名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
来年2月で27年間の連載に幕を下ろす福本伸行さんの人気マンガ「アカギ ~闇に降り立った天才~」で、連載の3分の2にあたる約20年間にわたって描かれた鷲巣とのマージャン対決が、4月1日発売の「近代麻雀」(竹書房)5月1日号で幕を下ろした。わずか一晩の話を20年かけて描いたことが話題になった同作。読者を限定するマージャンのマンガながらここまで人気になったのはなぜか。誕生のきっかけ、長期連載になった理由などを担当編集の若島茂男さんに聞いた。
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「アカギ」は1991年から同誌で連載中のマンガで、コミックスの累計発行部数は約1200万部。裏のマージャン界で伝説となる赤木しげるの若き日の姿を描く。1997年から始まった鷲巣との対決は、殺人鬼の鷲巣が考案した特殊なルールのマージャン「鷲巣麻雀」で、赤木しげるが血液を、鷲巣が巨額の金を賭けて対決するという内容だ。
実は苦肉の策から生まれたんです。1990年に「近代麻雀」の看板作品だった能條純一さんの人気マンガ「哭きの竜」が完結することになり、次の看板作品が必要となりました。そのとき、福本さんが「近代麻雀ゴールド」で「天 天和通りの快男児」を連載していたのですが、その中で登場する中年のギャンブラー・赤木しげるの人気が高かったので、福本さんに連載を打診したところ「赤木しげるの若いころならいけるかも」と快諾を得ました。今振り返ると、ヒットを前提にしたお願いなので、相当なムチャぶりだったと思います。
当時、私は直接の担当でなかったのですが、読んだときは「ヒットは間違いない」と思いましたね。マージャンのルールを知らない中学生の赤木しげるが、大人も尻込みするような賭けマージャンで勝負して、ヤクザを相手にイカサマをして勝ってしまう……という内容ですからね。何をしたら一番格好良いかを考え抜いています。赤木しげるは、理想のピカレスクヒーローですね。
「天 天和通りの快男児」には、天貴史と井川ひろゆきという2人の主人公が登場し、対戦相手がインフレ化していく中で登場する敵キャラクターの一人です。中年のおじさんですが、登場すると2人を完全に食ってしまい、最後に同作は赤木しげるの死を中心にした話になりました。
私が担当になったのが、当時の最強の敵キャラだった“盲目の代打ち”の市川の話が終わった後です。要は、大ネタをやった後だけど、さらにヒットさせないといけない状況ですね。今読んでいただけると、市川編の後の試行錯誤の様子が分かると思います。そして鷲巣のアイデアが福本さんから来たのです。
最初にアイデアを聞いたときは、正直戸惑いました。今振り返ると、当時の私の頭が固く、赤木しげるが強敵を相手にマージャンでやっつけるという考えにしばられていたのです。「ガラス牌」だと一見手の内が見えて勝負にならないと思いますが、全部が見えないのがポイントなんです。その狙いは、複雑なマージャンの説明を省いて“二択”のようなシンプルな状況に持っていくことなんです。福本さんは「状況をシンプルにしないと勝負マンガは面白くならない」と言っていました。
そうです。ですが大変なこともあります。序盤から「牌が見える」ということは、福本さんのアイデアに沿って、牌の流れに矛盾がないようにつじつまを合わせるのが大変なんです。福本さんはギリギリ直前までアイデアを練り上げて、そこからさらに差し替えがあったりするから、そうなると、こちらの確認作業ももう一度やり直しになります。そういう意味では本当に大変でした。
もうマージャンマンガというより、サスペンスですよね。正直、血を賭ける設定は、私も引いたぐらいですから、当時のファンに引かれることも恐れたぐらいです。でも、福本さんが、「血抜き」のルールの設定の詳細を固めていくと、不思議なことにどんどん面白くなっていくんですよ。そして血液を抜きながらマージャンを打つことが可能なのかを、当時の血液学会の会長に取材しました。
福本さんからも、設定に矛盾がないか調べてほしいと言われましたし、著しい矛盾があるとリアリティーがなくなりますからね。結論から言うと、抜いた血液を戻すのは問題ないということでした。ちなみに体内に戻す血液の温度が低いことよりも、むしろ温度が高い方が危険なのだそうです。
勝負の大ネタであるし、特殊な設定だけに進めるペースを上げると、読者が理解できない可能性がありましたから、丁寧にやることが大事と考えました。当時は、福本さんの代表作「カイジ」の連載で一般ファンをつかんでいたので、編集部としてはアカギでもマージャンファン以外をつかもうとしました。「鷲巣編」は、複雑で説明が難しいので、マージャンを知らない人でも話が分かるよう説明も丁寧にしたり、高校生で読めない漢字にはルビを入れたりしています。分からなくなって読者がついていけないぐらいなら、説明しすぎてる方がいいと思っています。
福本さんは、全体の流れを考えつつ、その上で1話ごとをどう描くかも考え抜いています。しかし、連載するうちに面白いネタを思いつけば、当初の設計とは逆のストーリーになることもありました。面白くするためには、締め切り直前でも話を入れ替えることをいといません。「鷲巣麻雀」の4回戦で、赤木しげるが大勝して終わるシーンがありますが、ルール上そこで赤木しげるが血を戻すと、それまで圧倒していたので勝負が見えてしまうわけです。あれは私としては当初想定していない状況でしたが、最終的には赤木しげるが血液を破棄するという、屈指の名シーンになりました。
地獄の話については、別の福本さんの作品で、主人公が天国に行く話があったので、「天国を描けるなら地獄も描けますよね?」と私から提案したんですが、あそこまで続くのは想定外でした。ですが福本さんから「面白いことを思いついちゃったよ」とネームが届いて、それが実際に面白いのですから、やるしかないですよね。「近代麻雀」は雑誌の性格上、マージャン本編以外のことをやりすぎると作品の人気が落ちるんです。それでも表現の幅が広がったので、やって良かったと思います。ちなみに地獄に登場するキャラクター(亡者たち)は、一見皆同じように見えると思いますが、実は描き分けられているんですよね。マンガの下書きを見たら、なんとキャラクターにそれぞれ番号が振ってあったんですよ。
そうですね、引き延ばしはしていません。長くなったのは、結果的に面白いアイデアを積み上げていった結果です。気づいた方もいると思いますが、「鷲巣編」の最後は、ドラマのラストシーン、そして「天 天和通りの快男児」の最後と連動しています。「アカギ」の主人公・赤木しげるは、福本さんにとって勝負師としての男の理想像なのだと私は思います。
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