ファインディング・ドリー:「次はファインディング・ハンクかな」 スタントン監督&製作のコリンズさんに聞く(下)

劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」を手がけたアンドリュー・スタントン監督(左)とプロデューサーのリンジー・コリンズさん
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劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」を手がけたアンドリュー・スタントン監督(左)とプロデューサーのリンジー・コリンズさん

 2003年に公開され大ヒットした「ファインディング・ニモ」の続編「ファインディング・ドリー」のMovieNEX(ブルーレイディスクとDVD、スマホで本編が見られるデジタルコピー、購入者限定のスペシャルサイトのセット)がリリースされた。メガホンをとったのは、前作に引き続き、アンドリュー・スタントン監督。スタントン監督とプロデューサーのリンジー・コリンズさんに米国のピクサースタジオで話を聞いた。

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 ◇若い才能に早くチャンスを与えてきた

 ――ピクサーは昨年30周年を迎えました。ピクサーの作品はどれも高い評価を受け、人気があります。これはおそらく若いクリエーターの教育など、ピクサーの社風が影響しているのではないかと思うのですが……。

 コリンズさん:その通りだと思う。初期の頃から若い才能あふれる人々を集めて、できるだけ早くチャンスを与えてきた。だからこの会社は初期に素早く成長したのだと思う。「トイ・ストーリー」が公開された頃にね。その初期の成長期からいるスタッフが今もまだたくさんこの会社にいるのは素晴らしいことだわ。そのために、物語を作る共同作業にも大きなメリットが得られる。共同作業は大変。よく冗談で「失敗のために共同作業している」と言っているの。だって、作品を作り始めて最初の3、4年、つまり、うまくいく直前まではずっと失敗しているのだから。失敗している時の共同作業は大変なの。失敗は恥ずかしいし、心細いし、傷つくし。だからこの会社が作りだした長年の付き合いの家族のような社風には、それを癒やす働きがあると思う。もちろん常に新しい人たちも入ってきているけれど。クリエーターたちの家族のような雰囲気があるからこそ、「さあ、長くつらい工程だがもう一回やるぞ」という気にさせてくれるのでしょう。

 スタントン監督:つい先日、この先10年間に製作する長編映画についての会議をしていたんだが、面白いのは、ボードに書き出されたのは作品名ではなく監督名だった。それが僕にとっては大きな意味を持った。僕たちは常に、作品ではなく、人材に投資をしてきた。というのは、人こそが作品を決めていくものだから。僕はこのことをとても誇りに思う。

 コリンズさん:ボードに監督の名前が書かれることね。彼らに、物語を語る機会を与える、ということ。それができるなんて、私たちは幸運だわ。

 ◇宮崎駿監督の作品に戻ってしまう

 ――最近の日本の作品で見ているものや気になるものはありますか?

 スタントン監督:最近の作品はアニメも含めて特に見ていないな。だから申し訳ないんだが、やはり宮崎駿の作品に戻ってしまう。彼の作品なら何でも。年を取ると余計に古い作品に戻るようになるね。だから「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」を見る。それに「風の谷のナウシカ」も。

 ――日本では、ニモとドリーはもちろん、ベビー・ドリーやタコのハンク、ベイリーやデスティニーといった新キャラクターも人気がありました。米国ではどのキャラクターが人気でしたか?

 スタントン監督:同じだよ。みんなこれらのキャラクターが大好きだ。特に人気があるのはベビー・ドリーだね。

 コリンズさん:アメリカでもハンクは人気よね。あの動き方とかどこへでも移動できる能力とか、見ていて楽しいしカッコいいから。

 スタントン監督:分析したことはなかったが、もしかしたら、彼がタコで、しかも本物のタコよりも見ていて楽しいという一方で、性格はとても無愛想だという矛盾がウケているのかな。この二つの要素が人気を呼ぶのかもしれないね。

 コリンズさん:私が一番好きなのはベイリーよ。

 スタントン監督:ベイリーは面白いよね(笑い)。僕はデスティニーも大好きだね。パペットを思い出させる。目と口の位置が面白くて、話しているとパペットみたいだ。とても魅力的だと思う。

 ――これらのキャラクターが主役となる作品が今後できるのでしょうか。

 スタントン監督:「ファインディング・ハンク」を作ってくれとみんなが言う(笑い)。その他にも「ファインディング・マーリン」とか「ファインディング・ベイリー」とかを希望する声も。なんでもありだ。

 コリンズさん:私たちは冗談で、まずはアンドリュー(・スタントン監督)を探す(「ファインディング・アンドリュー」)の方が先だと言ってるの。

 一同:(爆笑)

 スタントン監督:僕は自分の人生の8年間を魚と共に過ごしたんだよ(笑い)。長い時間だ。僕がまた4年間をささげなくてもいいなら僕自身も彼らをまた見たいと思っている(笑い)。誰かがやってくれるといいね。

 ――では「ファインディング・ハンク」を20年後に(笑い)。

 スタントン監督:多分ね(笑い)。

 ――MovieNEXで作品を楽しむ日本のファンにメッセージをいただけますか?

 コリンズさん:私は子供たちと一緒に見たの。子供たちはもちろん何度もこの作品を見ているけれど、一緒に座って見ていたら、未公開シーンや、どんなに製作が大変だったかを私たちが話しているのを見ている様子が面白かったわ。製作の過程を分かってもらうだけではなく、クリエーティブな面での失敗を分かってもらうことができる。というのも、中には1回で完璧にできたと思っている人たちもいるようなのだけれど、実際にはボーナス映像にあるように、たくさん失敗している。最終的に成功するために何度も失敗を繰り返している。みんなにそれを分かってもらうことはいいことだわ。

 スタントン監督:これを超えるメッセージはないね。アンドリューも同感!(笑い)


 <アンドリュー・スタントン監督のプロフィル>

 1965年生まれ、米マサチューセッツ州出身。カリフォルニア芸術大学でキャラクター・アニメーションを学び、90年、ジョン・ラセター監督に次ぐ2人目のアニメーター、および9人目の社員としてピクサーに加わった。現在はクリエーティブ部門のバイスプレジデントとしてすべてのピクサー作品を監修している。監督、脚本を務めた「ファインディング・ニモ」(2003年)と「ウォーリー」(08年)は、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。「トイ・ストーリー1~3」(1995年、99年、2010年)では脚本を担当。

 <リンジー・コリンズさんのプロフィル>

 ロサンゼルスのオクシデンタル大学 で外交・国際問題を専攻。ピクサーに入社する以前は、ディズニー・アニメーション・スタジオで「ポカホンタス」「ノートルダムの鐘」「ヘラクレス」ではクリエーティブチームの管理を担当していた。ピクサーに1997年5月に入社。「バグズ・ライフ」「トイ・ストーリー2」に加え、「ファインディング・ニモ」「レミーのおいしいレストラン」などの製作に関わる。「ウォーリー」では共同製作を務めた。2006年公開の「カーズ」では、ミア(マックィーンの熱狂的ファンである、双子の小型スポーツカーの1人)の声優を担当した。

 (取材・文・撮影:細田尚子/MANTAN)

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