ヒュー・ジャックマン:「LOGAN/ローガン」ウルヴァリン最後のアクション「富士山くらいの標高の場所で失神」

映画「LOGAN/ローガン」に主演したヒュー・ジャックマンさん
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映画「LOGAN/ローガン」に主演したヒュー・ジャックマンさん

 2000年に公開された「X-MEN」から17年にわたって米マーベル・コミックの人気キャラクター“ウルヴァリン/ローガン”を演じてきた俳優のヒュー・ジャックマンさん。1日に公開された「LOGAN/ローガン」(ジェームズ・マンゴールド監督)を最後に、この役に別れを告げる。ジャックマンさんを一躍スターに押し上げたのは当たり役といわれるこのウルヴァリンだけに、さぞや寂しさを感じているかと思いきや、本人は「燃え尽きた感じはない」と言い切る。今作のプロモーションのために来日したジャックマンさんに話を聞いた。

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 ◇ウルヴァリンは「超人」ではなく「人間」

 “ウルヴァリン”の異名を持つローガンは、強靭(きょうじん)な肉体と鋭い感覚、さらに超人的な治癒能力を持つミュータントだ。体に埋め込まれたアダマンチウム合金の爪を武器にして戦うが、そんなローガンについて、ジャックマンさんは「“超人”ではなく、あくまでも“人間”という意識」で17年間、演じ続けてきたという。

 「彼にはハートがある。爪は“彼自身”じゃない。もちろん、X-MENの中では一番恐れられていて、一番怒らせたくない存在だ。誰だって彼の敵にはなりたくない。でも、実際には、他のメンバーのほうが、彼よりよほどパワフルなんだ。だってローガンは、目から光線が出るわけでもないし(笑い)、爪が届かない距離にいれば安全なんだからね。彼は、戦うことは楽にできる。でも、内面がとにかく複雑で、人を愛することが苦手。だから、人を寄せ付けず、常に懐疑的で、我が道を行く。そういう主人公って西部劇によくいるよね。僕はローガンを、そういう人物だととらえ、より深く探ろうとしたんだ」とローガンというキャラクター像を振り返った。

 ◇ローガンが絶対勝てないゲームとは?

 ジャックマンさんがローガンを演じて今作が9作目となる。途中、カメオ出演はあったものの、そのほとんどにおいて試練をくぐり抜けてきた。そして今回、“最後”を迎えるわけだが、果たしてローガンは幸せだったのだろうか。その問いに「(幸と不幸の)バランスはよくないよね」と切り出したジャックマンさん。「やっぱり、悲劇的なヒーローなんだ。もちろん楽しいときもあったよ。でも、彼は戦士なんだ。常に重荷を背負っていたし、心には闇を抱え、一時も安らげない。僕が心の中でよくやるゲームがあるんだけど、それは、何か引っ掛かることに出くわしたとき、この場にいる人間の中で、誰が一番幸せなのかと考えることなんだけど、そのゲームに、彼(ローガン)は間違いなく勝てないと思う(笑い)」と説明する。

 その上で、「だけれども、戦っているときの彼は、すごく生き生きしている。一番輝いているんだ。そして、そのこと自体を恐れているんだ。例えば、アルコール中毒の人が、(酒を)飲んでいる時は気持ちがいいけれど、ふと我に返ると、それが悪いことだと気づく。それと同じだ。戦うこと自体が己を殺すことになる、それが分かっている。だから彼は“悲劇的”なんだ。彼には、ビール片手に恋人とビーチを歩くなんてことは、あり得ないんだ」とローガンに同情を寄せながら自身の思いを吐露した。

 ◇富士山より低いけれど…

 今作でのローガンは、かなり疲弊しており、ジャックマンさんいわく、「関節は痛むし、アダマンチウム合金の毒で体は冒されているし、精神的にも重いものを抱えている」状態だ。それは“老い”を意味し、それを表現するためにジャックマンさんは、ある役者のアイデアを拝借したという。「その役者は、形がどんどん鋭くなっていく六つの石を用意して、それをかかとに取り付けて、20歳から80歳までを演じ分けたんだ。僕も今回、その方法を使わせてもらったんだけど、お陰で、かかとがかなり傷ついてずっと痛かったよ(苦笑)」と体を張った役作りの方法を教えてくれた。

 苦労したシーンの一つに挙げたのは、標高1万フィート(約3000m)の高所で撮影した最後の場面。「富士山には登ったことがあるけど、あれぐらいの高さでアクションシーンを撮ったんだ。キツかったね。実際、(空気が薄くて)僕は失神したんだ。だって、ランチを食べて現場に行くまでに、みんなの息が切れていたぐらいの場所だよ。そこを僕は何度も駆け上がったんだからね」と苦笑交じりに明かした。

 ◇パトリック・スチュワートの“軽業”に仰天

 ミュータントと人類の共存を願い、かつて“恵まれし子らの学園”を設立した、パトリック・スチュワートさん扮(ふん)するチャールズ・エグゼビア/プロフェッサーXとの共演も、今回が最後になる。そのチャールズも、今作ではローガンに勝るとも劣らない疲弊ぶりを見せる。ジャックマンさんは、マンゴールド監督から今作のアイデアを聞き、その数カ月後、現場に来たスチュワートさんと再会したときのことを「かなりショックだったよ。だってチャールズは、体重を22ポンド(約10キロ)も落としてきたんだ。で、あまりの軽さに、彼が乗っていた電動車椅子が急に動き出したとき、車椅子ごとひっくり返ったんだ。さすがにあのときは、その場にいたみんなが凍りついたよ」と振り返る。

 ところがその直後、「素顔は、(今作でローラを演じた)11歳のダフネ(・キーンさん)並みの好奇心の持ち主」のスチュワートさんは、「クルっと1回転して立ち上がったんだ。みんなびっくり仰天さ。そんなこと可能なのかってね(笑い)。ともかく、彼とは1作目からの大親友だから、今回の映画の中に、彼と肉体の衰えについて話す7分間の場面があるんだけれど、それは僕にとって、ものすごくやりがいのあるシーンだった」としみじみと語った。

 ◇「引き際が肝心」

 「孫ができたらこの作品を迷わず薦める」と言い切るジャックマンさん。改めて、ローガン/ウルヴァリンを演じ終えた気持ちを尋ねると、「燃え尽きてはいないよ。燃え尽きる前に身を引きたかったんだ。よく、パーティーに行くと、最後にもう1杯飲みたいと思うよね。だけど飲んだら次の朝、二日酔いになって後悔する。ちょうど潮時でパーティーを去れば、翌朝も元気でいられる。あれと同じさ。つまり、引き際が肝心なんだ。僕は、ちょうどいいときに“パーティー”を出たと思っている。だって今、ものすごくいい気分だから」と充実の表情を浮かべた。そして、「今後の展望は?」という問いかけに、「まだ言えない。だけど、もうすぐ分かるよ(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに答えた。映画は1日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1968年生まれ。豪州シドニー出身。「X-MEN」(2000年)のウルヴァリン役で人気スターとしての地位を確立。それに続く「X-MEN」シリーズ(03、06、09、11、13、14、16年)にも出演。ほかに、「オーストラリア」(08年)、「リアル・スティール」(11年)、「レ・ミゼラブル」(12年)、「プリズナーズ」(13年)、「PAN~ネバーランド、夢のはじまり~」(15年)などに出演した。2004年、ブロードウェイ・ミュージカル「ザ・ボーイ・フロム・オズ」でトニー賞ミュージカル部門最優秀男優賞を獲得。12年には長年の功績を評価され特別賞を贈られた。

 (取材・文/りんたいこ)

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