リュ監督が今作を思いついたのは、前作「生き残るための3つの取引」がベルリン国際映画祭に参加することになり、この地を訪れたとき。ホロコーストの犠牲者を追悼する公園に足を運んだ際、東西冷戦時代の雰囲気を残すその場所から、「不思議なインスピレーションを受けた」のだという。ベルリンは、ドイツが東西に分断されていたころ、その中心にあった都市。「これは、東西冷戦後を描いていますが、いまだに当時のイデオロギーを引きずっている人たちの話です。それは、(いまなお北と分断している)韓国だからこそ描けるモチーフであり人物だといえます。その物語の舞台として、象徴的な場所であるベルリンを選んだことは適切だったと思います」と説明する。

 とはいえ今作を「分断をテーマにした作品というつもりはありません」と力を込める。「私たちにとって分断は確かに現実ですが、今回描きたかったのは、この映画に登場する人物の心理状態や、彼ら人間同士の関係、そして個人の葛藤なのです」とあくまでも “人間個人”を描いた作品であることを強調した。

 リュ監督にとって、今作が初めての海外ロケ作品。「文化や言語の違う生活圏での撮影は容易なことではなかった」と認めるが、それ以上に大きな問題は「自分自身にあった」と明かす。「普段住んでいる場所でのロケなら、編集で気にいらなければ撮り直しができます。でも今回のように遠いところでの撮影だと、あとで問題が起きても対処のしようがない。失敗できないというプレッシャーに押しつぶされそうになりました」と、これまで以上の重圧に耐えながらの撮影だったことも打ち明けた。

 ところで、韓国のスパイ映画といえば、「シュリ」が思い浮かぶ人が多いのではないか。その主演俳優のハンさんが、14年ぶりにスパイ映画に復帰しているのも今作の話題の一つだ。もともとハンさんは「憧れのスター」で、「いつか一緒に仕事をしたいと思っていた」というリュ監督。その思いがかなったわけだが、監督自身、ハンさんの出演が決まったとき、「もしかしたらこれは、『シュリ』の10年後の話で、あのときの人物が、のちに海外に出て行って、自分と似たような境遇にある北朝鮮の人に出会う。そんなふうな解釈もできるのではないか」と思ったという。なるほど、そうした見方も今作を観賞する上でまた一興だ。映画は13日から全国公開。

 <プロフィル>

 1973年生まれ。韓国出身。2000年、「ダイ・バッド~死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか~」で長編監督デビュー。「血も涙もない」(02年)、「ARAHANアラハン」(04年)、「クライング・フィスト 泣拳」(05年)、「相棒 シティ・オブ・バイオレンス」(06年)、「生き残るための3つの取引」(10年)などを発表。イ・チャンドン監督の「オアシス」(02年)や自身の「相棒 シティ・オブ・バイオレンス」には俳優として出演している。今作に出演しているリュ・スンボムさんは実弟。

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