映画「ヌイグルマーZ」(井口昇監督)が25日に公開された。今作は、大槻ケンヂさん原作の小説「縫製人間ヌイグルマー」を基に井口監督が脚本を執筆し映像化。ロリータファッションの少女・鮎川夢子が、ピンクのテディベア「ブースケ」と“合体”して「ヌイグルマー」となり、愛する人や人類を守るため戦う姿を描く。大の特撮好きを公言し、映画初主演にして待望の特撮作品への出演を果たした、“ダメ子”こと鮎川夢子役の中川翔子さんに話を聞いた。
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「初めてはまったポップカルチャーは?」という質問に、「特撮が、ずっとブレずに好きなもの。一番好きかもしれない」と答える中川さん。中川さんは、特撮作品で変身したい……という思いが芸能界に入るきっかけだったという。オーディションはすべて落ちてしまっていたが、「まさかこんなに時がたってから(夢が)かなうとは思っていなかった」と、今作出演の話を聞いたときは驚いたと話す。続けて「しかも大槻ケンヂさんの原作で、こんな可愛い、カッコいいヒーローになることができるなんて、本当に生きていてよかったとすごく思います」とはじけるような笑顔で、当時のうれしさを振り返る。
自身も待ち望んでいた特撮作品でヌイグルマーに変身したことを中川さんは「すごくうれしかった」と素直に喜ぶ。しかし、ヌイグルマー変身後の顔はダメ子とは異なる。そのことについて「ヌイグルマーになると顔が変わるというところが、映画を見る前はちんぷんかんぷんだと思いますが、映画を見ると意味が分かります」と中川さん。「でもそれだけでは納得いかないというか、ダメ子がヌイグルマーになるためには強い気持ちと大切な人を守りたいという思い、それだけではなくてちゃんとダメ子もダメなだけで終わらないように、ヌンチャクでゾンビをたくさん倒していくシーンをカッコよく決めなきゃと、撮影前から思ってました」と役柄への思いを語る。
劇中でダメ子が使うヌンチャクは、中川さんが中学時代に制作したものだという。そのヌンチャクを使ったアクションも見どころの一つで、「中学のときに自分で作ったヌンチャクということもあって、振り慣れているけど、ちゃんとアクション映えする動きをつけてもらい、『仮面ライダーシリーズ』(のアクション監督)を担当している宮崎(剛)さんにアクション指導をやっていただきました」と中川さん。アクションシーンで戦ったゾンビにも「ゾンビの皆さんもいろいろなヒーローの中に入っていた有名な方々ばかりで、すごくぜいたくな体験をさせていただきました」と笑顔を見せる。そして「(ヌンチャクでのアクションシーンが)カッコよく決まってくれたと思うので、ダメ子とヌイグルマーのつながりができたと思いました」と納得の出来だったことを語った。
ダメ子こと夢子は心に暗い過去を持つというキャラクター像について、中川さんは自身に重ね合わせる部分が「たくさんありました」と切り出した。「なかなか自分の好きなことを貫くと、周りの人がポカンとしてしまって世間から浮いちゃったりとか、それでも好きなものに対してはハイテンションになったりしました」と続ける。とりわけダメ子が「部屋の中でヒーローのポーズを練習するシーン」に運命を感じたと語る。その理由を「私が中学の時にやっていたこととそっくりで、ビデオをダビングしてテレビの上に積んで暗い部屋で一人で……というのは母にも見せなかった場面。監督が描いてくれたことは、たまたまなんですけど、運命を感じました」と明かす。続けて「そういう日々も全部、ただ自分が生きるのがつらくて、それをしているときだけ幸せだったからやったはずでしたが、『ヌイグルマー』につながったということは、すごく大きな意味があったんだなと。過去の全部はこのためにつながったと思うシーンでした」と感慨深げな表情を見せた。
中川さんが運命を感じるようなシーンを撮影した井口監督の印象を「すごく優しくて、終始ニコニコしていて、可愛らしくて、クマさんみたいでした」とほほえむ。さらに「ほぼ女子だけで(撮影が)進む日々でしたが、一番“ガーリー”な現場に溶け込んで、イチゴとかマカロンをリスのように両手で持って食べる感じ……」が可愛らしかったと、監督の意外な面を暴露した。
