七つの大罪:実は「長い長い前日譚」だった? 「やりきった」劇場版 作者・鈴木央が明かす秘話

「劇場版七つの大罪 光に呪われし者たち」の一場面(C)鈴木央・講談社/2021「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会
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「劇場版七つの大罪 光に呪われし者たち」の一場面(C)鈴木央・講談社/2021「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会

 鈴木央(なかば)さんの人気マンガが原作のアニメ「七つの大罪」の新作劇場版「劇場版七つの大罪 光に呪われし者たち」(浜名孝行監督)が7月2日に公開される。鈴木さんが描き下ろした完全新作ストーリーで、今年1月から放送されているテレビアニメ最終章「七つの大罪 憤怒の審判」の“その先”が描かれる。メリオダスとゼルドリスの兄弟の関係や<七つの大罪>たちのその後など、原作では描かれなかった要素が詰まっており、鈴木さんは「『七つの大罪』については、これでやりきった」と語る。鈴木さんに劇場版の見どころや原作の秘話、現在連載中の同作の“正統続編”となる「黙示録の四騎士」などについて聞いた。

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 ◇劇場版は“兄弟の距離”に注目

 「七つの大罪」は、「週刊少年マガジン」(講談社)で2012~20年に連載。かつて王国転覆を謀ったとされる伝説の逆賊<七つの大罪>の戦いが描かれた。テレビアニメは第1期が2014年10月~2015年3月、「聖戦の予兆」が2016年8~9月、「戒めの復活」が2018年1~6月、「神々の逆鱗」が2019年10月~2020年3月に放送。今年1月から最終章「七つの大罪 憤怒の審判」が放送中。2018年8月には初の劇場版「天空の囚われ人」も公開されている。

 新作劇場版は、鈴木さんが描き下ろした完全新作ストーリー。劇場版の制作について聞いた当時は、まだ原作を連載中だったため、原作では描かない予定の内容を描くことにしたという。原作で主人公・メリオダスが父親である魔神王を倒すことは決めていたが、ヒロイン・エリザベスの母で女神族を率いる最高神との関係性を描くことは、予定になかったという。

 「打ち合わせで『最高神はどうするんですか?』と聞かれていたんですが、用事がないんだったら登場させる必要はないんじゃない、と。なんでもかんでも牙をむくのは血気盛んすぎるだろうと(笑い)。で、それをうまく使えないかな?と思って最高神を出すことになったんです。原作でメリオダスとゼルドリスの兄弟関係を描き切るかどうか分からなかったので、劇場版で踏み込んだところまで描こうとしました。こじれたものを戻す話ですね。それで敵は最高神で、メインは兄弟の話となりました」

 メリオダスとゼルドリスの兄弟の関係も劇場版の見どころとなる。原作で魔神王との戦いの中で歩み寄った2人が、さらにその後、「距離をどのように縮めていくのか、そういうところを見てほしいなと思います」と語る。<七つの大罪>のメンバーたちが「その後いかに幸せになっていくのか、そうした部分にも注目してほしい」と話す。
 
 ◇「ハッピーエンドにする」 連載初期から決めていたこと

 「七つの大罪」は約8年の連載の中で、個性的で魅力あふれるキャラクターが誕生した。鈴木さん自身は<七つの大罪>のメンバーは「全員お気に入り」だといい、「『最初に7人、こういうやつらが出るぞ』と打ち出す必要があったんです。いかに最初の手配書とは違うキャラクターを登場させるか、打ち合わせでもそこを考えていましたから、愛着はありますね」とキャラへの思いを語る。

 メインキャラクターである<七つの大罪>は、みな個性的だ。例えば“傲慢の罪”を背負い「昼は最強だが、夜は最弱」なエスカノールは、ボス級の敵とも互角以上に渡り合うなど無類の強さを発揮するインパクト抜群のキャラクターだ。女性ファンには、不死の体を持った“強欲の罪”のバンや“怠惰の罪”の妖精王・キングが人気だが、サイン会などでは男性ファンからエスカノールへの熱い思いを聞くこともあったという。

