マシュー・マコノヒーさんが21キロの減量をして挑み、今年発表の第86回米アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされている話題作「ダラス・バイヤーズクラブ」(ジャン・マルク・バレ監督)が全国で公開中だ。1980年代の米テキサスで実際にあった出来事を描いており、主演男優賞のほか作品賞など5部門でもノミネートされている力作だ。
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電気技師の仕事で食いつなぎ、ロデオに興じ、酒と女に目がない自堕落な生活を送るロン・ウッドルーフ(マコノヒーさん)は、ある日、自分がエイズウイルスに感染しており、余命30日であることを宣告される……。ゲイがエイズにかかり死んでいく。それだけの話ではない。そもそもロン・ウッドルーフという人はゲイではなかった。まだエイズという病気について広く知られていなかった時代。余命30日を宣告され一度は絶望しながらも猛然と病気について調べ、未承認エイズ治療薬を、政府や製薬会社の妨害を受けながらも海外から調達。やがて密売組織“ダラス・バイヤーズクラブ”を設立し、エイズ患者の希望の星になっていく。
感傷的になり過ぎず、むしろ、ユーモアあふれる表現に笑いすらもれる。マルク・バレ監督は、感動をあおるような大げさな演出は避け、ロン・ウッドルーフという男の生きざまを冷静に切り取っている。その距離感がこの作品に、甘ったるいヒューマンドラマとは異なる特別な輝きをもたらしている。脚本家の一人、クレイグ・ボーテンさんは、92年にウッドルーフさん本人にインタビューしたものの、資金的にもタイミング的にも運がなく製作は見送られてきた。20年がたち、ウッドルーフさんと同郷のテキサス出身のマコノヒーさんが興味を示し、ようやく製作に向けて歯車が回り出したという。撮影はわずか25日だったという。
そのマコノヒーさんの役作りは壮絶だ。落ちくぼんだ目にこけたほお、薄っぺらな肉体。ある種、作り込みすぎの“反則”ともいえる役作りだが、オスカー候補になるのもうなずける。一方で、やがてロンと固い絆で結ばれていくトランスジェンダーのレイヨンを演じたジャレット・レトさんにも目を見張る。ベッタリとした化粧をし、やせた肉体でしなを作る。彼もまた18キロ減量して挑んだそうだが、その“可愛い女”のなり切りぶりは、マコノヒーさんの演技に引けをとらない。この役でレトさんもまた、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。映画は22日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほか全国で公開中。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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