アクトレス~女たちの舞台:オリビエ・アサイヤス監督に聞く「ビノシュとの時間を取り戻したいと思った」

「アクトレス~女たちの舞台」について語ったオリビエ・アサイヤス監督
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「アクトレス~女たちの舞台」について語ったオリビエ・アサイヤス監督

 フランスの大女優ジュリエット・ビノシュさんがベテラン女優の役を演じ、クリステン・スチュワートさん、クロエ・グレース・モレッツさんと共演した「アクトレス~女たちの舞台~」が24日に公開された。スター女優と若いマネジャー、若い女優とのやりとりを細やかに描き出し、華やかな芸能界の舞台裏から、ベテラン女優の葛藤や孤独を繊細に浮かび上がらせた。メガホンをとった「夏時間の庭」(2008年)のオリビエ・アサイヤス監督に話を聞いた。

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 ◇ビノシュを念頭に脚本を書いた

 主人公のマリアは、人生の岐路に立つベテラン女優。フランスの大女優ビノシュさんが演じ、観客の想像力を大いにかきたてる。アサイヤス監督がビノシュさんを念頭に置いて脚本を書き上げたという。「女優が実際に置かれる状況を想像しながら書いていきました。フィクションと現実の戯れによって、ビノシュさんがそういう人なのかも……と観客に想像してもらったら面白いと思いました」と明かす。

 ビノシュさんとタッグを組んだのは「夏時間の庭」以来。監督は2人の関係を「彼女との出会いは1985年。彼女が主演した『ランデヴー』は、私にとって初めての脚本でした。映画の成功によって監督として資金もできて、2人にとってキャリアの出発点になりましたが、その後は一緒に映画を作る機会があまりありませんでした。今回、一緒に作品を作ることで、私はなくした時間を取り戻したいと思いました。そして、テーマに『時間』を据えました」と語る。

 主人公のマリアは、若い頃に主演をして出世作となった作品のリメーク作に出演することになった。しかし主演の美女役ではなく、依頼は相手役の方だった。愛してくれない若い女性にのめり込み、破滅していく中年女性の役……。マネジャーと芝居の稽古(けいこ)をする場面では、役柄に身が入らないマリアの心情が、戯曲のせりふに映し出されて不思議な効果をもたらす。

 「難しかったのは、幾重にもなっている物語の一貫性を保つことでした。戯曲のテクストは、マネジャーとの芝居の練習と反響し合います。鏡のような効果を生むことで、ユーモアや皮肉を浮かび上がらせたかったのです。俳優とは本当につらい仕事で、実人生とは全く違う役柄と自分を一致させなければなりません。俳優の仕事は技術ではなく、他人の苦しみを理解することなのです」 

 ◇老いは経験と痕跡を残す

 映画の舞台となったのは、スイスのシルスマリア村。山々、谷、湖の美しい景色が広がり、哲学者ニーチェをはじめ、さまざまな文人や画人が創作のインスピレーションを求めて過ごした場所として知られる。「シルスマリアを舞台に選んだのは、私がよく行く好きな場所というのもありますが、多くのアーティストが住んだところでもあるからです。彼らの亡霊がいるような気がしませんか? 時が風景に描きこまれている場所だからです」とアサイヤス監督は語る。

 この地方で天気が崩れる前に起こるとされる自然現象「マローヤのヘビ」は、ドキュメンタリーのセカンドチームが、長時間かかって撮影したという。「雲はそのまま不吉なものの前触れで、私は一つの観察を行ったのです。老いに直面したマリアが、どう変わっていくのか。人生にはチャプター(章)があって、誰もが変化のときに必ず直面します」とアサイヤス監督は説明する。

 「マリアは若い頃できたことができなくなった。それを受け入れなくてはなりません。でも、人は時間経過のいい面を見るべきで、老いは経験と痕跡を残します。マリアは役を通して老いと向き合いますが、女優はまた、次の作品で違う道を歩めるという特権を持っています。ラストは、マリアに希望をもたらすものにしたつもりです」

 マリアを押しのけて主演に抜てきされた若い女優役に「ダーク・シャドウ」(12年)などのモレッツさん。マネジャーのバレンティン役には「トワイライト~初恋~」(08年)のスチュワートさんをキャスティングし、スチュワートさんに米国人女優として初めて仏セザール賞最優秀助演女優賞をもたらした。

 「モレッツさんはマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(11年)を見て、オファーしました。大人っぽい表情があるところが気に入りました。バレンティン役には必ずしもスターをと思っていたわけではありませんでしたが、お会いしたときのスチュワートさんの存在感が気に入って配役しました。彼女は素晴らしかった。私の次回作は、彼女を主演に決めています」と明かした。

 出演は、ビノシュさん、スチュワートさん、モレッツさんら。24日からヒューマントラスト有楽町(東京都千代田区)ほかで順次公開。

 <プロフィル>

 1955年1月25日生まれ。70年代にカイエ・デュ・シネマ誌で映画批評を執筆。「ランデヴー」(85年)、「夜を殺した女」(86年)などのアンドレ・テシネ監督作で脚本を手掛ける。「無秩序」(86年)で長編作デビュー。香港スターのマギー・チャンさん主演の「イルマ・ヴェップ」(96年)などを経て、再びチャンさんを主演に迎えた「クリーン」(2004年)では、チャンさんがカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。手掛けた作品はこのほかに、ジュリエット・ビノシュさん主演の「夏時間の庭」(08年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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