超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、次世代ゲーム機と、そのために起きる深刻な問題について語ります。
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ソニーのプレイステーション(PS)4とマイクロソフトのXboxOneが2013年に発売されて、今年で6年を迎えるとあって、次世代ゲーム機の予測記事が出始めた。今のところは、20~21年に市場に投入されるだろうというのが業界筋の見立てだ。
ただ私は、ゲーム体験の革新は、現段階では望みにくいと予想している。「リビングに設置された大画面テレビの前」で「標準的なゲームコントローラーを使って」遊ぶスタイル以上の体験を、ユーザーが望んでいないように思われるからだ。これは世界最大のゲーム市場アメリカで顕著で、現代のライフスタイルに適合しているからだと考えられる。
実際、これまでゲームクリエーターは、テレビの前でコントローラーを使うプレースタイルをいかに変化させるかに心血を注いできた。携帯ゲーム機は答えの一つだったが、今やスマートフォンに市場を奪われた。ゲームコントローラーの革新も、PSで左右に一つずつアナログスティックがつく形状が標準化して以来、基本的に変わっていない。任天堂は、WiiやニンテンドーDSで変化を試みたが、ニンテンドースイッチでは元に戻る先祖返りが見られた。専用コントローラー「Joy-Con」の多彩なセンサー群を生かした斬新なゲームも「ニンテンドーラボ」など一部のタイトルに限られるのが現状だ。
こうした中、3月にグーグルがクラウドゲームサービスの「スタディア」、アップルが定額ゲームサービスの「アップル アーケード」を相次いで発表した。「スタディア」では動画共有サイトのユーチューブを介して知人のゲームに合流し、一緒に遊ぶなどの体験ができるという。これにより、短時間で遊べるオンラインマルチプレーゲームの人気が高まりそうだ。「アップル アーケード」も、ガチャ(アイテム課金)に依存しないプレミアムなゲームの販売チャネルとして評価できる。しかし、どちらもデジタル流通を通して、既存ゲームのすそ野を広げるサービスにとどまるという見方もできる。
PS4とXboxOneの次世代機も、現行機のコンセプトを継承しつつ、表現力を飛躍的に高めるものにとどまると考えられる。その結果、ゲームソフトの開発規模はさらに大きくなり、一握りの大作ゲームと大多数のインディーズ(独立系)ゲームの乖離(かいり)が進むだろう。
こうした大作ゲームを支えるのはグラフィックデータの自動生成や、ビッグデータの自動解析などで、開発の効率化が引き続き課題となる。グラス型のMR(複合現実)ディスプレーや、視線入力、音声入力といったデバイスの進化も進んでいるが、普及するにはもう少し時間がかかるだろう。
これにより、業界で深刻な問題になっているのが人材育成だ。ゲームが大作化し、発売本数が減少したことで、若手ゲームクリエーターの専門職化が避けられず、ゲーム全体を俯瞰(ふかん)して見られる人材を育てにくくなっている。人材育成を目的に小規模ゲームを開発させる企業もあるが、売り上げにつながりにくいため、業績が悪化すると取り組み自体がなくなりがちだ。
次世代機で大作化がさらに進むと、この傾向に拍車がかかると見るのが自然だ。欧米圏では大作ゲームとインディーズゲームでゲームクリエーターが行き来する例も見られるが、日本ではインディーズゲームのブランド力が弱く、市場自体が小さいため、業界活性化とゲームクリエーターのキャリアアップにはほど遠いのが現状だ。
その一方で静かに広がっているのが、ゲームを趣味で作る文化の復権だ。既にゲーム開発エンジンやツールを無償で使用できる環境が整い、企業や地域コミュニティーによるプログラミング教室なども増加傾向。そこでゲームが作られているというわけだ。1月19・20日には千葉県松戸市とCygames、CA Tech Kidsが共同で無料プログラミング教室「“Cygames presents” Tech Kids CAMP in MATSUDO」を開催し、小学4年生から6年生まで20人がゲーム作りに挑戦した。発表会では皆、自作のゲームをプレゼンテーションして大いに盛り上がった。
私も子供たちに交じって、ビジュアルプログラミング言語の「スクラッチ」でシューティングゲームを作成した。本格的にプログラムをするのは小学生の時に「BASIC」を触って以来約40年ぶりだったが、何とか遊べるものが完成し、大人の面目を保った。こうしたプログラム遊びで作られたゲームは、市販のゲームとはクオリティー面ではもちろん比較にならないものの、違った喜びをもたらしてくれる。
本イベントは地域のIT系コミュニティーとも連携し、より専門的な知識を求める子供たちの受け皿にもなっている点も特徴だ。ここから次世代のゲームクリエーターが育つことも考えられるだろう。
実際、ゲーム業界の第一線で活躍している人には、こうしたプログラム遊びに触発された例が少なくない。だが皮肉にも、ゲーム産業の成長と共に、開発工程が複雑化してブラックボックスになったことが、日本のゲーム産業の技術力低下にもつながった。
極端な例になるが、商業的に考えれば100万本売れるゲームが1種類あるほうが、100本しか売れないゲームが1万種類あるよりも、はるかに効率が良い。しかし、多様性の面から考えれば、後者の方がずっと豊かなのは言うまでもない。ゲーム作りの体験を経て社会人になった世代が、次世代の技術を駆使して作り上げるようになって、未知の体験ができる真の次世代ゲーム機が誕生すると、私は思うのだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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