超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、さまざまな国で作られたゲームの“お国柄”について語ります。
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おかげさまで筆者はこれまで、さまざまな国のゲーム産業を取材する機会に恵まれた。そこで行う定番の質問が「ゲームにおける、その国らしさ」だ。多くのコンテンツと同じく、ゲームもまた、国や地方の文化や歴史と無縁ではいられない。しかし、いざ改まって質問されると、満足な返答が得られにくいのだ。日本も同じで、「日本のゲームらしさ」を端的に説明できる人は、業界人でも珍しいのではないだろうか。
こうした中、「ゲームと文化」に関する興味深い展示会が開催中だ。チェコセンター東京(東京都渋谷区)で開催中の企画展「チェコゲームの世界 Czech Game Show in Tokyo」(10月15日まで)で、6社12作品のチェコ産ゲームが試遊展示されている。小規模な内容ながら、バラエティー豊かなゲームがならび、コンセプトアートやイラストなどの関連展示とあいまって、チェコの文化とゲームの関係について考えさせられた。
中でも目を引いたのは、日本でも人気の高いゲームスタジオ、Amanita Designのアドベンチャーゲーム群だ。同社は模型などで作成したジオラマを写真に撮ったり、手描きのイラストを取り込んでゲームの背景に使用したりと、アナログとデジタルを融合させた表現手法で知られている。チェコの伝統的な人形劇やアニメーションの技法をゲーム制作に応用した形だ。会場では世界初公開となる「Happy Game」をはじめ、4作品がプレイできた。
また、第二次世界大戦下の庶民の暮らしを通して、歴史の暗部に光を当てるアドベンチャーゲーム「Attentat 1942」「Svoboda 1945:Liberation」も興味深く感じられた。前者はナチス高官の暗殺事件に巻き込まれた祖父母の人生を追体験する内容。後者はナチス占領時代から、戦後の共産党独裁体制を巡る混乱期を生きぬいた人々の人生がテーマだ。制作にはチェコ科学アカデミーが協力しており、まさにゲームによるドキュメンタリーだろう。
DMM GAMESから日本語版が発売された「キングダム・デリバラス」も注目だ。14世紀の神聖ローマ帝国を舞台にしたオープンワールドRPGで、現在も残る中世の城や都市が、ハイクオリティーな映像と共に、当時の姿でゲームに登場する。AAAゲームにふさわしい内容で、ワールドワイドで300万本のセールスを達成。DMM GAMESから日本語版も発売されている。日本では技術面でもビジネス面でも、なかなか企画が通りにくい内容だといえる。
もっとも、他の東欧諸国と同じく、チェコでゲーム産業が誕生するには、1989年のビロード革命を待つ必要があった。つまり日米や西欧諸国と比べて、スタートが圧倒的に遅かったのだ。それが約30年で一気に追いついた形となる。展示にかかわった職員からは「それまで非合法で流通していたゲーム機などで遊んでいた若い世代が、革命後に一気にゲーム開発に飛びついた。そのエネルギーはすさまじかった」などの声が聞かれた。
また、プラハ在住のゲームジャーナリスト、パヴェル・ドブロフスキーさんは、初期のチェコ産ゲームに「間抜けのホンザ」として知られる昔話の影響を指摘している(展示資料より)。世界を探検し、田舎者ならではの発想で困難を乗り越える主人公像が特徴で、これが革命後に流入した米国産ゲームと結びつき、コメディーや風刺を取り入れた独自のアドベンチャーゲームに昇華していったのだ。他の東欧諸国にもそれぞれの歴史や文脈があるだろう。
日本の文化をモチーフにしたゲームといえば、米作りがテーマの「天穂のサクナヒメ」が連想される。「信長の野望」などの歴史シミュレーションゲームや、アニメ調のキャラクターが登場するノベルゲームをあげる人がいるかもしれない。しかし、これらは国産ゲームのわかりやすい一面にすぎない。中国・韓国から国産ゲームに匹敵するタイトルが続々と上陸し、ヒットを重ねる中で、日本のゲームらしさとは何か、改めて議論を深めていく必要がありそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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