注目映画紹介:「ふたつの名前を持つ少年」 生き抜こうとするユダヤ少年のたくましさが希望の光に

映画「ふたつの名前を持つ少年」のワンシーン (C)2013 Bittersuess Pictures
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映画「ふたつの名前を持つ少年」のワンシーン (C)2013 Bittersuess Pictures

 ワルシャワのユダヤ人強制居住区から脱出した少年がたくましく生き抜く姿を描いた、実話を基にした映画「ふたつの名前を持つ少年」(ペペ・ダンカート監督)が15日から公開される。世界17カ国でベストセラーになった児童文学作家ウーリー・オルレブさんの「走れ、走って逃げろ」(岩波書店)が原作。四季折々のポーランドの大自然を背景に、ハラハラするストーリーが展開する。

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 1942年冬。8歳のユダヤ人少年スルリック(アンジェイ&カミル・トカチさん)は、「絶対に生きろ」という父の言葉を胸にたった一人で雪道を歩いていた。半年前の夏。ゲットーから脱出したスルリックは、森の中で子供たちだけで生活していたが、はぐれてしまい一人ぼっちになってしまった。雪の中で倒れているスルリックを助けてくれたのは、ヤンチック夫人(エリザベス・デューダさん)。スルリックは、夫人に「ユレク」と名乗る。夫人はポーランド人孤児ユレクとしての架空の身の上話を考えてくれ、キリスト教の祈りを教え、十字架を渡した。そして、スルリックはユレクとなって、ゲシュタポの目をかいくぐるためにさまざまな家を渡り歩いていく……という展開。

 この少年は、賢いだけでなく、とてつもなく足が速い。知恵と力を振り絞り、決してあきらめない。前半は子どもたちだけでサバイバルする姿に、後半は追ってくるゲシュタポをかわしながら続ける旅路にと、少年のたくましさが希望の光となって映画を貫いている。助けてくれる人があれば、密告する人もいる。さまざまな人間がいる。もうこれ以上助けられない、という瞬間も目にする。それでも少年は、自分の運命に従って生き抜いていく。胸が苦しくなるようなつらいエピソードもたくさん出てくる。が、水浴びをしてはしゃぐ子どもらしい笑顔もある。少年はたくさんの家のドアをたたいた。他人の懐に入れてもらうと、よく働いて役に立とうとした。この生き抜く術(すべ)は、どの時代にも通じるものだ。そう思うと、戦争という狂気の時代を背景にした稀有(けう)な物語が、人生の困難を乗り越える冒険譚(たん)として響いてくる。正反対の性格の双子の兄弟が主人公スルリックを演じ、繊細なシーンとアクティブなシーンを演じ分けているのにも注目したい。ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで15日から順次公開。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。「コルチャック先生」(90年、アンジェイ・ワイダ監督)も大好きな映画です。

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