2006年に韓国のドキュメンタリー番組で報じられ、本国で話題となった衝撃の実話を基に映画化した「マルティニークからの祈り」(パン・ウンジン監督)が29日に公開される。異国で麻薬密売容疑をかけられ、逮捕された平凡な主婦が、カリブ海に浮かぶマルティニーク島へ移送され、家族と再び会うために闘い抜く姿を描く。主演は「シークレット・サンシャイン」(07年)で第60回カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したチョン・ドヨンさん。妻のために奔走する夫役に「高地戦」(11年)のコ・スさん。主任刑務官役に「君と歩く世界」(12年)のコリンヌ・マシエロさん。「容疑者X 天才数学者のアリバイ」(12年)のパン監督が手がけた。
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ジョンヨン(チョンさん)は、優しい夫ジョンベ(コさん)と可愛い娘ヘリン(カン・ジウちゃん)と裕福ではないが幸せな生活を送っていた。しかしある日、ジョンベの友人が借金を抱えたまま自殺。ジョンベが保証人となっていたことで、一家は部屋を追い出され、窮地に陥る。大金稼ぎのために、金の原石をフランスに運ぶ仕事を請け負ったジョンヨンは、04年、オルリー空港で突然逮捕されてしまう。荷物は金の原石ではなく、コカインだった。何も知らなかったジョンヨンだが、言葉が分からず弁解の余地もない。一方、妻を助け出そうと、大使館に働きかけるジョンベだったが、通訳の手配はおろか全く取り合ってもらえない。やがて3カ月がたち、ジョンヨンは祖国から1万2400キロ離れたマルティニーク島の刑務所に送られてしまう……というストーリー。
主人公を演じるチョンさんの繊細な芝居に引きつけられる。主婦があれよあれよという間に、悲惨な監獄暮らしになっていくさまを真に迫る芝居で見せ、胸が締め付けられるほど。せりふの一言一言との発し方も、まるですべてを体験したかのように絶妙だ。窮地の中のジョンヨンを希望と絶望が交互に襲う……。夢だった美しいカリブ海の島で、みるみる疲弊していく姿が痛々しい。これが、実話というからなおさら胸に迫る。つらい題材ではあるが、温かさもあるのが今作の魅力で、離れた場所でお互いを思いやりながら踏ん張る夫婦愛が心に響く。一家の住む家、刑務所内、大使館内、裁判所内、シーンごとの室内美術も綿密でリアルだ。29日からTOHOシネマズ シャンテ(東京都千代田区)ほか全国で公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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