TRIGUN STARGAZE:佐藤雅子監督インタビュー 3DCGで切り開く表現 高畑勲監督が残した言葉に向き合う

アニメ「TRIGUN STARGAZE」の一場面(c)2026 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STARGAZE」製作委員会
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アニメ「TRIGUN STARGAZE」の一場面(c)2026 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STARGAZE」製作委員会

 内藤泰弘さんのマンガ「トライガン」の新作アニメ「TRIGUN」の最終章「TRIGUN STARGAZE(トライガン スターゲイズ)」が、テレビ東京系で毎週土曜午後11時に放送されている。2023年1~3月に放送された「TRIGUN STAMPEDE」は、手描きのような質感、ダイナミックなアクションシーンが話題になった。約3年ぶりの新作となった「STARGAZE」は、さらに進化した映像を見せてくれている。「STARGAZE」を手掛けた佐藤雅子監督の制作の裏側を聞いた。

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 ◇3DCGの気持ちよさ、爽快感

 「トライガン」は、砂漠の星を舞台に、不殺を誓ったガンマンのヴァッシュ・ザ・スタンピードが理想を貫くために戦い、葛藤する姿を描く。原作は、1995~2007年に連載された。1998年にもテレビアニメが放送され、2010年に劇場版アニメ「劇場版トライガン Badlands Rumble」が公開された。

 佐藤監督は、スタジオジブリ出身で「アニマエール!」「ハイキュー!! TO THE TOP」などの監督を務めてきた。「STAMPEDE」には参加していなかったが、原作は連載当時から読んでいた。

 「90年代の連載当時から読んでいて、アニメも見ていました。読み返してみて、全然色褪せてないことに、驚きました。昔に読んだ作品を読み返すと、何か違うと感じることや時代とのずれのようなものを感じることもあるのですが、全然そんなことがなかったんです。人間の根本的な問いを描いている作品だから、時代を超えてクラシックになれると感じました。10年後、20年後もまた映像化されたり、続いていく作品なんだと思っています」

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 「トライガン」には普遍的な魅力がある。だからこそ長く愛され続け、令和の時代に再びアニメ化されることになったのだろう。

 「STAMPEDE」は、3DCG制作会社・オレンジによるハイクオリティーな映像が話題になった。

 「『STAMPEDE』は、原作とは違う展開になると聞いていたのですが、実際に見てみると、オリジナルというよりも、原作の核となる部分を抽出し、落とし込みながら作っていると感じました。まずは、物語の構造に注目しました。映像的には、3Dのアクションは見応えありましたね。セルルックに驚かれている方も多く、評価も高いのですが、私はそれほど驚かなくて。3Dだったら3Dらしいルックでもいいとも思っています。自分自身、ずっとセルアニメをやってきたので、セルルックの3DCGアニメにはこだわりはないんです。ただ、3Dアニメなので、やっぱり3Dでしかできないようなことをやりたい。3Dの良さを生かした作品にしたいと思っていました」

 佐藤監督は「3Dだからできることは二つあると思っています」と続ける。

 「一つはキャラクターです。複雑な模様や複雑な造形のキャラクターを動かすことができます。もう一つは、立体的にカメラを動かせることです。この二つが3Dの魅力だと思っていて、『STARGAZE』でも意識して取り入れています。カメラの話になりますが、セルアニメは奥行きの移動が苦手なんです。横のフォローだったら、背景を横に引くだけですが、奥行きの移動、カメラの視点の変化に対応するのが難しい。動かす場合は、背景を作画で全部描くか(背景動画)、CG制作会社に頼んで、美術さんにテクスチャーを山のように描いてもらうか……と結局CG頼みです。労力がかかるのは3Dでも同じなので、見せ場になるシーンで使っています。立体物の中にカメラが入り込み、キャラを動かしたり、動きの気持ちよさや爽快感、アニメーションの面白さは『STAMPEDE』から引き継いでいます。ここまでの放送だと、第3話もそうですね」

 ◇最初は作画でやろうとしていたが…

 アニメ制作で3DCGは欠かせないものになっているが、佐藤監督がフル3DCGアニメを手掛けるのは初めてだった。

 「オレンジとは10年ぶりくらいなんですよ。『武装神姫MoonAngel』というOVAで参加していただいたことがありました。同作のキャラクターは、セルベースなのですが、武装などの造形が3Dで、オレンジが担当していました。その時から、(オレンジの代表取締役の)井野元英二さんはすごくアニメーションがうまいと思っていました。それから10年以上経っていて、新しい技術もたくさん出ています。『STAMPEDE』から『STARGAZE』の間にも技術的にブラッシュアップされ、できることが増えています」