 「思っていたより強くなりすぎちゃって(笑い)。<七つの大罪>に対して敵も7人出てきて、1対1で戦うような展開は、そんなに都合よくいくものかな?と、あまり好きじゃなかったんです。だから<十戒>として敵を10人出して、一人で一人を倒せなくても、その代わり一人で何人も倒しちゃうキャラクターがいる、という方が読者も展開を読めないんじゃないかなと。そうしたら、エスカノールがすごく強くなりすぎちゃった」

 「七つの大罪」は昨年、約8年に及ぶ連載を終え、今回の劇場版で完結する。改めて物語に幕を下ろした現在の心境を聞いてみると、鈴木さんは「終わったー!という心境ですね。とりあえず、『七つの大罪』についてはやり切った」と完全燃焼したようだ。

 「『七つの大罪』は僕の中で一番長い作品になったし、一番読まれた作品になりました。新人の頃はファンタジーが描きたくて、アーサー王がモチーフの作品を描いていたんですが、キャラクターが描けず、ずっと(編集部に)突き返されていたんです。それで勉強の意味もあって現代物を描いて、以降はずっとファンタジーを描く頭がうせていたんですが、初期の読み切りを読んだ担当さんから『ファンタジーどうですか?』と言われて。すっかり描く気はなくなっていたけれど、描いてみたら描けた。そういう意味で、感慨深い思いはありますね。若い頃に描いていたら、こうはならなかっただろうなと思います」

 連載初期から大切にしていたのは「絶対ハッピーエンドにする」という思いだった。

 「メリオダスとエリザベスの話なので、そこをちゃんと描き切るのは大前提で、絶対ハッピーエンドにはしたいと思っていました。モヤっとするようなエンディングにはしたくなかったんです。もし、最後に全員死んじゃう、という話だったら、何回読んでも、最後は死ぬんだよな……となっちゃうから(笑い)。気持ちのいい終わり方にしたかった。そこは貫けたので良かったと思います。読んでいて気持ちのいいものが描きたいですね」

 ◇そして「黙示録の四騎士」へ

 「七つの大罪」を描き切り「これで『七つの大罪』本編は完結でいいのかな?と思います。あとは次世代に託すよ」とほほ笑む鈴木さん。次世代とは、もちろん新連載の「黙示録の四騎士」のことだ。「七つの大罪」の“正統続編”で「元々、自分なりのアーサー王伝説が描きたかった」という思いが出発点になっている。実は「七つの大罪」はその前日譚(たん)だったという。

 「アーサー王伝説は、作家によって話やキャラクターが違うから、僕もモチーフは使うけど、好きに描かせてもらおうかなと思っています。その“前日譚”として『七つの大罪』があったので、連載が終わって『やっとこれから本編を描くぞ』という感じです(笑い)。長い長い前日譚。『黙示録の四騎士』は何人かメインキャラクターがいるんですが、それらのおやじの話を描こうかなと思ったのが『七つの大罪』です。その息子たちの話が、今回の『黙示録の四騎士』になるんです」

 「黙示録の四騎士」は「七つの大罪」のラストから約16年後の世界が舞台で、「七つの大罪」のキャラクターも登場する。キャラクターや世界観は一貫しているが、見せ方は変えているという。

 「『七つの大罪』は、最初から英雄という状態の化け物のような連中がどんなふうに苦悩を解決していくかという話でしたが、今回はまだまっさらな、16歳ぐらいの少年少女がどうやって苦難を乗り越えていくかという話。見せ方は真逆で、強敵が出てきたらどう乗り切るのか、という状態を作っていこうとしています」

 「黙示録の四騎士」には、これからも重要なキャラクターが続々と登場するといい、鈴木さんは「“前日譚”のキャラクターがどこでどう出てくるかも楽しみにしてもらえればと思います」と話す。新作劇場版、そして新連載と、今後もますます話題になりそうだ。

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