狂言師の野村萬斎さんが現代劇に初挑戦した主演映画「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」(金子修介監督)が公開中だ。映画は、残留思念(物や場所に残った人間の記憶や感情など)を読み取ることができる元お笑い芸人の男が、元相方とともに事件解決に挑む姿を描いている。特殊能力を持つ主人公の仙石和彦を萬斎さん、仙石の元相方・マイティ丸山をお笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんが演じている。今作のオリジナル脚本を手がけた「ALWAYS 三丁目の夕日」や「探偵はBARにいる」などで知られる脚本家・古沢良太さんと、メガホンをとった金子監督に話を聞いた。
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オリジナルストーリーが展開する今作の脚本作りを、金子監督は「当初プロットを前にして、プロデューサーと古沢さんとどうしていこうかと意見を言い合い、それで(古沢さんに)まとめもらい、さらに意見を言ったりしました」と完成までの経緯を説明する。「掛け合いがすごくうまいし、意表を突く展開。細かい伏線の張り方や回収の仕方はさすが」と金子監督が脚本の出来を絶賛すると、古沢さんは「ありがとうございます」と恐縮する。
さらに金子監督は、「ポンポンポンという掛け合いが独特で、バディームービーというか、コンビものにぴったり」と脚本の特徴を指摘し、「宮迫さんもはまっているから当て書きなのかと思われるかもしれないけれど、本当は当て書きじゃない。ほかのキャストもみんなも違い、萬斎さんだけが当て書き」と打ち明ける。
古沢さんは金子監督の話にうなずき、「もともと萬斎さんで何かをやりませんかというところから始まっているのですが、萬斎さんはすごく面白い俳優さんだと思っていたので飛びつきました」と今作に参加したきっかけを語り、「すごく変わった人だろうなとは思っていたので、ちょっと変わった主人公にしようと決めて作りました」という。
主人公の仙石が残留思念を読み取れる能力を持つなど、今作は「記憶」がテーマになっている。「いくつか違う案もあったのですが、人の記憶や、世の中で起きていることも何が本当なのか分からないし、結局それぞれがそれぞれ都合のいいように解釈している」と古沢さんは切り出し、「そういうのをひもといていく物語は、クライマックスも盛り上がる感じがしたので、このプロットを作ってみたという感じです」とテーマ決定を振り返る。
すると金子監督が、「考えてみると仙石の能力がなかったら、まったく表に出ないというか、隠されたまま終わって、誰も何も知らないままという話。仙石の能力があったからこそ、この物語になっているという意味では、独創的な物語。本当は(こういうことは)人に言ってもらわなければいけない。自分たちで言うとあれだけど(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに話す。
古沢さんも「物理的なトリックよりも人の心の中が一番謎」と持論を語り、「そこをひもといていくという探偵がいたら面白いなと思っていた」と仙石誕生の経緯を明かす。スキャニング能力は生きている人間には難しいという描写があるが、「そのアイデアは監督が出したと思います」と古沢さんがいうと、「生きている人間の思念を読めたら、普通の超能力者と同じになってしまう」と金子監督は「残留思念」にした意図を説明する。
大きな声を出さず、姿勢もよくないという、狂言とは真逆の役を演じる野村さんの演技は、今作の見どころの一つだ。特にスキャニングを行うシーンは、状況に合わせてバリエーション豊富だが、「台本にはスキャニングすると書かれていて、萬斎さんの方から『手が光るみたいな効果はやるのでしょうか』という質問が出てきたけれど、それは絶対にやらないつもりだった」と金子監督は明かし、「お芝居でスキャニングしている、残留思念を読んでいるというふうにしたかった」とこだわりを語る。
撮影現場では「萬斎さんが指の動きなどをやってくれると、本当に残留思念を読んでいるように見える。そこはきっと古沢さんも最初に実は思っていたのでは」と金子監督が投げかけると、「萬斎さんがどういうふうにやってくれるのかというのが楽しみでした」と古沢さんは笑顔で返す。
仙石という特異なキャラクターが主人公のためか、金子監督は「(仙石演じる萬斎さんの)登場がすごくカッコ悪いところから出てくるけれど、それで共感を得てほしい」と切り出し、「お客さんに言ってはいけないのかもしれないけれど、そこから最後はカッコよく見えるようにしたいというのがあるから、カッコよくなるまで我慢してください(笑い)」とフォロー(?)を入れる。
最近では珍しい完全オリジナル作品だが、金子監督は「面白いストーリーをみんなで作っていかなければならない苦しさはあるのでは」と話し、「それをなくしていくと、ちょっと(映画業界が)弱っていってしまうのではと思うので、映画発信のオリジナル作をやっていかないといけない」と持論を語ると、古沢さんも「そうですね」と力強くうなずく。
映画を取り巻く環境を、「映画を見に行って映画だけを見るということよりも、原作も読んでみたいとか、“プラスアルファ”や“おまけ”が欲しいという時代背景もあるのかな」と金子監督は分析し、「それは分かるけれど、やっぱり映画だけでその作品を見たいということができれば、もっと我々の仕事も発展し、お客さんも増えるのではとは思っています」と思いを語る。
神妙な表情で聞いていた古沢さんは「自分で小説にもしたし、もんでんあきこさんという方がマンガにもしてくださったし、映画発で他のメディアに、ということもできているので、してやったという達成感はあります」と充実感をにじませる。
今作の見どころを、古沢さんは「特殊能力を持った風変わりな探偵ものだけれど、物語は人間ドラマというか人の心を描いたものだと思っているし、仙石の心の在り方も変わっていくあたりを楽しんでほしい」と語ると、金子監督は「物語の中でそれぞれの俳優さんの個性、芝居は見どころ」と力を込める。そして、「見た人は自分の人生や記憶、思いなどを映画に照らし合わせて、ちょっとでも豊かに感じてもらえれば」とメッセージを送る。
仙石の過去については多くを語られていないため、続編の可能性を聞くと「どうなるか分からないですけど、ぼんやり考えてはいます」と古沢さん。すると金子監督は「早く次をやりましょう」とせっつく。さらに「コンビもいいけど、(杉咲)花ちゃん(演じる亜美)を入れたトリオもいい」と金子監督が続編のアイデアを出すと、「仙石も丸山も(人探しの依頼を)結構、嫌々やっていて、それをあと押ししているのが花ちゃんなのでトリオがいいですね」と古沢さんも楽しそうに同意した。映画は全国で公開中。
<古沢良太さんのプロフィル>
1973年8月6日生まれ、神奈川県出身。「アシ!」(2002年)で第2回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞を受賞しデビュー。「ALWAYS 三丁目の夕日」(05年)で第29回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、「探偵はBARにいる」(11年)で第35回日本アカデミー賞優秀脚本賞を獲得。主な脚本作に、ドラマは「相棒」シリーズ、「リーガルハイ」シリーズ、「デート~恋とはどんなものかしら~」など、映画は「キサラギ」(07年)、「寄生獣」シリーズ(14,15年)、「エイプリルフールズ」(15年)などがある。
<金子修介監督のプロフィル>
1955年6月8日生まれ。東京都出身。84年に映画監督デビュー。同年に第6回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞する。「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95年)では第38回ブルーリボン賞監督賞に輝く。主な監督作に「毎日が夏休み」(94年)、「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(2001年)、「デスノート」(前・後編、06年)、「プライド」(09年)、「ばかもの」(10年)、「百年の時計」(12年)、「少女は異世界で戦った」(14年)など。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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