ディズニー/ピクサーの最新アニメーション映画「アーロと少年」(ピーター・ソーン監督)が12日から公開される。恐竜の子供アーロと人間の子供スポットが、冒険を続ける中で友情を育んでいくファンタジー作だ。正直なところ、映画を見るまではアーロもスポットもチャーミングとは思えず、よって、作品そのものにもそそられなかった。ところが……。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
畑を耕しながら暮らす恐竜アパトサウルスの一家。末っ子のアーロは、3兄姉の中で最も体が小さく臆病者で、何をしても失敗ばかり。そんな彼を温かく見守っていたパパが、ある日、嵐に巻き込まれ死んでしまう。悲しみにくれるアーロの前に、パパを失う一因を作った人間の少年が現れる。少年を追いかけたアーロだったが、川に落ち、見知らぬ土地に流されてしまう。家への道が分からず途方に暮れるアーロ。そんな彼の前に、あの少年が再び現れ……というストーリー。
映画が始まるや、流れる川の水や風にそよぐ木など、実写と見まごうばかりの映像に目を奪われた。しかし、次に現れた恐竜はつるんとしていて、もろにアニメチックだ。しかもやっていることは、土を耕し、農作物を植え、それを収穫するという人間並みの営み。ありえない。ありえないが、そもそもこれは、今から6500万年前、隕石(いんせき)が地球にぶつからなかったとしたら……という仮定のもとに話が展開していく。そのあり得ない話を支える、徹底的なまでのリアルな自然描写。そこに息づくキャラクターはデフォルメされているが、その仕草には真実味がある。恐竜のしっぽや、スポットの毛髪の動きにすら感情を通わせるピクサーの演出力には、感嘆せずにいられない。この、リアリティーとデフォルメの対比の妙と、人間の子供が野生児のように描かれ、恐竜が文化を持ち言葉をしゃべる(!)という逆転の構図がまた新鮮で、当初、さほどチャーミングに見えなかったアーロとスポットは、動くごとに輝きを増し、2人が友情を育み、数々の試練を切り抜けていく姿には、心底感動させられた。斬新な物語とアニメーションだからこそできた表現。ピクサーの目の付けどころは、やっぱり別格だ。
同時上映は、インド系移民の父との幼い頃の体験を基に作り上げたというサンジェイ・パテル監督による短編アニメーション「ボクのスーパーチーム」。こちらも本編に劣らずすてきな作品だ。なお、「アーロと少年」は日本語吹き替え版のみの上映で、アーロの声を石川樹さん、ママの声を安田成美さんが演じるほか、松重豊さん、八嶋智人さん、片桐はいりさんが、アーロとスポットが旅の途中で出会うTレックス一家の声を担当している。12日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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