リメンバー・ミー:リー・アンクリッチ監督に聞く 「千と千尋の神隠し」との共通点とは?

ディズニー/ピクサーの最新作「リメンバー・ミー」を手掛けたリー・アンクリッチ監督
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ディズニー/ピクサーの最新作「リメンバー・ミー」を手掛けたリー・アンクリッチ監督

 ディズニー/ピクサーの劇場版アニメーション最新作「リメンバー・ミー」(リー・アンクリッチ監督、エイドリアン・モリーナ共同監督)が16日に公開された。5日に開催された第90回米アカデミー賞で長編アニメーション賞と主題歌賞に輝いた話題作だ。今作のPRのために、2月下旬、アンクリッチ監督が、モリーナ共同監督と来日。アンクリッチ監督に、作品に込めた思いや苦労した点などを聞いた。

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 ◇愛する故人の記憶こそが大事

 映画「リメンバー・ミー」は、ミュージシャンを夢見る少年ミゲルが、ひょんなことから「死者の国」に迷い込み、骸骨(がいこつ)のヘクターに助けられながら、「生者の国」に戻ろうと奮闘する姿を描く。

 これまで、子供はもとより大人たちに夢や希望を与えてきたディズニー/ピクサーが、「死」にまつわる作品を作ったことに少なからず驚くが、アンクリッチ監督は「これは死を描いたものではありません。愛する者の記憶を自分の中にとどめておくことができれば、死というものはないのだということを描いているのです」と言い切る。

 今作は、メキシコで毎年11月に行われる伝統的な祭礼行事「死者の日」からアイデアを得ている。米オハイオ州出身のアンクリッチ監督は、その死者の日が、これまで自身が知っていた、死者や先祖との向き合い方とは「随分違う」ことに長い間興味を持っていた。自分なりにリサーチしてみると、死者の日は「実は、『生きること』や『家族』を祝う日」であり、「私たちは、愛する故人を思い出す責務を負っている」ことに気付かされ、「死というものをどのように信じていようと、きっとこの物語は、世界中の人々の心に響く物語になる」と確信したという。

 自身、昨年暮れに父を亡くした。この作品に関わったことで、映画にも登場するオフレンダ(祭壇)を初めて自宅に作った。「次の死者の日に、父の写真をそこに飾るのを楽しみにしています」と話してくれた。

 ◇ピクサー初の骸骨

 原題は「COCO(ココ)」。ミゲルのひいおばあちゃんの名だ。実は、タイトルは長い間決まらず、邦題と同じ「リメンバー・ミー」を考えた時期もあったという。「COCO」に決めたのは、「音が気に入った」から。そして、「とてもシンプルで、ちょっとミステリアス」だからだ。「皆さんは、ひいおばあちゃんが出てきても、キャラクターとしてそこまで重要なのかな、と首をかしげるはずです。すると、映画の最後でその理由が分かる。私にとってはパーフェクトなタイトルでした」と胸を張る。

 大きなチャレンジだったことの一つが、「ピクサー初の骸骨を、いかに観客に恐怖心を抱かせることなく、娯楽性の高い形で命を吹き込むか」だった。「(骸骨が)バラバラになって、また一つになる。そういう表現を、楽しみながら、また、苦しみながら作っていきました」と語る。

 ◇キャラクターデザインの重要性

 ミゲルが、今は亡き伝説のスター、エルネスト・デラクルスのビデオを見ながらギターを弾く場面も、アンクリッチ監督自身「押さえておきたい場面」だった。「(アニメーションの)テクニックとしてはシンプル」としながら、「テクスチャー(質感)やリアリティー、そのキャラクターの中に魂が宿っていることを皆さんに感じていただくために、細かい演技や表情について、アニメーターとかなり詰めた話し合いをしました」と明かす。

 ただ、そのリアリティーは、同じ人間を模して、「不気味の谷」(人間に似すぎることで違和感を抱く現象で、ロボット工学者の森政弘さんが提唱)に陥るようなリアリティーではない。アンクリッチ監督は「そもそも、本物の人間を模そうとは思っていません」とした上で、「やはり、キャラクターデザインが大事。キャラクターをデザインするときは、カリカチュア(誇張)しています。今回の作品でいうと、ココおばあちゃんがいちばんリアルだと思います。顔に刻まれたしわとかね。でも、彼女を見ても本物とは思わないですよね。それは、キャラクターがカリカチュアされているからです」とピクサーのキャラクターが人々を魅了し続ける理由を語った。

 ◇作品を通して「壁や分断をなくしたい」

 メキシコに「死者の日」があるように、日本にも「盆」がある。その点で今作には親近感を覚える。アンクリッチ監督も「そのように感じていただけたら非常にうれしい」と語る。

 その一方で、「メキシコのカラフルな美しい伝統文化もぜひ知っていただきたい」と力を込める。そして、「私たち(ピクサー)は、(作品を通して)壁や分断、そういったものをなくしていくことが重要だと信じています。たとえ文化が違っても、互いに人間として向き合って、互いを受け入れ感謝する。そういう世界で私は生きたいと思っています。この作品がその一助になれば」と今作に込めた思いを明かす。

 その上で、「私も、宮崎(駿)監督の作品、特に『千と千尋の神隠し』(2001年)を見ると、自分のとは全く異なる文化に誘(いざな)われます。それがやっぱりすてきなことだし、違う文化について学んでいると同時に、自分と同じような人間味あるキャラクターが壁を越えていく。その旅を一緒にできることが魅力なのです」と指摘する。

 昨年8月に50歳になった。この「リメンバー・ミー」の全米公開は、その3カ月後の11月。いわゆる「節目の年」に今作を送り出した。そこで、次の節目の年となる10年後の自分を想像してもらうと、「10年後? ワオ。引退しているかもしれないな」としつつ、「この作品には6年かけました。もう1本、映画を作っているかな、どうだろう……」と頭をひねる。引退などといわず、10本、いや、せめて5本は作ってほしいと伝えると、「だといいけどね」と笑顔を返した。「リメンバー・ミー」は全国で公開中。日本語版は松雪泰子さん、藤木直人さん、石橋陽彩(ひいろ)さんらが声優を務めている。

 <プロフィル>

 1967年8月8日生まれ、米オハイオ州出身。94年、「トイ・ストーリー」(95年)のフィルム・エディターとしてピクサー・アニメーション・スタジオに参加。「トイ・ストーリー2」(99年)、「モンスターズ・インク」(2001年)、「ファインディング・ニモ」(03年)を共同監督。監督・脚本を担当した「トイ・ストーリー3」(10年)は、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。「モンスターズ・ユニバーシティ」(13年)、「アーロと少年」(15年)では製作総指揮を務めた。09年、ジョン・ラセターさんらと共に、ベネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受賞した。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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