「どついたるねん」「大鹿村騒動記」などで知られる阪本順治監督が18日、名古屋市内で最新作「団地」(6月4日公開)の取材に応じた。阪本監督が藤山直美さんと16年ぶりにタッグを組んだ作品で、岸部一徳さん、大楠道代さん、石橋蓮司さんという常連キャストに、斎藤工さんが加わった。阪本監督に、藤山さん、斎藤さんの魅力、作品について聞いた。
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映画は、阪本監督のオリジナル脚本。大阪近郊にある古ぼけた団地を舞台に、藤山さんと岸部さんが演じる山下ヒナ子・清治夫婦、石橋さんと大楠さんが演じる行徳正三・君子夫婦を軸にした奇妙な人間関係が描かれる。引っ越してきたばかりの山下夫妻は団地のうわさの的。ある日、清治がささいな出来事でへそを曲げ、床下に隠れてしまうと、団地の住民の間で清治が「殺されている」とうわさになり……と展開する。
「俳優の誰とやりたいという気持ちが強い。誰と何をするかが大事」という阪本監督。今回は藤山さんのスケジュールが確保できたことをきっかけに、企画や脚本が出来上がった。その魅力について「舞台俳優として集客、人気度も含めナンバーワン。その人が、演じることの怖さをいまだに抱えて、自分の限界に臨んでいる。そこが、またやってみたいと思わせる部分」と語り、「喜劇って“凶暴”じゃないとできない。俳優を選択したというよりは、神様に選ばれてしまった人」とたたえる。
藤山さんが演じるのは、大きな悲しみを隠しながら、日々を淡々とこなす平凡な主婦。阪本監督は脚本を「藤山さんへのラブレターみたいなもの」と表現し、「(藤山さんが)私はどうやってこの世界観を演じればいいの?っていうスリル、怖さを感じてもらえるもの(脚本)を渡したかった。そこに愛を感じてくれればいいと思った」と振り返る。
一方で「藤山さんありきの映画ですけれど、僕の中に『大鹿村騒動記』もあるのかな」といい、「大鹿村騒動記」を遺作に2011年に亡くなった原田芳雄さんの名を挙げ、「原田芳雄さんがいたら、(映画が)あと15分長くなっていたね。たぶん駐車場でギターを弾いているんじゃないかな」と笑顔を見せる。「原田さんは『面白いの上におかしいがある』『人生すべからく喜劇』と言っていた」と振り返り、「『おかしい』はストーリーやシチュエーションではなく人で表すもの。だからキャスティングは大事だし、喜劇を担える人はシリアスも担える」というのが持論だ。
そんなキャスティング重視の阪本監督作品に、初めて出演したのが斎藤工さん。斎藤さんは阪本監督の大ファンで、今回、念願の出演となった。「効果“きしめん”だよ」などとおかしな日本語を使い、立ち居振る舞いも妙……という摩訶(まか)不思議な人物・真城を演じる。
阪本監督は、斎藤さんについて「『変わったやつだよ』と聞いていて、ネットで発言などを見て『だいぶ変わっているな』と思った」とジョーク交じりに語る。「事務所に守られて、自分のイメージを自覚して仕事しているタイプではない。ジプシーみたいに冒険をしている。(それは)自分を頼りにしないとできないこと。そこがすてきなのかな」と評価し、今回の役を「地面から10センチぐらい“浮いている”ような役。こういう役をやるっていうのに喜んでくれた」とうれしそうな表情を見せた。
喜劇だが、作品には阪本監督の死生観が表れている。仏壇店を営む実家で過ごしたことから「幼い頃から人の死と向き合う商売を見てきた。『人は亡くなってどこへ行くのか』というのが、幼少時代からの謎。存在がなくなるのは分かる。でも生きてきた証し、思想、感性とか、そういうものも全部消えるのか……と考えてきた」といい、団地を舞台に選んだのも「昭和40年代に建てられた団地は社会の縮図。高齢化で、いまは“お見送り”をする場所かもしれない」と考えたからだ。
後半、物語は急展開を迎える。「お客さんをできるだけ“遠い”ところ、経験のないところに連れて行きたいと思っているので、きてれつな展開になったんです」と展開に含みを持たせ、「生まれて死を迎える。それを僕なりの喜劇にした。重たいテーマを軽妙にやるのが好きなんです。喜劇だからこそ、今、自分たちが生きている世界、社会、行く末まで、思いをはせられる最後にしたかった」と語った。
さかもと・じゅんじ。1958年。大阪府出身。89年、赤井英和さん主演の映画「どついたるねん」で監督デビューし、同作で芸術選奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞などを受賞。藤山直美さん主演の「顔」(2000年)で日本アカデミー賞最優秀監督賞、毎日映画コンクール日本映画大賞、監督賞などを受賞した。
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