子役として9歳でデビュー以来、数々の映像作品に出演し、確かな演技力で高い評価を受けてきた女優の伊藤沙莉さん。近年は日本マクドナルド、サントリー、東京ガスなどナショナルクライアントとも言えるようなCMに出演するなど、大ブレークと言っても過言ではない活躍を見せている。そんな伊藤さんが自身初となるフォト&エッセー集「【さり】ではなく【さいり】です。」(KADOKAWA、6月10日発売)で、デビューからの自身の思いを赤裸々に語っている。「自分が思っていることなんて誰も興味がないと思っていたから、まさか自分の本が出るなんて……」とまったく想像していなかったという“いま”をひた走る伊藤さんはどんな思いで日々を過ごしているのだろうか――。
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子役時代からのコンプレックスや、生い立ち、家族や地元のこと、そして女優としての環境の変化など、伊藤さんが約1年間の歳月を費やし、ありのままの自分を赤裸々につづった本作。執筆のきっかけは、2020年に発出された緊急事態宣言によるステイホーム期間中に、出版社から「漠然とでいいので自分のことを書いてみませんか」というオファーだった。
「正直、文才なんてないと思っていたので、なんでだろう……と感じたのですが“漠然とでいい”という言葉で、できるのかな……と思ったんです。あとは、ちょうどコロナ禍で兄(お笑いコンビ『オズワルド』のツッコミ・伊藤俊介さん)が劇場に立てなくなって、noteにエッセーみたいなものを書いているのを読むのが好きで、自分も興味本位でやってみようかなと思ったのも動機の一つです」
“興味本位”だったという執筆活動。実際に書き始めると「メチャクチャ楽しくて、校了したあとはちょっと寂しい気持ちになったぐらい」とすっかりはまったという。
「なんか書いているうちに自分で自分に取材しているような感覚、心理療法のような感じになりました」
本の中には、楽しい話はもちろんだが、あまり人に言いたくないようなネガティブな感情も赤裸々につづられている。伊藤さんは「書いているうちに、分かりやすく筆が止まる場面があるんです。筆って格好つけましたが、携帯のメモで書くことがあるので、正確には筆ではないのですが、急に進まなくなる。生傷まではいかないけれど、まだ自分の中で完治していない傷なんでしょうね。そこに触れると『痛い』ってなって止まるんです。そういう感覚もすごく楽しかったです」と笑う。
9歳のデビューから18年という歳月が流れた。ここに至るまでの人生にはいろいろなことがあったが、まさか27歳のいま自分がエッセーを出すことは「まったくビジョンにはなかったです」と伊藤さんは笑う。
「お仕事の話のところで、若干そういったことも書いているのですが、そもそも、自分の考えや思っていることなんて、誰も興味がないと思っていたので、本を出す、出さないという以前に、わざわざ自分のことを人に知ってもらうなんて発想がなかったんです」
「順風満帆なんてものとは『じゅんぷ……何それ、おいしいの?』ってくらいかけ離れていた」というフレーズがエッセーには出てくるが、挫折を繰り返す中、すてきな人たちとの出会いによって、女優業をかけがえのないものとして続けてきた。もともと実力派女優として製作陣から高い評価を受けていた伊藤さんだが、前述したように現在は大ブレークといえる活躍を見せている。
「メチャクチャ戸惑っています」と目をぱちくりさせると、自身を取り巻く環境の変化にも「正直怖さはあります」と胸の内を明かす。続けて伊藤さんは「いまの事務所に入ったときに社長から『焦るな、はやるな』って言われたんです。もともと焦ってもいないし、自分ははやっているとも思っていませんが、でもやっぱりいままでとは様子が違うとは感じています。そうなると、あとはみんな飽きるだけかな……ってひねくれた感覚にもなるんですよね」と俯瞰(ふかん)で自身を捉える。
作品の中心に立たせてもらう機会も増えたからこそ、立ち居振る舞いにも考えるところがある。
「自分が昔、端の方で雑に扱われた経験があるので、そういう人たちを見ると、妙に敏感になってしまう。そこでどう捉えて向き合うか……そこもいまの課題の一つです」。
そんな中、ブレずに日々を過ごすために伊藤さんはどんな思いを抱いているのだろうか――。
「当たり前のことなのですが、やっぱり感謝ですよね。それを忘れると、変な方向にいっちゃう。ここまで生きてこられたのも、本当に運と縁でしかないと思っているので、いまの自分の立ち位置に奢(おご)ることなく、地に足をつけて歩いていかないと、すぐに終わってしまう。いまあるお仕事は当たり前ではない。人によって生かされているという気持ちは常に持ち続けるようにしています」
好感度が非常に高い伊藤さん。それでも女優として攻める姿勢は変わらない。「もちろん、アングラ作品も大好きだし、規模の大小関係、どんな役でも面白い作品なら、ガンガン攻めの姿勢で臨んでいきたいです」と目を輝かせる。
本書についても「結構パブリックイメージみたいなものは変わっちゃうかもしれないという、ちょっと複雑な気持ちはありますが……」と語ると、「でも人間って一面的ではないと思うし、伊藤沙莉ってこんな人なんだって、ちょっとでも興味を持っていただけたらうれしいです」とはにかんでいた。(取材・文:磯部正和)
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