ジュリアン・ムーアさんが今年のアカデミー賞主演女優賞に輝いた話題作「アリスのままで」が27日から公開される。若年性アルツハイマー病と診断された女性が、薄れゆく記憶と闘いながら懸命に生きようとする姿を描く感動作だ。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーランキングに40週にわたってランクインしたというリサ・ジェノバさんの同名小説の映画化だ。
ウナギノボリ
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アリス(ムーアさん)は50歳。米ニューヨークのコロンビア大学で教壇に立つ言語学者だ。3人の子供たち(ケイト・ボスワースさん、ハンター・パリッシュさん、クリステン・スチュワートさん)はそれぞれの道を行き、医者の夫(アレック・ボールドウィンさん)と満ち足りた夫婦生活を送っていた。ところが、アリスの身に異変が起こる。講演中、突然言葉を忘れたり、ランニング中に自分の居場所が分からなくなったりし始める。不安をおぼえて医者に診てもらうと、若年性アルツハイマー病と診断される……というストーリー。
アルツハイマー病の症状が出始め、「壊れていく」自分に恐怖心を募らせるアリスの姿は見ていてつらい。彼女は言語学者で、言葉の重みを誰よりも知っているからこそ、一層、残酷さを感じる。それでも、難病ものを描く映画にありがちな、見終えて鬱々とした気分にさいなまれることはない。身につまされる話ではあるが、アリスが病気と向き合い懸命に生きようとする姿と、彼女に寄り添い支える家族の存在に勇気づけられる。言語学者ならではのアリスのせりふには印象的なものが多く、それらにも励まされる。共同監督の一人、リチャード・グラッツァー監督は、2011年に筋委縮性側索硬化症を発症し闘病生活を送りながら今作を完成させた。残念ながらアカデミー賞授賞式の数週間後、63歳で亡くなったが、グラッツァーさんの今作に懸けた情熱、そして、グラッツァーさんを最後まで支えたもう一人のウォッシュ・ウェストモアランド監督の愛情を思うと、今作が一層感慨深いものとなる。いかに人が尊厳を失わずに生きるか。アリスの姿は痛々しい半面、ものすごく雄々しい。それを表現したムーアさんの演技は、今さら言うまでもないが素晴らしい。27日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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