女優の橋本愛さんが主演した映画「ここは退屈迎えに来て」(廣木隆一監督)が19日に公開された。映画は、山内マリコさんの小説が原作。何者かになりたくて東京で就職したが、10年たって地元に戻った27歳の「私」が、高校時代の憧れの存在だった「椎名くん」に会いに行くことから始まる物語を描く。「私」を演じた橋本さんと、椎名くん役の成田凌さんに話を聞いた。
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原作のファンだという橋本さんは、「発売当時に読んでいて好きな小説だったので、映画化に関われることが本当にうれしかった」と喜んだという。「(田舎を)出たいという欲望と出られない何か壁のようなものにずっとガンガン当たっている感じや痛みがすごく自分の身に覚えがあって。その痛みが小説を読んでいるときに思い出されました。切ないんだけどいとおしいなと思う気持ちが、映画を見ると、もっと大きくのしかかってきた感じがして、映画になってよかったと思った」と感慨深げに語る。
一方、成田さんは「本を最初に読んだときはまだ役が決まっていなくて、椎名か新保のどちらかと言われて、(自分では)新保かなと思っていました」と明かす。「椎名は唯一、感情移入ができないなと思ったのですが、改めて読んでみると自分だなって(笑い)。今ではだいぶ納得しています」とちゃめっ気たっぷりに語る。
自身が演じた役どころについて、「どちらかというと『私』は迎えに来てという言う人じゃないというのを廣木監督に初日に言われ、たしかに退屈かもしれないけど、『迎えに来て』というより、能動的に自分から動いていくタイプ」と橋本さんは話す。「だから東京にも行ったけど、自分が思い描いていた理想の生活人物像とは違い、何かそこがフィットしないまま帰ってきたような、ちょっと浮遊感のあるところが、演じていてずっとあった」と振り返る。
橋本さんは、役作りでは「『私』の半生が小説にほぼ書いてあったので、それは大事に持って行こうと思い、画面には映らないものを現場に持ち込んでいました。一貫していたのは、べたついた女性にしたくないということ」と力を込める。「一番気にしていたのは、椎名くんを見る目。麦ちゃん(『あたし』役の門脇麦さん)と椎名くんが廊下で話しているのを見て、ほんの少しだけ平然としていられない気持ちはあるけど、そこまで粘着したくないとか。そういう椎名くんを見る目や反応のバランスというのは意識はしていました」と説明する。
椎名役の成田さんは「(椎名は)バックボーンは何もなくて、ただ表面だけが描かれ、みんなの虚像でできているような人物。周りのみんなが作ってくれる役なので、僕はただ騒いでいただけです」と話す。だが、「楽しそうとか印象を強くするために、合間に生徒役の子たちと遊びました。椎名に何が必要かというと周りの目。気を使うまではいかないけど確認してしまう。何かを言ったらちらっと見てしまうような人間でありたいと思ったので、なるべく現場に居座りました(笑い)」とこだわりを明かす。
メガホンをとった廣木監督の印象について、「廣木監督の映画を見ていて、特に女優さんが(いつもと)まったく違う感じになるのが不思議で、めちゃくちゃ輝いて見えて。私もなんか魔法をかけられるのかなって期待して現場に行ったら、何も言われなくて(笑い)」と橋本さんは明かす。「例えば役者さんの気持ちを尊重する監督もいるし、全然違うという監督もいる。でも廣木監督はそのどちらでもなくて、受け取っているのか、放し飼いをしているのか、よく分からないような距離感で、すごく面白い監督だなと思いました」と語る。
横で聞いていた成田さんも「衣装合わせのとき中に黄色いTシャツ着ようとか、教習所の先生になってからは半袖のシャツにしようとか、ちょっとサイズを上げようとか、そういう意見が(監督と)ばっちり合いました。そのときにもう大丈夫、椎名くんができたな、と」と振り返り、そのため現場では「これってこんな感じですか、ぐらいの会話しかしていない」と話す。
映画は主人公たちの高校時代と20代後半を描いているが、自身が10代だったころと比べて、「バランスよくなりました。ぐちゃぐちゃだった五角形が、やっとちゃんと小さいけど五角形ぽくなってきた」と橋本さんはレーダーチャートになぞらえて自己分析する。成田さんは「その表現いい。(10代のころは)もっと柔軟だった気がするし、受け入れることはできるけど、どんどんこだわりが強くなってきている気がします」と明かす。
10年後、どうなっていると思うかと聞くと、成田さんは「地元感をキープし続けていきたい。いつでも(地元の友だちや仲間と)『じゃあ飲もうか』みたいな。ただ、もうちょっと地に足が着いているといいかな(笑い)」と自虐的に語る。
一方、橋本さんは「自分の生き方として、幸せに一生を終えたいという考え方があります。そのために何をするか……」と切り出し、「そのときに何か足りないものや自分ができていないことが一つでもあったら、自分の望みはかなわないので、一つずつ消化したい。きっとまだ足りないものやできていないことはあると思うので、そのときにまだ今の自分と同じ望みを持っていてほしい。じゃないと椎名くんみたいになっちゃうから」と笑った。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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