ファインディング・ドリー:「映画作りはパズルのピースをつなげるようなもの」 スタントン監督&製作のコリンズさんに聞く(上)

劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」を手がけたアンドリュー・スタントン監督(左)とプロデューサーのリンジー・コリンズさん
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劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」を手がけたアンドリュー・スタントン監督(左)とプロデューサーのリンジー・コリンズさん

 2003年に公開され大ヒットした「ファインディング・ニモ」の続編「ファインディング・ドリー」のMovieNEX(ブルーレイディスクとDVD、スマホで本編が見られるデジタルコピー、購入者限定のスペシャルサイトのセット)がリリースされた。メガホンをとったのは、前作に引き続き、アンドリュー・スタントン監督。スタントン監督とプロデューサーのリンジー・コリンズさんに米国のピクサースタジオで話を聞いた。上下の2回にわたってインタビューを掲載する。

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 ◇忘れんぼうのドリーが主人公

「ファインディング・ドリー」は物忘れの激しいナンヨウハギのドリーが主人公。前作「ファインディング・ニモ」で、カクレクマノミのマーリンと出会い、人間にさらわれた彼の愛息ニモの救出劇に一役買ったドリー。今作は、その冒険から1年後、グレートバリアリーフのサンゴ礁で幸せに暮らすドリーが、今度は、ニモとマーリンの助けを借りながら、自分の家族を探す旅が描かれている。

 ◇海の生き物を描くにあたって気をつけたこと

 ――「ファインディング・ニモ」も「ファインディング・ドリー」も世界中で大きな成功を収めました。その理由はなんだと思いますか。

 アンドリュー・スタントン監督:ニモが世界中で人気になって、ホームビデオの人気にも驚かされた。世界で一番売れたDVDだ。つまりみんな家で何度も作品を見てくれている。「ファインディング・ニモ」を見て育った、「ジェネレーション・ニモ(ニモ世代)」と呼ばれる層があるくらいだ。「スター・ウォーズ」はそうだと思うけど、すべての続編がそういった状況で作られているわけではない。その(ファン層が確立しているという)恩恵を受けることができて幸運だったね。

 リンジー・コリンズさん:ええ。みんな「ファインディング・ニモ」を見ているはずよね。ほぼ100%の人が。だからすでに観客はいて、次に何が起こるか見たいと待っていてくれるのはとても幸運だったわ。

 ――映画本編のシーンで、何度も繰り返し見てほしいのはどのシーンですか?

 コリンズさん:主人公が「忘れんぼう」という設定が(物語を作る上で)いかに大変だったかということを、クリエーターたちがボーナス映像の中で語っているわよね。これを見た後に本編を見た人が「ファインディング・ドリー」をここまで作り上げるのがどんなに難しいことだったかを理解してくれることを願っているわ(笑い)。

 スタントン監督:見てほしいシーンを選ぶのは難しいな。僕はいつも映画の核となる部分を見て、ちゃんとうまくできたかを確認する。そこが一番気になる部分だからね。脚本を書いている立場だからかもしれないが、いつもメランコリーな部分を見てしまう。だから、ドリーが一番落ち込んでいる、海の中で独りぼっちになって過去を再発見するシーン。それから、これは見ていない人にとってはネタバレになってしまうが、家族と再会するシーンかな。これらのシーンはトーンだけじゃなく、物語全体の基盤となっている部分をうまく作り上げることができたと思っている。

 ――海の生き物を描くにあたり、おそらく人間や動物をデザインするよりも難しかったと思いますが、どういう苦労があったのでしょうか。例えばベイリーやデスティニーの目は離れていますよね。

 スタントン監督:顔の横に目があるとかいったことは確かに問題ですが、なるべくその生き物の生理学的特性とか外見からそれないようにしているよ。実は、マーリンとニモのモデルとなった魚は同じく馬のように目が離れているけれど、それは採用しなかった。あまりに目が離れていると人間っぽさがなくなるからね。ベイリーは脇役で笑いを取るキャラクターだからそれが許される。ベッキーも鳥らしく描くことができる。必要があれば実物とは変えるが、ほとんどの場合はその生き物の特性を生かすようにしている。

 コリンズさん:変える理由の一つとしては、サイズ感の問題もあるわ。デスティニーとドリーの大きさの差がものすごいとか。でっかいクジラと小さな魚を一つの画面に収めるのにはいろいろと問題があった。それと同時にキャラクターに親密さを出したりといった遊びを入れるのが楽しかったわ。

 スタントン監督:それが映画作りの醍醐味(だいごみ)でもある。僕たちフィルムメーカーは常に問題を解決しようとしている。物語であれビジュアルであれ、映画作りはパズルのピースをつなげているようなものだ。そういう問題を解決するのは楽しいし、解決することができるか、というのが日々のモチベーションとなる。すべてが簡単だったら、寝ていても映画はできるからね。

 ――ボーナス映像「もうひとつのオープニング集」には未公開のオープニングシーンが五つも収録されていますが、最終的に実際に公開された映画のオープニングに決まった理由はなんですか?

