“放牧”という名のリフレッシュ期間中の3人組音楽ユニット「いきものがかり」のボーカル・吉岡聖恵さんが、初のソロカバーアルバム「うたいろ」を24日にリリースした。大瀧詠一さんの作品集の収録曲として企画された「夢で逢えたら」をはじめ、トヨタホームのCMソング「糸」(原曲は中島みゆきさん)、ゆずの「少年」やスピッツの「冷たい頬」、「ラグビーワールドカップ2019」オフィシャルソング「World In Union」などが収録された話題盤だ。今作の制作エピソードやいきものがかりへの今の思いなどについて、吉岡さんに聞いた。
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――放牧宣言からリフレッシュ期間を経て、ソロで歌おうと思ったきっかけは?
最初は「自然に歌うときが来たら歌うのかな」という感じで、歌に関しては無頓着だったんです。でも半年ぐらいたったときに「やっぱり体がなまるなあ」と思って、歌い出したり、ジムに通い出したりして声と体を作り始めました。そんなときに、ちょうど「夢で逢えたら」のカバー(「EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3『夢で逢えたら』(1976~2018)」への参加)のお話が来たんです。
――「夢で逢えたら」と「糸」のカバーのお話は、アルバムの制作が決まる前からあったそうですね。どちらも多くのアーティストがカバーしている名曲ですが、歌う上でプレッシャーはなかったんでしょうか。
今、考えるとプレッシャーがあってもおかしくなかったんですけど、数々の方がカバーしている中で「自分がこの曲を歌ったらどうなるんだろう」っていう興味に勝てなかったんだと思うんです。自分からカバーしたいって言えないぐらい憧れの曲で、立て続けにお話をいただいたっていうのが、何か運命めいたものを感じました。この2曲があったことでアルバムを作ることへの目覚めになったという感じですね。
――この2曲を実際に歌ってみて、いかがでしたか。
「夢で逢えたら」は、(放牧期間で)しばらく間が空いていたので、(今作に収録されている音源より)半音下げたキーぐらいがちょうどよかったんですね。でも今のキーで歌ったら、違う華やかさと明るさが出たんです。「夢で逢えたら」って「夢でしか逢えない」という切ない思いを感じていたんですけど、「夢で逢えるからうれしい」っていう表現として半音上げたら新しい表現になるんじゃないかと思って。
「糸」は、うちのおばあちゃんも今、合唱団のコーラスで歌っていたり、母が中島みゆきさんが好きで、若いころにコンサートに行っていたり、時代を超えて愛されている曲で……。最初は恋愛のことを歌ってるのかなと思ったんですけど、家族や人との絆が歌われていて、深い愛を歌いながら感じていました。すごく包容力のある曲で、歌っていて自分も温もりに浸れる曲だなって。
――全11曲が収録された今作ですが、選曲のポイントは?
自分が歌ったときに“新しい歌になる予感がする曲”を選んだということですね。カラオケレベルのものも含めて100曲ぐらい歌いました。元のアーティストのイメージが強すぎて「あんまりよくない」みたいなことをディレクターに言われて「くっそー」と思ったことも(笑い)。
スピッツさんの曲はたくさん(候補を)出しましたけど、「冷たい頬」でやっとオーケーをもらえて。あと、ゆずさんの曲は、いきものがかりでカバーしていた曲、ゆずさんに出会った学生時代に好きだった曲、いろいろ出たんですけど、今回の「少年」の「今、自分にできることをひたすらに……やってみよう」という歌詞にすごく前向きさを感じて。恐る恐るソロ(の世界)に飛び込んだけど、せっかく自分が歌える新たな場所を用意してもらった中で思いっきり楽しんじゃおうという、今の自分の状態や気分がすごく反映されていて、アルバムの中で象徴的な曲だと思います。
――また、村下孝蔵さんの1983年のヒット曲「初恋」、ホルスト「惑星」の「木星」をモチーフにした「ラグビーワールドカップ2019」オフィシャルソングで全編英語詞の「World In Union」など、幅広いラインアップですね。
「初恋」は、実はいきものがかりのメンバーがめちゃくちゃ好きで、「この曲いいよねー」って昔から3人で話していたんです。この曲はニューミュージックだと思うんですけど、J-POPの源流というか、こういう曲があるからこそ、いきものがかりの曲が生まれてる部分があるんじゃないかと。何か通じるものを感じて、自分が歌ったときにピタッとハマるものがあったんです。「World In Union」は、モチーフがクラシックの曲ではあるんですけど、ポップスをずっと歌ってきた自分らしく歌えたんじゃないかなって。
――今回のアルバム制作を通してボーカリストとしての自分と向き合い、感じたことは?
放牧して淡々と普通の生活を送る中で、「自分にとって歌って何だろう」って素朴に感じることがあったんですね。でもやっぱりアルバムを作っていく中で、1曲歌うごとに「歌うことって楽しい」「作品を作るって楽しい」っていうのが浮き彫りにされていく感じだったんです。歌うことが自分にとって、改めて身近なことなんだな、歌って楽しいなっていうのは、一つの確認になりました。
――ちなみに、ソロでの活動や制作に関してメンバーに話したりすることはあるんですか。
自分が迷ったことがあったら、メンバーに会ったときにちょっと意見を聞いたりしています。「これとこれで迷ってるんだけど、どっちがいいと思う?」とか。
――いきものがかりとしての活動も待たれるところですが、吉岡さんの今の気持ちは?
(ソロで)最終決定を基本的には自分がしていくっていうのがすごく新鮮で、その一つ一つが形になっていく作業がすごく楽しいので、そこを味わって、それがたくさんの人に楽しんでいただけるものになったらっていう気持ちでいっぱいです。だから、目の前のことしかあんまり考えられていないです。メンバーも今、それぞれの活動を主にやっているので、お互いに励まし合いつつ、やれることをやっていくという感じですね。
(インタビュー・文・撮影:水白京)