一方、ヌイグルマーに変身するには欠かせないブースケの声を演じた俳優の阿部サダヲさんの演技を「撮影中はもちろんブースケはしゃべらないですけど、最近の特撮はフルのコンピューターグラフィックス(CG)だったりする分、ブースケが今回、特撮の“味わい”を全部背負ってくれたと思います。人が入って一生懸命動かして、全部のシーンをそうやって頑張ってくれました。さらに阿部さんの軽快でコミカルな声が入って、すごく愛されるキャラクターになったと思う」と表現する。「ただおとなしくしているより、ベロが出たり、歯ぐきが出たほうが可愛いって、何か不思議ないいキャラだなと思う。ブースケが一番頑張ったものなので、愛してもらえたらうれしいです」と“相棒”の活躍を絶賛した。
今作で中川さんは、主演だけでなく主題歌「ヌイグルマーZ」も歌う。同曲は、大槻さん率いるバンド「特撮」の楽曲「戦え!ヌイグルマー」を改題したものだ。中川さんは「もともと曲があり小説になって、水木一郎さんも歌われ、今回、私が女子バージョンで歌わせていただいたことで、曲が時を超えて“輪廻(りんね)転生”しているというか、絶対にカッコいいものにしなきゃいけないというのはすごくありました」と楽曲への思い入れを語る。
続けて、「大槻さんが生でコーラスを入れてくださったことがすごく大きくて、テンションが上がり、叫んでいるうちにすごく暴れたくなる衝動になったので、歌っていてとても気持ちよかったです。今となってはレコーディングしたときが一番(暴れるのに)慣れていなかった」と少し悔しがる。そして、「その後、ライブツアーでブースケを振り回しながら歌わせていただいているうちに『もっと暴れろ−!』みたいな感じになっていったので、(レコーディングを)もう1回とり直したいぐらいの気分です(笑い)。それを伝えたら大槻さんが『ロックあるあるだよ』とおっしゃっていたので、もっと歌い重ねていきたいと思います」と熱弁した。
今作の魅力を「この映画は、私の人生のいろんな夢と大好きなもの、そして愛と希望と友情と女の子とピンクとゾンビとロリータファッションと、可愛いものと不思議なものとすてきなものがいっぱい詰まった“カオスムービー”になったと思います。“サブカル”がハートにある人にとっては絶対にツボだと思うので、全員見に行ってほしい」とアピールする中川さん。続けて「女子が共感できる特撮ヒーローは初めてだと思う。ピンクだし可愛いし、カッコいいし、日本の文化で世界中から愛されているロリータファッションで、“ベイビー”(ベイビー、ザスターズシャインブライト)の衣装は宇宙で一点もの。あとは、邦画史上、最大数のゾンビも見逃してほしくない」と熱弁する。
そして、「何より出てくる人がみんなどこかダメで変だったり、ちょっとうまくいかなかったりしているけど、大切な人を守りたいという気持ちのために、みんな一生懸命生きている。だから悩んだり落ち込んだりしている人にこそ“胃薬”になる、とても元気になる映画だと思うので、ぜひ、見てほしいと思います」と語った。それでも語り足りない様子の中川さんは、最後に「繰り返し見ていくうちに味わいが変わってくると思います。時を超えて愛される作品になってほしいので、映画館で心に焼き付けてもらえたらうれしい。見どころはとにかく山のようにあるので、自分なりのここがよかったというのを見つけてほしいです。何十年後かに『好きなヒーローは何だった?』(という会話)で、ヌイグルマーの名前が出たらうれしい!」と目標を語った。映画は新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1985年5月5日生まれ、東京都出身。2002年に芸能界デビューして以来、数多くのテレビ番組に出演し人気を集める。04年11月から始めた公式ブログ「しょこたん☆ぶろぐ」でも人気を博し、ブログブームをけん引。06年には歌手デビュー。そのほか、声優やイラスト、マンガ家にドラマ出演など、多方面でマルチな才能を発揮する。井口監督とはマンガ「脳子の恋」(原作:井口さん、著作:中川さん)以来のタッグとなる。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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