 3DCGならではのダイナミックなカメラワークによるアクションシーンは没入感がある。ただ、3DCGは万能ではない。

 「最初に言われたことは『カット数を減らしてほしい』『食べるシーンは難しい』でした。負担を軽減するっていう意味でカット数を減らし、尺の長いショットを作るという意味だったのですが、制作する中で、カットを分けた方が楽なのでは?となってきて、それからはセルアニメのようなショットが増えてきました」

 万能ではないが、オレンジの映像表現は進化している。

 「食べるシーンは作画でも難しいのですが、3Dでも形が変わっていくのが難しいんです。それを念頭に絵コンテを書き直したりもしたのですが、最終的にはスタッフの方々に挑戦していただいて、最初は作画でやろうとしていたところも3Dになっていたりします。例えば、第4話に出てきた卵の中身は作画で描こうとしていましたが、最終的には全部3Dになりました。第1話のホッパードがヴァッシュの髪の毛をすくシーンもそうです。櫛が髪の毛にどう絡むかという問題があったのですが、3Dで表現しています。逆に、3Dだったらできると思っていたシーンを作画でやることになったところもあります。第1話でホッパードが酒場に入っていき、ホッパードの目線で奥に進んでいき、そこにいる人々がホッパードを煙たがり避けていくシーンは作画も入っています」

 日本のアニメの作画の伝統を受け継ぎ、進化した3DCGによって、これまで見たことがないような表現に到達した。ダイナミックなアクションはハリウッド大作の影響もあるようにも感じたが……。

 「ハリウッド大作へ近づけようという意識は特にないですね。ただ、音楽の力は大きいと思います。テレビアニメとしてはすごく贅沢なことですが、フィルムスコアリング(完成した映像に合わせて音楽を設計・作曲していく手法)でやっているんです。音楽の加藤達也さんがシーンに合わせて曲を作ってくださっています。曲を先に発注してシーンに当てはめていく従来のやり方ではありません。なので1曲の中でも緩急があるんです。最初は和やかに始まって、不穏な音が突然入ったり、映像に合わせて曲がなめらかに繋がっているんです」

 ◇高畑勲監督の「癒やしではなく慰め」

 佐藤監督は「“真似される”と思って作っていました」とも話す。

 「アニメは、コスプレをしたり、セリフを真似したり、聖地巡礼に行ったりしますし、『トライガン』は見る方の実生活に影響を与える作品だと思っているので、救いのない話にはしたくないと思っていました。憎しみを煽ることは簡単だけど、そこに踏み込まないようにしました。この作品を通じて社会にどういうメッセージを投げかけるかを考えた時、希望が残る終わり方にすることが大事になってきます。人生はつらいことが多いじゃないですか。そういう時に見て、ちょっと頑張ろうかなと少し気が晴れたり、紛れたりするようなアニメですね。昔、高畑勲さんが『ホーホケキョ となりの山田くん』のインタビューで『(この作品で伝えたいものは)癒やしではなく慰め』と話していたのですが、その言葉がずっと残っていました。分かるようで分からない……と自分の中でモヤモヤしてるところがあったのですが、この作品を作っていく中で、慰めってこういうことなのかもしれないなと少し分かるようになりました」

 巨匠が残した言葉をどのように解釈したのだろうか?

 「慰めは、物事(傷)に捉われずに離れることなのかもしれません。物事に癒やそうとするのでなく、自分はそこから距離を置いて、手放していく。頑張ってて報われないことがあっても、おてんとう様が見てくれる。そういう気持ちが慰めなのかなと思うようになりました」

 「STARGAZE」は佐藤監督にとって挑戦になった。

 「個人的な挑戦ではあるのですが『自分で描かずに人に任せること』です。作画だと自分で描いてしまうのですが、3Dなので自分では直せない。人にやってもらうしかないわけです。人に任せるには、自分の中で線引きを作る必要があります。絶対に譲らないという線引きを作っていくことが挑戦ではありました」

 「STARGAZE」は、「STAMPEDE」から2年半後の世界が舞台となる。原作を大胆にアレンジしたこともあり、今後の展開も気になるところだ。

 「ミリィが出てきたことで、作品の雰囲気がすごく変わったと思っています。『STARGAZE』はコミカルなシーンも多いですが、メリルとミリィの女子同士のわちゃわちゃした感じが好きです。スタッフの間ではジェシカが人気です。多分、あの子が一番動かしやすいんでしょうね。おじさんに人気です(笑)。シナリオ段階でいろいろなバディーを意識しているので、この後も楽しんでいただきたいです。」

 「STARGAZE」は、原作が内包する普遍的な問いに向き合い、未来へと手渡そうとしているようだ。佐藤監督の言葉からは、人の心に寄り添おうとする、誠実なまなざしが浮かび上がってくる。(阿仁間満/MANTANWEB)

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