スター・トレック:最新作で悪役を好演 カンバーバッチに聞く「強い信念を持っている部分に共感」

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 J.J.エイブラムス監督がメガホンをとったSF超大作「スター・トレック イントゥ・ダークネス」が23日から全国で公開中だ。今作に悪役として出演しているベネディクト・カンバーバッチさんがこのほど来日し、インタビューに応じた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 カンバーバッチさんが演じるのは、クリス・パインさんふんするエンタープライズ号の若きリーダー、ジェームズ・T・カークの前に立ちはだかる宇宙艦隊士官ジョン・ハリソンだ。地球をかつてない危機に陥れる彼の目的は一体何なのか。それが、壮大なスケールとドラマチックなストーリーの中で描かれていく。

 インタビューの前日には、東京・六本木の「nicofarre(ニコファーレ)」で記者会見を行い、その様子が動画配信サイト「ニコニコ動画」でインターネット中継され、ご満悦だったカンバーバッチさん。そのときの様子から、ファン思いで、思慮深く、おちゃめな一面も持つ好人物であることがうかがえたが、今回彼が演じるハリソンは、艦隊本部にたった一人で奇襲を仕掛ける、暴力的な悪役だ。そんなハリソンをカンバーバッチさんは「ある人にとってはテロリストにしか見えないかもしれない。だけど、ある人にとっては自由のために戦う戦士なんだ。彼は強い信念を持ってああいった行動に出る。あれは彼にとって献身的行為で、忠誠心の表れなんだ。そこに観客には感情移入してもらえると思うし、僕自身も共感できる部分なんだ」と表現する。

 その一方で本人が感情移入できなかったのは、「目的を達成するためとはいえ、暴力を手段に選ぶところ」と明快に答える。「ジョン・ハリソンは情熱的な男だけど、加熱し過ぎると制御できなくなるときがある。たとえ自分がマイノリティー(少数派)で抑圧された生き方を強いられ、それによって葛藤があったとしても、暴力に訴えることは許されることじゃない。その部分については、僕自身感情移入できない部分だった」と語る。

 カンバーバッチさんが日本でブレークしたのは、彼が、頭脳明晰(めいせき)ながら高飛車でちょっとアブナイ主人公ホームズを演じた英BBCのドラマ「シャーロック」が2011年に放送されてからだが、それ以前からもさまざまな役を演じてきた。例えば「アメイジング・グレイス」(06年)では若くして英首相となったウィリアム・ピットを、また「裏切りのサーカス」(11年)では有能で冷徹なスパイを、そして今作では冷徹な悪役を演じている。役になり切るために、どのようなアプローチをしているのだろうか。するとカンバーバッチさんは「僕としては、役になり切るということは、仕事をしながら進化していくことだと思っている」と答えたあとで、「August:Osage County」(欧米では13年年末公開予定)で共演したメリル・ストリープさんとのエピソードを披露した。

 「撮影中、メリルにたずねたことがあった。あなたにはいろんな役を演じるための特別なメソッドがあるのかと。すると彼女は僕に『いいえ。あなたはあるの?』と逆に聞いてきたんだ。そして彼女は『毎回役は異なるのだから、作品ごとに必要なことをやっていくのが仕事』と言ったんだ。それを聞いて僕は安心したよ」と、名女優の言葉によって自身の役作りの方法が間違っていなかったと自信をつけたこと、そして今回も役が決まり、撮影までのわずか2週間でハリソンという人物像をとらえ、撮影しながら「進化させていった」ことを明かした。

 一つの質問に対してじっくり答えるため、しばしばコメントは長くなりがちだ。答えを通訳が訳し終えると、「今の答えの短縮版だけど」と話し始める。そんなサービス精神旺盛のところが、ファンに愛される理由なのだろう。前回の来日は昨年12月。やはり今作のプロモーションために、エイブラムス監督とパインさんらと来日した。そのときからまた、空港に出迎えたファンの数が増えた。

 今回、成田空港で彼を迎えたファンは1000人。「次回の来日のときにその数が減っていたら落ち込むかって? イエスだよ」と冗談交じりに話しながら、「もともと『シャーロック』のファンが、今回このような形になったことを楽しんでくれているんだと思う。僕としては、活躍中の野球やサッカーチームのメンバーとして応援を受けている、そんな感じがする」と冷静さを忘れていない。そして、「世界中のファンはみなさん常識的でチャーミングで礼儀正しいけれど、とりわけ日本のファンは礼儀正しい人が多い」としながら、「ただ、時々みなさんには落ち着いていただいて、気絶したりしないようにしてもらわなくちゃと思うときがある」とファンへの気遣いを見せる。

 謝意を示しつつも、「僕にかけてくれるエネルギーやお金を、世の中をもっとよりよくするために使ってもらえたら」と恐縮する。そんな紳士的かつ律儀なところも、ファンから愛される理由なのだろう。映画は8月23日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1976年生まれ、ロンドン出身。マンチェスター大学で演劇を学び、ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマティック・アートで訓練を積む。テレビドラマに数多く出演するが、日本でブレークしたのはBBCテレビドラマ「シャーロック」(10年~)で主役を演じてから。他の映画の出演作品に「アメイジング・グレイス」(06年)、「つぐない」(07年)、「ブーリン家の姉妹」(08年)、「戦火の馬」「裏切りのサーカス」(11年)、「ホビット/思いがけない冒険」(12年)とその続編(13、14年)では竜のスマウグなどの声を担当している。

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