 スタントン監督:いくつ目かは忘れたけれど、実際にベビー・ドリーの声を担当したリンジーの娘がアフレコを担当したベビー・ドリーがアップでカメラの方を向くオープニングシーンがあるが、このシーンができたときに「これこそがオープニングシーンになるべきだ」と皆が思ったよ。ただ、初期のバージョンは複雑すぎたので、そこからさらに練り直して、いくつかの段階を得て両親とのかくれんぼのシーンに行きついたんだ。オープニングシーンは、この未公開シーンで見られる「ベビー・ドリーがアップでカメラの方を向くシーン」ができた瞬間に確定しました。

 ◇欠点こそが最大の強みになり得る

 ――親子が一緒に作品を見る機会もあると思いますが、どういうメッセージを受け取ってほしいですか。

 スタントン監督:主体性というか、自信……というか自己認識だね。どんな親も子供には自分で自分の問題を解決できるようになってほしいと思っている。子供が思っている以上にうまく解決できるように。誰も独りぼっちになるために生まれてきたわけではないが、もし独りぼっちになった時、どれくらい自分でやっていけるか。自分でやっていけるという自信がどれだけあるか。ドリーの物語はそれを教えるのにちょうどいい。

 コリンズさん:そう。それに、誰もが何らかの欠点を持っているもの。でも力をつけていこうと頑張るうちに、その欠点こそが本当のスーパーパワーだということが見えてくる。欠点こそが最大の強みになり得る。視点を変えるだけでいいの。他の人からは、「あなたのそういうところが好き」と言われたりする。それこそが、みんながドリーを見ている視点なの。ドリーが忘れんぼうだからあまり好きじゃないという人は誰もいないわ。ドリー本人以外はね。彼女自身は自分のことを恥ずかしく思っていたり、心配していたりする。だから彼女に自信を持ってほしかった。

 スタントン監督:これを告白するのはちょっと恥ずかしいんだが、この作品がハンディキャップを抱えているキャラクターを描いたものだとは僕はこれっぽっちも思ったことはなかった。でも、ハンディキャップを抱えた子供を持つたくさんの親たちから感謝の言葉をもらった。障害を持つ子供たちが克服しなければならないことなどがたくさん描かれているという。でも僕はそれを狙っていたわけではない。僕はドリーのことを自分の弟や妹と同じくらいよく知っているけど、あまりに長く知っていると、例えば目の色とか身近なことは、忘れて気づかないこともある。その人そのものしか見ていないからね。だから、僕にとってはドリーはドリーでしかなかった。ハンディキャップを克服する物語を描いているとは考えていなかったんだ。でもそう言われると、確かにそうなんだね。

<アンドリュー・スタントン監督のプロフィル>

 1965年生まれ、米マサチューセッツ州出身。カリフォルニア芸術大学でキャラクター・アニメーションを学び、90年、ジョン・ラセター監督に次ぐ2人目のアニメーター、および9人目の社員としてピクサーに加わった。現在はクリエーティブ部門のバイスプレジデントとしてすべてのピクサー作品を監修している。監督、脚本を務めた「ファインディング・ニモ」(2003年)と「ウォーリー」(08年)は、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。「トイ・ストーリー1~3」(1995年、99年、2010年)では脚本を担当。

 <リンジー・コリンズさんのプロフィル>

 ロサンゼルスのオクシデンタル大学 で外交・国際問題を専攻。ピクサーに入社する以前は、ディズニー・アニメーション・スタジオで「ポカホンタス」「ノートルダムの鐘」「ヘラクレス」ではクリエーティブチームの管理を担当していた。ピクサーに1997年5月に入社。「バグズ・ライフ」「トイ・ストーリー2」に加え、「ファインディング・ニモ」「レミーのおいしいレストラン」などの製作に関わる。「ウォーリー」では共同製作を務めた。2006年公開の「カーズ」では、ミア(マックィーンの熱狂的ファンである、双子の小型スポーツカーの1人)の声優を担当した。

 (取材・文・撮影:細田尚子/MANTAN)

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