昨年12月に20歳の誕生日を迎えた歌手の家入レオさんが、20歳になって最初のアルバム「20」を2月25日にリリースした。「miss you」「Silly」「純情」などのシングル曲のほか、これまで以上にエモーショナルで、大人になった落ち着きも感じさせる楽曲を多数収録したアルバムに仕上がっている。新作について話を聞いた。
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−−アルバム「20」は、20歳になって最初のアルバムですが、どういうアルバムにしようと考えたのですか。
1枚目のアルバム「LEO」(2012年10月24日発売)は、自分のためだけの名刺代わりの作品だったと思います。ツアーの経験もなかったので、まだどこか自信が持てない自分がいました。それで初めてツアーをやったとき、本当に届いていることを実感し、守っていきたいものを見つけました。それを受けて生まれた2枚目アルバム「a boy」(14年2月19日発売)は、自分が大人になることを決意するきっかけをくれた作品でした。
今回の3枚目のアルバム「20」は、20代の幕開けとなる作品で、楽しみがあったと同時に不安もすごくありました。でもそれは、私に限ったことではなく、どんな世代の方でも明日という未来に、希望と不安を抱えていらっしゃると思います。
前に進むということは、過去を受け入れるということ。せっかく20代になるのに、10代の痛みや苦しみと向き合わずにいたら、20代を生きながら10代の壁が形を変えてずっとつきまとうことになる。今という瞬間を生きることは、同時に過去も清算することだと思いました。結果、これまでの20年間と正面から向き合う気持ちで制作していきました。
−−テンポもミディアムとスローが中心なので、少し落ち着いた雰囲気があって、大人になった家入さんを感じました。あと、全体的にどこか大きな愛について歌っていると感じたのですが。
恋愛は意識しませんでしたが、確かに淡いアルバムになったと思います。伝えたいメッセージは以前と変わらず、純粋にそのときの気持ちだったり大切な人に向けたもので、聴いてくださる皆さんにとっても、家族や友人とのことと重ねて聴いていただけるものになっています。ただ伝え方を少し変えたので、そう思われたのかもしれませんね。
以前の私は、心の扉をコンコンとたたかれたら、私は傷つきたくないので、番犬くらいの勢いでワンワンと吠(ほ)えていました。でも今回は「中に入ってお茶でもどうですか?」と優しく迎え入れることで、心の階段を下りて来てもらえたらと思いました。心の浸透率を上げるには、やはり自分から笑顔で迎えないと相手も構えてしまいますから。そういう気持ちを軸にして作ったので、すごく柔らかくて、人によってはラブソングにも感じる曲調が多くなったと思います。
−−収録曲の「lost in the dream」はグルービーなナンバーで、リズムも心地いいライブ映えしそうな楽曲ですね。
はい。クラップ(拍手)も入っているので、ライブはきっと楽しいと思います。映画「カサブランカ」を題材にして、やせ我慢の美学じゃないけど(笑い)、相手の幸せを願う気持ちにスポットを当てて作詞しました。13歳で「音楽塾ヴォイス」に通い始めたころ、西尾(芳彦)先生から「世の中でいいと言われているものは、すべて触れなさい」と言われて。そこには必ず理由があるから、と。小説なら太宰治とか、映画のビデオもたくさんお借りして、その中に「カサブランカ」もありました。映画を見たのは昔ですけれど、今回、曲を聴いたときに感情的なものよりも、ドラマチックなもののほうが合うと思って、思い出してこういう歌詞を書きました。
歌う面ではとても難しかった曲です。感情のまま歌うだけではなく、アーティキュレーション(音と音のつながりに強弱や表情をつけること)をつけることで、心の駆け引きを描いています。サビで「よりどり」と歌っている部分は、意味よりもメロディーが呼んだ言葉で、なんの意味もないんですけど、何かが宿っている気がしたので、その語感を生かしながら、歌詞には似た発音の英語を当てはめました。今までそういう作り方をしていなかったのですが、今回は音楽を今までと違った角度から楽しんでもいいんじゃないかと思って、新しいことをたくさん詰め込んでいます。
−−「love & hate」は、ジャズやレゲエの要素もある曲調で、ちょっと夜っぽい世界観が新しい。歌詞もとても面白いですね。
ある種の支配欲をテーマにしています。きっかけは、西尾先生がスタジオにお子さんを連れて来たときのこと。まだ2歳くらいの子で、私がごはんを食べさせようと、アーンってやっているとき、ちょっとイタズラ心でヒュッと引っ込めたら、そのイジワルに気づかず笑ったんですよ。それがなんだか面白くて、何度もやってしまって(笑い)。そのとき、子どもって純粋でか弱いのもあるけど、もしかしたら支配欲を満たしてくれるから、可愛いと思うのかもしれないと気づいて。自分で自分の黒い部分にゾクッとしました(苦笑)。
たとえば好きな人が自分を頼って愛してくれたとき、相手を理解して寄り添ってあげたい気持ちも生まれるけれど、その隙間(すきま)には自分を選んでくれたことへの優越感もあるはずです。つまり、誰かを思うことの裏には、黒い何かが潜んでいる。きっと人間誰もが持っている感情だと思ったので、本能をえぐるようなタッチで書いていきました。
−−そしてアルバムの最後は、ほとんどピアノ1本で歌う「Last Song」で、しっとり終わります。
13歳からずっと見守ってくれている西尾先生をはじめ、応援してくれている大切な人たちに、思いを伝えたいと思って歌詞を書きました。デビューからたくさんの出会いがあり、心と心がつながる瞬間をいくつも感じて、もっとそういう景色を見たいと思って、歌っています。
西尾先生とは、普段はケンカとか言い合いばかりですが、日々状況が変わる中で今こうして一緒に音楽をやれていることは、すごく尊いことだと気づきました。なので、たまには音楽を通して、素直になれたらと思って。聴いてくれる皆さんは、一日の終わりにこの曲を聴いて、今日は頑張れたとか、今日はイマイチだったとか、自分自身と向き合えってもらえたらうれしいです。
−−そして、5月から始まる全国ツアーは初日が日比谷野外音楽堂(東京都千代田区)なんですね。
以前から野音でやりたいと言っていたので、それがかなうのでとてもうれしいです。私は尾崎豊さんが好きで、尾崎さんといえば野音でのライブが有名です。私もそこで、何か未来への希望がつかめたらと思っています。でも、飛び降りないように(1984年に尾崎豊さんが、野音でライブ中にセットから飛び降り、足を骨折しながらステージを続け伝説になったので)気をつけないと(笑い)。ライブでは、CDでは感じられない表情を、どんどん見せていきたい。家入レオってこんなにパワフルなんだとか、こんなに静かなんだとか、いろいろな側面を見てほしいです!
<プロフィル>
1994年12月13日、福岡県出身。13歳で「音楽塾ヴォイス」の門をたたき、2012年、17歳のときにシングル「サブリナ」でデビュー。これまでにシングル「Shine」や「Silly」などがヒット。気持ちを真っすぐぶつけた歌詞と、エモーショナルな歌声で、幅広い世代から支持を得ている。今年5月4日に東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、全国14都市15公演のツアー「家入レオ 4th ワンマンTour~20 twenty~」を開催する。
(インタビュー・文・撮影/榑林史章)
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