綾野剛:2015年は「変化」の一年 背景に“危機感”

2015年の綾野剛さん
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2015年の綾野剛さん

 初の単独主演を果たした連続ドラマ「コウノドリ」(TBS系)では産科医とピアニストの2役を演じ、高い評価を受けた俳優の綾野剛さん。今年は金髪姿のスカウトマン役で主演した映画「新宿スワン」(園子温監督)をはじめ出演映画5本が公開された。「新宿スワン」のプロデューサーと脚本(筆名・水島力也)を務め、綾野さんの所属事務所の代表でもある山本又一朗さんは「あるところまで到達した一年。主役以外を演じるのはもったいないというイメージもつき、2015年は世が彼を変化させた年だった」と明かすが、綾野さん自身も変化を遂げた一年だった。周囲へのインタビューや綾野さん自身の言葉から、その背景を探った。

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 ◇「このままだと作品に敗北する」

 今年公開された映画では、「新宿スワン」での歌舞伎町のスカウトマンをはじめ、「ピース オブ ケイク」(田口トモロヲ監督)で主人公の恋愛相手、「天空の蜂」(堤幸彦監督)ではテロリスト、「ソレダケ/that’s it」(石井岳龍監督)ではギャングのボス、「S-最後の警官-奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE」(平野俊一監督)ではスナイパーと多種多様な役柄を演じ、ドラマ「コウノドリ」では産科医とピアニストを演じ分けた。

 綾野さんはそれぞれの作品の演じ分けについて「大変だった。改めて役と向き合うことがこれほど大変なのかと思わされた作品ばかりだった」と15年を振り返る。今年2月には昨年公開された主演映画「そこのみにて光輝く」(呉美保監督)で、「第69回毎日映画コンクール」「第88回キネマ旬報ベスト・テン」の主演男優賞など数々の賞に輝いたが、授賞式では「このままだと自分が作品に敗北する」という危機感を見せていた。

 「そこのみにて光輝く」以来の主演作品となった「新宿スワン」では、これまで演じてきたイメージには無い、喜怒哀楽を全面的に出しながら、どんな障害にも前向きな姿勢でぶつかっていく痛快な役柄を演じた。綾野さんは山本さんにも自らの考えや“スタンス”を訴えるなど、並々ならぬ熱意で役に挑んでいたといい、共同プロデューサーを務めた富田敏家さんも「今までの綾野剛のイメージを全て捨てて挑んでいた」と明かす。

 ◇想像を絶する役への没入 ストイックさは「危機感から」

 「コウノドリ」では、「新宿スワン」とは真逆ともいえる産婦人科医・鴻鳥サクラとジャズピアニスト・BABYの2役を演じ、柔和な演技が話題を呼び新たなファンを取り込んだ。髪形や体形を原作に寄せるのはもちろん、「うそがある芝居はできない」と、ドの位置がわからないくらいの初心者だったが、ピアノを購入して自宅で半年以上練習に励んだ。

 同作の峠田浩(たわだ・ゆたか)プロデューサーは「演技についてもすごく勉強していた印象。自分たちが思っている以上に病院の先生に連絡をとって病院へ見学に行ったりと、綾野さんの役への入り込み方は想像を絶します」と明かす。

ピアノ指導を担当したピアニストの清塚信也さんも「(綾野さんは)根拠のない自信は一つもなく、できることよりも、できていないところを気にするタイプ。彼のストイックさはそんな危機感からきているのではないでしょうか」と分析する。

 数々の映画賞を獲得しながらも、“勘違い”したり、おごったりすることなく、役に真摯(しんし)に向き合ってきた綾野さん。16年には主演映画「日本で一番悪い奴ら」(白石和彌監督)など4作(前後編含む)の公開がすでに発表されているが、「まずは出演が決まっている作品を完走したい。役を生きて、役を呼吸して、皆さんにきちんとお届けするという心構えを改めて持ちたいと思う」と話す。「このままだと自分が作品に敗北する」という“危機感”にあらがうかうのように、自らを“更新”していく俳優・綾野剛のさらなる変化に期待したい。

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