超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「ファミコン」や「スーパーファミコン」のゲームを楽しめる「クラシックミニ」シリーズを取り上げます。
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任天堂が2016年11月に発売し、スマッシュヒットを記録した「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ(クラシックミニ/ファミコン)」。テレビに接続すれば30種類のファミコンソフトが遊べるという商品だ。同社は第2弾「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン(クラシックミニ/スーパーファミコン)」の発売を10月5日に予定している。
「クラシックミニ/ファミコン」はいったん生産を終了している。任天堂のホームページでは「再開時には案内する」と告知されているから、販売再開の可能性はあるのだろう。それにもかかわらず、ネット上では定価5980円(税抜き)の商品に対して、1万円前後で売買されている。待ち切れないというわけだ。「クラシックミニ/スーパーファミコン」の供給体制は不明だが、早期に生産が終了すれば、同様の事態が予測される。
そこで議題になるのが、レトロゲームを含めたIP(知的財産権)の活用法の在り方だ。ゲームの中には「ドラゴンクエスト」シリーズのように定期的にリメークされるものもあるし、任天堂もレトロゲームをダウロードできる「バーチャルコンソール」を「Wii」「Wii U」向けに展開している。しかし大半のゲームは実質的に死蔵されており、有効活用されているとは言いがたい。
実際に6月29日の任天堂株主総会では「(バーチャルコンソールについて)ビジネスモデルとして成立するか、十分な需要が存在するのかなど、そういう点の調査も含めた検討を進めて発売を決定したい」といった趣旨の回答をしている。やり方次第で収益が見込める以上、慎重に進めたいというわけだ。
こうした現状を踏まえて、任天堂は販売中の新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」向けに、レトロゲーム配信を含めた、新たなインターネットサービスの展開を予定している。しかし、それが本当にユーザーにとって好ましいサービスになるかどうかは現段階では不明だ。そもそも携帯ゲーム機の役割を果たしているスマホを多くの人が持つ時代、レトロゲームを遊ぶためにわざわざ新型ゲーム機が必要になるというのは本末転倒のようにも感じられる。
近年の豪華なゲームではなく、シンプルなゲームを遊びたいというニーズは思いのほか多い。自分が子供の頃に遊んだゲームを、自分の子と一緒に楽しみたいという親世代のニーズなどはその好例だ。それがインターネット回線を必要とせず、テレビに小型のゲーム機を接続するだけですぐに遊べるとあれば、なおさらだろう。
問題は、この要望に応える意識も術(すべ)も、今のゲーム業界には乏しいことだ。もちろん最新ゲーム機でヒットを求められるのは企業の常。しかし、ファミコン世代など休眠ユーザーの掘り起こしや、これからゲームユーザーになる若年層へのマーケティングも、スマホに主導権を握られたゲーム業界には重要なはずだ。「Wii」が非ゲームユーザーの掘り起こしに成功したのも、従来の枠組みに縛られない挑戦があったからこそ。一見簡単にいかずとも、知恵の絞りどころと言えそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫3匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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