永井豪さん原作のロボットアニメ「マジンガーZ」に登場するマジンガーZの地下格納庫兼プールを実際に作ったらどうなるのか……。そんな突拍子もないプロジェクトに挑んだ総合建設会社・前田建設工業(東京都千代田区)のファンタジー営業部の実話を基にした映画「前田建設ファンタジー営業部」(英勉=はなぶさ・つとむ=監督)が、1月31日から公開中だ。2003年に発足したこのプロジェクトを聞いた時、永井さんは「とにかく面白いこと、冗談みたいなことをやるな」と感じたという。永井さんに映画や、地下格納庫兼プール、「マジンガーZ」への思いを聞いた。
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前田建設工業は、アニメやマンガ、ゲームといった空想の世界に存在する建造物を実際に建設する時の工期、工費を検討するプロジェクトを展開。広報活動として始まったプロジェクトで、2003年に第1弾として「マジンガーZ」の出撃シーンで目にする地下格納庫兼プールの工期、工費などを検証し、ウェブ連載として公開した。映画は同プロジェクトに挑んだサラリーマンたちの熱き戦いを描く。
永井さんは、「とにかく面白いこと、冗談みたいなことをやるなと思いました。何にしても『マジンガーZ』を取り上げてくれるのはうれしいので、どんなことになるのかは分からないけど、楽しみだった」と話す。
「マジンガーZ」のアニメ本編や設定資料を基にファンタジー営業部と技術者たちが大真面目に試行錯誤を重ねて積算(工事などの費用を見積もること)した結果、地下格納庫兼プールを建設するためには、「予算72億円、工期6年5カ月(ただし機械獣の襲撃時期を除く)」という結果となった。永井さんは「マジで計算してくれたんだなと、うれしかった。実際にどのぐらいかかるのかとか、自分自身は気にせずに描いていたので」と喜ぶ。
永井さんは、プロジェクトを書籍化した「前田建設ファンタジー営業部1 『マジンガーZ』地下格納庫編」(幻冬舎文庫)を読んだといい、「『うちの会社ではこういうことができます』というアピールになっているんだなと、そこで初めて狙いが分かりました。それまでは『どうしてそんなことするんだろう』と思っていました」と話す。
映画では、ファンタジー営業部の面々が、アニメ本編の作画の揺れや、本編途中でマジンガーZが格納庫の中で横移動するというシーンが描かれるなど、設定の変更に頭を抱える場面がコミカルに描かれる。
「途中でいろいろ条件が変わってくる場面は、笑いました。一喜一憂している人たちがいたんだというのが、うれしくもありました。人間の可愛らしさみたいなものがすごく出ていますね」
アニメ「マジンガーZ」で、地下格納庫兼プールの水面からマジンガーZが現れ、その頭部に兜甲児の乗るホバーパイルダーが装着される出撃シーンは、ファンの胸を熱くする。制作当時、地下格納庫兼プールは、どのように生まれたのか?
「アニメ制作をする上で、(アニメを制作する)東映動画(現・東映アニメーション)との話し合いの中で、美術監督の辻忠直さんやプロデューサーがああだこうだと言って、『やっぱりどこかにマジンガーZは隠しておいたほうがいいよね』『待機している時に敵に攻撃されたらまずいよね』みたいな話の中から生まれてきたと思います」
永井さんが原作マンガを描いた当初は、地下格納庫の設定はなかったという。
「連載で必要なところは、マジンガーZが登場して暴れていく過程と思っていたので、そこしか考えていなかった。アニメの設定を基にマンガも合わせていく形になったんです」
「マジンガーZ」は、永井さんのマンガ連載とアニメ制作がほぼ同時に進行した。永井さんがマジンガーZを描く上で重視したのは、「演出の格好よさ」だったという。
「実際にマジンガーZや地下格納庫が再現できるか?ということは、全く考えていなかった。とにかくアニメに必要な条件だけを一生懸命作って、後はアニメにしやすいように作り直してもいいですよ、という形で東映動画に渡しました。『演出が格好よければいいので』という言い方をしていたと思います」
兜甲児がマジンガーZに乗り込むシーンも、元々はおなじみとなっているホバーパイルダーが頭部に装着される形ではなかったという。
「主人公が乗ったバイクが、マジンガーの背中を駆け上がって、頭にドンと乗るようなイメージをしていた。マジンガーZの背中の一部からカタパルトが出てきて、そこを駆け上がるイメージだったんです。ただ、東映動画の企画ができた段階で、スタッフの中からダメ出しがあった。『(特撮ドラマの)仮面ライダーがバイクに乗っているから、バイクは絶対許さん』みたいな。『えー!』と思いました(笑い)。では、新しい乗り物を作りますと言って、その場で10~20分でホバーパイルダーを描いて、これで行きましょう!となりました」
紆余(うよ)曲折があり、マジンガーZの出撃シーンが生まれた。地下格納庫から現れたマジンガーZの頭部に、飛行してきたホバーパイルダーが装着される出撃シーンを「いい連携ですよね。演出的にはおいしかったんじゃないかと思います。演出家も工夫しやすい設定を作ることができたんじゃないかな」と笑顔で語る。
前田建設工業のファンタジー営業部が、情熱をかけて地下格納庫兼プールの実現を本気で考えたように、「マジンガーZ」は、今も多くのファンに愛され続けている。原作者の永井さん自身は、その人気の理由をどのように考えているのか?
「人が乗り込むという、それまでのロボットアニメにはないスタイルを提供したことと、成長期の男の子の願望を実現させたのが一番大きいのかなと思います。少年期の男の子は『もっと強くなりたい』という“自分の力の拡大”が成長の過程でどうしてもほしい。『マジンガーZ』が描く『君もこれに乗ったらすごい力を発揮できる』『大人も逃げちゃうぐらいのすごい力だよ』というのは、分かりやすい。どんな弱い子でも、これに乗っていれば、どんなやつにも負けないんだ、みたいな気分になれますよね」
永井さんは、今回の映画「前田建設ファンタジー営業部」を見て、大人たちにも当時の「『もっと強くなりたい』という気持ちを思い出してもらえたら」と続ける。
「結局、人間って社会に出たら厳しいじゃないですか。自分の願望が達成できる人は、本当に一部かもしれない。そうした中でも、もうちょっといろいろな能力がほしいなと思うと、『子供の時にあれに憧れたな』と。そういう気持ちは、いつまでも残っているんじゃないかという気がします。社会で厳しいことに直面している時、子供の時の『自分は強くなれるんだ』という思いを、もう一度思い出して元気になってもらえたらと。あの気持ちで世の中と戦っていこうと思えれば、まだまだ前向きになれるのではないでしょうか」
映画で描かれる、途方もないプロジェクトに挑む大人たちの姿は、滑稽(こっけい)でもあるが、それ以上に熱く、心動かされる。永井さんの思いと共にスクリーンで大人たちの挑戦を見届けたい。
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