昨年12月に公開され、興行収入87億円の大ヒットとなった映画「永遠の0(ゼロ)」のブルーレイディスク(BD)とDVDが23日にリリースされた。メガホンをとった山崎貴監督に、改めて作品について話を聞いた。
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映画「永遠の0」が残した87億円という数字は、これまで山崎監督が手掛けてきた作品の中で最高の成績だ。それについて山崎監督は「いい映画を作りたいという思いと、ビジネスとして成立する映画を作りたいという思いがずっとあります。その意味では、たくさんの人が見てくれたことは僕にとってありがたいことですし、次の作品を作るときも、それは補助エンジンになってくれると思っています」と感謝の言葉を口にする。
原作を読んだときには、クライマックスでさまざまな情報や人々のいろいろな思いに襲われ、頭がカオス状態になったという。その「カオスな感覚」を表現するために、今作では実験的な方法を用いた。それが、映画の終盤、特攻隊員として命を散らした実の祖父、宮部久蔵の足跡をたどってきた佐伯健太郎の頭の中で、それまで話を聞いてきた人々の姿がフラッシュバックでよみがえり、その後の宮部と健太郎の邂逅(かいこう)につながるまでの一連の場面だ。健太郎を三浦春馬さんが、宮部を人気グループ「V6」の岡田准一さんが演じている。山崎監督はその演出について「ややアートムービー的というか、イメージをお客さんにぶつけたような作り方をした」と明かす。
チャレンジではあった。撮影現場でも「それまでストイックに作っているのに、あそこでファンタジーになってしまうのではないか」という反対意見が出たという。それでも山崎監督は「僕の中ではファンタジーではないんです。健太郎が心の中の宮部と出会った、健太郎がやっと宮部という人をつかまえた瞬間。でも、それは去って行ってしまう、そういうシーンのつもりだったので、反対されても絶対やると決めていました」と当時の心境を振り返る。
山崎監督は「基本的に1テイク目が好き」だという。しかしそれは、その場面が俳優一人のシーンか、複数の俳優の共演シーンかによっても変わってくる。1テイク目が必ずしもいいというわけではなく、臨機応変にやっていくしかない。ただ、善しあしを決めるバロメーターはある。それは「僕は台本も書いているし、何度もほかの人たちとディスカッションしている。だから少々のことでは僕の心は動かなくなっているわけです。そのときにちょっとでも心が動いたら、それはすごくいいものなんです」と語る。
今回の宮部役の岡田さんの演技では、新井浩文さん演じる若き日の景浦に「何人死んだと思っている」と苦しい胸の内を吐露する場面で心を動かされたという。「あの場面では、岡田君がどういう球を打ってくるかなと思っていました。あの日は、とても大事なシーンだから岡田君もすごく(演技に)入り込んでいて、普段はそんなことを言わないのに、めずらしく、『そんなに何回もできないので、よろしくお願いします』と言ったんです」と明かす。その場面の撮影前の様子は、今回収録されているメーキング映像で見ることができる。山崎監督はその映像を改めて見て、「岡田君がえらく怖い顔をしていて、そういえばこのとき怖かったなと思った」のだという。
ゼロ戦に乗る特攻隊員の姿は「太陽の光の下で撮りたい」と、東宝撮影所の駐車場にブルーバックを置いて撮っていった。「飛行機のシチュエーションに合わせて乗り込む役者さんをどんどん変えていく。それが1日中続くんです。やっているうちにわけがわからなくなって。でも、その場面にこの表情がイケているかイケていないかをジャッジしていかなければいけない。さらに背景は背景で、僕が何カ月か前に奄美大島で撮ってきた雲の映像から、ふさわしいものを探さなければならず、それは結構しんどかったですね」と思い出して苦笑する。
そういった苦労を重ね、特攻隊員がゼロ戦を操縦する様子などリアルな映像が生まれたわけだが、それは、山崎監督が得意とするVFXがあったからこそできたことだ。もしVFXが使えなかったとしたら、「さすがに逃げるかもしれない。無理ですね」と山崎監督は言う。その理由を「思ったクオリティーの映画にならないです。戦場にはゼロ戦があって、海には空母が浮かんでいてという時代を描くのに、そこを外していくとごまかしになると思う」と語る。さらに「もちろんこれまでの映画の歴史の中で、実在の戦闘機が1機あるだけで、あとはニュースフィルムを使いながら特攻に行く心情を描いた作品はあります」と断った上で、そういった作り方は「僕がやることではないような気がします。もちろん、ほかの映画に比べればすごくたくさんの製作費を使わせていただいていますが、それでも、この話を描くにはギリギリで、その中で現代のVFXなしには撮れなかったと思います」と言い切った。
ところで今作には、健太郎が「読めない」と音を上げた、元特攻隊員が書いた手紙が出て来る。その手紙を書いたのは、山崎監督の父だという。普段からお父さんに手紙をよくもらい、「オヤジの字は、達筆過ぎて半分ぐらいしか読めないんです(笑い)。あとは推測するしかない。だからちょうどいい」と思って書いてもらったそうだが、「最初は何を勘違いしたか、普段僕に送ってくる手紙とは違うきれいな楷書で書いてきて……」とそのときの様子を思い出して笑う。封書では時間がかかるため途中からファクスに切り替え、お父さんはお父さんで“息子”からのオーダーに「俺、なんか怒られてる?」と戸惑いながらも何度かやりとりをし、「ようやく狙っている、達筆過ぎて読めない」手紙が完成したという。
さて、今回発売されるBD、DVDには、ブックレットやメーキング映像などの特典がついているが、中でも注目は、「豪華版」に付いている「ARカード」だ。ARはAugmented Reality(拡張現実)の略で、コンピューターや携帯端末を利用することで、本来そこにはない映像や音楽の情報が、現実のもののように体験できる技術をいう。今回は、専用アプリをダウンロードし、カードにスマートフォンなどの携帯端末をかざすと、ゼロ戦や赤城の映像があたかもそこにあるかのように端末のモニター上に現れる。山崎監督は「ARでそれらの映像を見ていただいて、最新のテクノロジーに触れてもらえたら」と今作ならではの特典をアピールした。
<プロフィル>
1964年生まれ、長野県出身。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、86年白組入社。2000年、香取慎吾さん主演の「ジュブナイルJuvenile」で映画監督デビュー。02年「リターナー Returner」をへて、05年に「ALWAYS 三丁目の夕日」、07年に「ALWAYS 続・三丁目の夕日」、12年に「ALWAYS 三丁目の夕日’64」をヒットさせる。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(10年)、「friends もののけ島のナキ」(11年)がある。8月に八木竜一監督との共同監督作「STAND BY MEドラえもん」、11月に「寄生獣 PART1」の公開を控える。
*BD豪華版 初回生産限定仕様(特典映像、スペシャルブックレット、ARカードの封入特典)、6500円(税抜き)、DVD豪華版 初回生産限定仕様(特典はBDと同内容)、6000円(税抜き)/ともに7月23日発売/同時レンタル開始/発売・販売元:アミューズソフト (C)2013「永遠の0」製作委員会
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