女優の永作博美さんと佐々木希さんが出演する感動作「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」が28日から全国で公開される。能登半島の海辺にたたずむ小さな焙煎(ばいせん)珈琲店を舞台に、2人の女性が人生を再生させていく姿をつづった感動作だ。コーヒーの香りがこちらにまで漂ってきそうで、ほっとひと心地つけるすてきな作品だ。
ウナギノボリ
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漁に出たまま消息を絶った父の帰りを、故郷である奥能登の海辺の町で焙煎珈琲店を営みながら待つ吉田岬(永作さん)。店の向かいの休業中の民宿には、シングルマザーの山崎絵里子(佐々木さん)が、幼い娘・有紗(桜田ひよりちゃん)と息子・翔太(保田盛凱清(ほたもり・かいせい君)と暮らしていた。絵里子はしばしば家を空けがちで、有紗と翔太は寂しい思いをしていた。子供たちが岬と交わりを持つようになったことで、絵里子も少しずつ生き方を変えていく……という展開。
心に穴の開いた人間同士が、互いに癒やし、癒やされる。その仲を取り持つのが、岬が入れるコーヒーであり奥能登の波の音だ。岬を演じる永作さんが、豆を焙煎機に入れ、色を見て、一気に仕上げる。その流れるような動きが美しく、しばし見とれてしまった。こちらまで漂ってきそうな豆の香りにも鼻腔(びくう)をくすぐられるかのようだ。女優経験もある台湾出身のチアン・ショウチョン監督が、生き方も境遇も異なる2人の女性の心を丹念に描き出した。それを後押ししたのが、ロンドンを拠点に活躍する真間段九朗さんのしっとりした映像だ。脚本家・柿木奈子さんによるさりげないせりふの数々が見る者の心の琴線に触れ、共感を誘う。子育てと仕事に追われ、心がささくれていた絵里子。演じる佐々木さんの表情が徐々に柔らかくなっていく。絵里子の心がそうであったように、見ているこちらの心も癒やされた。28日から丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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