モンスター
#4 空気の行方
11月4日(月)放送分
女優の井上真央さんが主演を務めるNHKの連続ドラマ「少年寅次郎」(総合、土曜午後9時)が10月19日スタートする。井上さんが演じるのは、50周年を迎えた国民的映画シリーズ「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(寅さん)の育ての母・光子。「節目の年にやれるというのは縁を感じますし光栄」という井上さんに、役作りや同シリーズの思い出、自身が主演した連続テレビ小説(朝ドラ)「おひさま」の脚本家で、今作も手がける岡田惠和さんについて聞いた。
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小学生の頃に初めて映画館で見た映画が「男はつらいよ」という井上さんは、「祖母と母と女3人でお正月に横浜の映画館に行って(映画を)見てご飯を食べて帰ってくるというのが恒例になっていて、すごく楽しみだった。(実家から)大船の撮影所も近くて、そこの隣に鎌倉シネマワールドというのがあり、寅さんのセットを見られたり寅さんと写真を撮れたりして。映画館に行く楽しさを教えてくれたのは寅さんだなって思います」と“縁”を感じていると話す。
そんな井上さんは光子という女性について、「全てにおいて懐の深さというのは自分にないかもしれないと思うし、あの時代ならではの人でもあり、目の前にいる人や(目の前に)ある出来事を受け入れる覚悟を持った女性」と印象を語る。
光子が映像作品に登場するのは今回が初だが、「モデルとなる人がいなくて、やり方や見せ方などに自由が利く分、『これでいいのかな』って思う部分があった」と明かし、「(毎熊克哉さん演じる夫の)平造さんもモデルとなる人がいないし、すごく難しい役。初共演ですが、お互い信頼関係を築きながらできたなという感じはしています」と互いに助け合った部分があったという。
また同シリーズの監督で、今作の原作「悪童(ワルガキ)小説寅次郎の告白」の作者でもある山田洋次監督から、「渥美清さんの自伝があり、渥美さんのお父さんとお母さんについて書かれたところがあるのですが、(山田監督の)『参考にしてみるといいよ』というお言葉を添えていただきました」と井上さんは明かし、「聖母のような感じではあるけど、強さや覚悟を持っていてほしいんだろうなというのは感じた」と役作りに生かしたことを語った。
幼少期の寅次郎を演じる藤原颯音(はやと)君の“寅さんっぽい”雰囲気が放送前から話題を呼んでいるが、井上さんは、「この作品はうまくいくなって、みんながあの子を見た瞬間に思った(笑い)。ワクワクしました」と第一印象を振り返る。
共演シーンも多く、第1話に登場する橋の上のシーンが印象に残っているといい、「リハーサル後にさらにリハーサルを二人きりでやったり、監督も交えて3人でやったりした」と切り出し、「(藤原君が)撮影前にすごい集中をし出して(目をつぶってうつむき加減に座って集中する姿を井上さんが再現しつつ)、寅ちゃんの集中待ちみたいな(笑い)。本人も大事なシーンだと思ってくれていたのだと思いますし、そのシーンは一発OKでした。本人も今回こんな大きい役が初めてながらも、一生懸命考えているんだなというのが、すごくいとおしくなったのを覚えています」と言ってほほ笑んだ。
物語が進むにつれ寅次郎が成長し、同役を井上優吏(すぐり)さんが演じるが、「もともとの渥美さんを彷彿(ほうふつ)とさせるようなシーンもあり、本人もプレッシャーに感じている部分もあったと思うけど、応えようと一生懸命やっている姿がいとおしかった」とたたえ、「おんぶをしてもらうシーンがあって、撮影期間の2カ月の中ですが、お母さんってこういううれしさがあるけど、さみしさもあるのかなって疑似体験をさせてもらった」と強く印象に残ったという。
今作の脚本を手がける岡田さんについては、「台本をもらったときに、岡田さんの世界だなって。岡田さんが描くせりふやト書きがすごく好き。特にト書きはすごく独特で、演じる役者に対しての自分への思いを乗せたようなト書きを書く」といい、「岡田さんの作品では、そのト書きから私は、こういう母を演じてほしいんだな、こういうシーンにしてほしいんだなっていうのを読み取る。信頼してくださっている感じがして、『おひさま』のときもそうでしたが、今回も託された思いをできる限り近づけていきたい」と意気込みを語る。
岡田さんの脚本に信頼を寄せる井上さんだが、「それが難しいというか、これができたらいいけど……って思うト書きもいっぱいあります(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに明かし、「そこは『やれるよ』っていう託されている感じもすごくありがたいこと。みんなでチャレンジして、という感じです」と前を向く。
平造の弟・竜造役の泉澤祐希さんやその妻つね役の岸井ゆきのさん、平造の父・正吉役のきたろうさんら、光子を囲む車家には演技派がそろう。「皆さん、場の空気になじむ力がすごくて、相手に緊張させない気を使わせない空気をまとっている。家族になる感じは皆さんの持っている空気感に助けられた部分は大きい」と井上さんは感謝し、「特に会話をしなきゃと気を使う必要もなく、黙ってちゃぶ台を囲んでいるときもあれば、おしゃべりをするときもある。それがすごく居心地がよかった。それぞれが役に対してのリスペクトとドラマならではの魅力が出せたらという思いで、お互いを信頼しながら芝居できたのでは」と自信をのぞかせた。(インタビュー・文・:遠藤政樹)
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