キンプリ:新作「キンプラ」の魅力と“心の救済”

鑑賞から時間がたつほど“今自分は映画館にいない、「キンプラ」を見られない現実”がつらくなり、鑑賞による心の救済を渇望するようになるのです。
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鑑賞から時間がたつほど“今自分は映画館にいない、「キンプラ」を見られない現実”がつらくなり、鑑賞による心の救済を渇望するようになるのです。

 映像に合わせて、観客が声を上げたり、サイリウムを振って楽しめる“応援上映”で話題となった劇場版アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm(キンプリ)」の新作「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」が公開され、人気を博している。自身も「プリティーリズム」から見続けてきたという“オタレント”の小新井涼さんが、ファンの目線から分析する。

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 映画を観ながら“コスプレOK!声援OK!アフレコOK!”、そんな「応援上映」の盛り上がりが昨年話題となった劇場アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm」、通称「キンプリ」の続編が公開されました。タイトルは「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」、略して「キンプラ」です。前作の「キンプリ」が公開当初は今ほど注目されておらず、時間をかけて徐々に盛り上がっていったのに対し、熱が冷め切らぬうちに封切りを迎えた続編の「キンプラ」は、公開2週間で早くも興行収入が2億円を突破、観客動員数も14万人を超える好スタートを切りました。

 今回もその盛り上がりを応援上映が後押ししているのはもちろんですが、これら2作のヒットにおいてもう一つ注目すべきなのは、ファン一人あたりの鑑賞回数の多さだと思います。「キンプリ」のロングラン上映中には、なんと鑑賞100回超えをする方も出現し、今回の「キンプラ」でも、単純計算で1日1回以上は見ていることになるという“猛者”が、早くも現れ始めているようです。近年劇場版アニメのヒットが続き、同じ作品のリピート鑑賞も多くなったとはいえ、それにしても熱狂的すぎるともいえる情熱は、一体どこから生まれているのでしょうか。

 それを知るにはまず、「キンプラ」鑑賞の何がそこまで人々を魅了しているのかを探る必要があります。作品未鑑賞の人は、「キンプラ」鑑賞とは“ジェットコースターのようなもの”だと想像してくれると分かりやすいかもしれません。

 作品の前半は、アニメ4クール分の内容を凝縮したかのような濃厚すぎるドラマが、たった数十分の間に繰り広げられていきます。まるでグングン上昇してゆくコースターに乗っているようで、「こんなに高いの!? まだ上がるの!?」と、期待と不安で戸惑っている間に気づけばはるか頂上へと到着している感じです。続く後半は、まさにそこからの急降下です。本作のメーンイベント、「プリズムキングカップ」のシーンでは、息をするのも忘れるほどの衝撃が、休む暇なく襲ってきます。それはコースターに振り回されながらも、通り過ぎる景色を必死に目で追いかけようとしているような感覚で、今起きていることを理解する前に次の驚きがやってきて、脳内処理が追いつかなくなってゆきます。そうして全てを消耗しきった鑑賞直後は、コースターの乗り場に帰ってきた乗客のごとく、「一体、何が起きていたのだろう」と、しばしぼうぜんとしてしまうのです。

 その結果、人々が「キンプラ」に抱くのは、「うまく言葉にできないけど、何だかすごかった!」という感動です。そんな鑑賞体験での感動が人々を魅了して、「面白かった! もう1回乗ろう!(=見よう!)」という気持ちにさせるのではないでしょうか。

 ところが、「面白かった! もう1回!」という感想は、当たり前ですが「キンプラ」に限らず他の映画にも当てはまります。そこからさらに、何十回とリピートしてしまうほど人々が「キンプラ」の沼にハマっていくには、私たちの中でさらに別の何かが起きているのではないでしょうか。

 私の実体験を元に考えられる要因が二つあります。一つは、鑑賞後の日常生活の変化です。どういうことかというと、鑑賞から時間がたつほど“今自分は映画館にいない、「キンプラ」を見られない現実”がつらくなり、鑑賞による心の救済を渇望するようになるのです。鑑賞できないつらさを和らげようと、他の人の感想や劇場の残席数を調べるのはかえって逆効果で、この苦しみを救えるのはやはり鑑賞しかないと、結局は映画館へと足を運んでしまうことになります。

 もう一つは、鑑賞中のスタンスです。「キンプラ」を鑑賞していると、“この感動をどんな言葉で表せばいいのか分からないもどかしさ”から、やがて「楽しい、面白い」といった感想を通り越して、こんなに幸せな気持ちにしてくれる作品へ、ただただ「感謝」し続けることしかできなくなってゆきます。こうなるともはやチケット代も鑑賞料ではなくお布施となり、鑑賞後は心洗われた健やかな気持ちと共に、「キンプラ、ありがとう……」と、心の中でそっと手を合わせるようになってゆくのです。

 日常生活がつらくなって鑑賞による救済を渇望し、鑑賞で心が満たされた後はその感謝から心の中で手を合わせてまた振り出しに戻る。極端な例えではありますが、まるで「礼拝」のようなこのサイクルこそが、人々が「キンプラ」沼にハマり、抜け出せなくなる最大の原因だと思います。そうして敬虔(けいけん)な“プリズムエリート(シリーズのコアなファンの呼称)”と化したファンが連日映画館への礼拝を繰り返すことで、「キンプリ」と「キンプラ」への熱狂的なファンの情熱も生み出され続けているのでしょう。

 鑑賞後に映画館の外へ出た瞬間、「世界が輝いて見える!」という「キンプリ」のセリフが頭をよぎるのも、まさに礼拝を終えた後のすがすがしい気持ちで世界を見たがゆえの自然な感想なのかもしれません。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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