シーズンズ 2万年の地球旅行:ジャック・クルーゾ監督に聞く「本当に森にいるような臨場感と心地良さ」

映画「シーズンズ 2万年の地球旅行」について語ったジャック・クルーゾ監督
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映画「シーズンズ 2万年の地球旅行」について語ったジャック・クルーゾ監督

 「WATARIDORI」(2001年)、「オーシャンズ」(09年)など驚異のネーチャードキュメンタリーを作ってきたジャック・ペラン監督とジャック・クルーゾ監督のコンビで贈る最新作「シーズンズ 2万年の地球旅行」が15日に公開された。動物から見た地球の歴史をストーリーの柱とし、森の移り変わりと野生動物の営みを、季節の中に映し出している。極寒の撮影に耐え、最新の撮影機材を駆使しながら、野生動物たちの迫力ある表情をカメラに収めた。このたび来日したジャック・クルーゾ監督は「映画館にいる観客がまるで自然の森の中にいるように再現できた」と満足げにほほ笑んだ。

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 ◇これはドキュメンタリーではなく「物語」

 映画は、氷河期の終わりから始まる。猛吹雪の中、身を寄せ合うジャコウウシ、トナカイの列、卵を温めるシロフクロウの姿……。1万2000年前、太陽を回る地球の軌道が変化して、地上は暖まり森が誕生した。四季が始まって、動物たちが子育てに勤しむ。夏、秋、冬と季節は巡りながら数千年の時が過ぎ、やがて人間が現れ、動物も姿形を変えていく……。

 「これはドキュメンタリーではありません」とクルーゾ監督は断言する。というのも、撮影前に、通常のフィクション映画のように数十枚に及ぶコンセプトボードと脚本を用意したからだ。歴史学、動物行動学、人類学、哲学、民俗学、植物学の学者とともに、「時間」をテーマに物語が作り出された。

 「私たちはドキュメンタリーではなく“映画”を撮りたかったのです。それは、『単に野生動物を撮影したものではない』という意味です。2万年の地球の歴史を動物の視点を通して描きたいと思いました。人間の営みが動物にとってどう見えていたのか。映画を見た人間がどんなふうに感じるのかを示したかったのです」

 とはいえ、動物と人間の歴史の膨大なエピソードから、何を選択するかは至難の業だったという。最初の段階で3時間を超えていた脚本を半分にし、撮りだめた映像を編集してみると3時間になってしまい、何度も編集し直した。

 「脚本では動物たちの登場の配分までを考えていました。もちろん、相手は自然なので準備の通りにはいきません。でも、どういう方向で画(え)を撮りたいのか、語りたいストーリーが頭の中にあったので、あとは自然を注意深く見るだけでした」

 カメラの指針となったのが「動物の視点」というコンセプトだ。「観客にカメラの存在を忘れさせることに重点を置いた」とクルーゾ監督は話す。

 「動物の目の位置よりも高い位置にカメラがこないように気を配りました。ドローンカメラで空撮するときも、カケスが狩りをしているときの視点と速さでカメラを移動させます。動物のよくいる場所、動線上にカメラを固定し、動物の目からじっと見ているような風景を目指しました。例えばハリネズミのような小動物では、ローアングルで狙うために地上1センチくらいのところにカメラを置くために穴を掘るなどの工夫をしました」

 ◇映画館を包み込む音にも注目してほしい

 過去2作品を製作した頃に比べて、撮影技術も進歩した。「WATARIDORI」で鳥の群れと並走して撮影を行ったマイクロライトプレーンは軽量化された。さらに、サッカースタジアムなどで使われるケーブルにつり下げて移動させるカメラを世界で初めて森に設置して、白馬が疾走するシーンを収めた。今作のために開発された駆動音の小さい電動バギーにステディカムを搭載し、走るイノシシやオオカミの目線と同じ高さで撮影した。使用されたのはソニー製の8Kカメラだ。

 「もしフィクション映画で使われたら、メーキャップの刷毛(はけ)のあとまで見えてしまうほどの高性能カメラです。それによって、動物の毛並みや鳥の羽毛まで細かくとらえることができました。親鳥がヒナに餌をあげている映像は皆さんもよく目にしたことはあると思いますが、今作では餌そのものを見ることができます。動物の解剖図を絵で残すように精密なものを残すことができました」

 映像の精密さだけでなく、音にも注目してもらいたいという。

 「ドルビーアトモスというシステムを導入しました。音が映画館全体を包み込むようなスピーカーのシステムです。天井を含む全周から音が聴こえて、まるで森の中にいるような臨場感と心地よさを感じてもらえると思います。3D映画や爆撃シーンなどで使われますが、私たちはそれを控えめな形で使い、自然の認知と同じように再現できました」

 狼の「クウーン」という鳴き声や、走る馬のひづめの音、突然の雷雨……驚異の映像は音と相乗効果をなしている。やがて豊潤な森が、戦争、環境汚染によって黄金期を終えるところまで物語る。クルーゾ監督は「山の斜面を開拓して無理に畑にすることはなくなりました。今また自然が戻りつつあります」とし、「人類と野生動物の共生は可能である」と希望的な未来を語った。

 共同監督は、俳優、製作としても活躍するジャック・ペラン監督。日本語版ナレーション吹き替えキャストは落語家の笑福亭鶴瓶さんと女優の木村文乃さん。15日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほかで公開中。

 <ジャック・クルーゾ監督のプロフィル>

 1979年生まれ。パリ第8大学映画科を卒業。ペランさん、ミッシェル・デバさんと「WATARIDORI」(2001年)で共同監督。「WATARIDORI~もうひとつの物語~」(01年、テレビシリーズ)でも監督を務めた。「オーシャンズ」(09年)の脚本共同執筆と海洋、海中撮影用の特殊技術の共同開発に携わり、仏セザール賞ドキュメンタリー賞を受賞。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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