やくならマグカップも:ボイスドラマだから表現できた“リアル” 脚本・荒川稔久に聞く

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 岐阜県多治見市が舞台で、伝統工芸品・美濃焼がテーマのフリーコミックが原作のテレビアニメ「やくならマグカップも(やくも)」のボイスドラマの最終回となる第20話が2月25日に配信される。ボイスドラマはテレビアニメに続き荒川稔久さんが脚本を担当。ボイスドラマのテーマは“体験型”で、多治見で豊川姫乃たちキャラクターと一緒に日常を過ごしているような感覚になる。音だけではあるが“リアル”でもある。荒川さんにボイスドラマの制作の裏側を聞いた。

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 ◇多治見でびっくり キャラクターの深みを感じる

 「やくも」は、2010年に多治見市の有志や企業が集まり、プロジェクトが始動。2012年から地元IT企業のプラネットがフリーコミックを発行している。母の故郷・多治見市に引っ越してきた豊川姫乃が、母が伝説の陶芸家であったことを知り、陶芸の世界に引き込まれていく……というストーリー。前半15分がアニメ、後半15分が実写パートの2部構成で、実写パートでは、声優の田中美海さん、芹澤優さん、若井友希さん、本泉莉奈さんが多治見の魅力を紹介した。テレビアニメ第1期が2021年4~6月、第2期が同年10~12月に放送された。

 荒川さんは愛知県出身で「スーパー戦隊」シリーズなどの特撮作品、「BLUE SEED」「狼と香辛料」「キングダム」などを手がけてきた脚本家。名古屋から多治見は電車で30分程度だ。愛知県出身ではあるが、多治見には行ったことがなかったという。

 「多治見は『中津川に行く途中の町』ってイメージでした。手前に春日井市があって、そこには友達がいますし、中津川は小学校の時に野外学習で、行ったことがあってなじみはあったんですが、多治見には行ったことなくて……。シナリオハンティングに行くまでは、正直、地味な街なんだろうなって思っていたんです。行ってみて、イメージが変わりました。グローバルな受け入れをしている街なんですよね。各地から人を受け入れ、焼かれている陶器の歴史としてもさまざまな地域の要素を受け入れている。懐の深さを感じました」

 地元の高校生を取材する中で刺激を受けるところもあった。

 「多治見工業高校の陶芸部に取材に行った時も驚かされました。ごく普通の茶碗やお皿を作ってると思い込んでたら、前衛的だったり芸術的だったり、かなり挑戦的な作品も作っていて、凄いなこの子たち、って。小さい頃から陶芸に触れているからこそのたくましさでしょうね。いきなりやろうとしても、なかなかあそこまでできないと思います。十子や三華にもそういう下地があるわけで、原作のキャラクターの深みを裏打ちできたというか、より実感することができてよかったです」

 ◇どうでもいいことかもしれない でも空気感が伝わる

 ボイスドラマで描かれているのは姫乃たちの日常だ。何気ない会話がリアルに感じるところもある。

 「身近な日常を切り取って、姫乃たちとそこに一緒にいる感じを味わってもらいたかったんです。透明人間になって、ふらっと部室に入ってきて、彼女たちの日常をこっそり楽しむ。だからこそBGMもなく、編集もなし。途中からどうでもいいことを話し始めるのもリアルさの追求です。絵がないからこそ想像できることもありますからね。そこにいる感じをより味わってもらうために、アニメの時には入れないような日常の音を入れたり、音響さんにはご苦労をかけました」

 ボイスドラマなので映像はないが、音だけでもキャラクターを立体的に感じることができる。

 「アニメではよほどの理由がない限り、そこまで細かい動きを描きません。例えば、お菓子を食べた後に袋を捨てるシーンとか、さりげなく直子の気遣いを見せられたりする。それができるのがうれしいところですね。どうでもいいことかもしれないけど、空気感が伝わるでしょ。超おこがましいですが、小津安二郎の映画でマージャンの話をするのと同じような感覚です。アニメだと同じ場所でずーっと会話してちゃ、絵が変わらなくて飽きると言われますけど、可愛い女の子が4人もいたら、仲よくしてる様子をだらだら見守るのも楽しいじゃないですか(笑い)。それができるのがボイスドラマの世界なんですよね」

 第12、13話は映像付きで配信された。多治見のバスの車内を撮影した実写映像を見ていると、キャラクターと一緒に多治見を観光しているような気分を味わえる。ほかのエピソードでも多治見の小ネタがちりばめられていて、多治見愛を感じる。

 「例えば直子に出身中学の話をさせるために、実在の中学校にのあるあるネタを調べたり、市役所の方に聞いたりしました。そういう超どマイナーネタ、結構好きなんですよ。細かすぎて伝わらない選手権的な(笑い)。魚の小骨みたいに、聞いた人の心のどこかに引っかかってくれたらなと。それで実際に多治見に行った時に、あ~アレあそこか~、って思ってもらってもいいですし、地図を広げて想像してもらってもいいですし、いろいろな方法でじんわりと多治見に浸ってもらえるとうれしいですね。映像のある回は、見終わって姫乃たちが現実の多治見にいるような不思議な感覚になるかもしれません」

 ◇声優とキャラがシンクロ ネタの提案も

 リアルに感じるのは声優陣の演技によるところも大きい。荒川さんは収録について「変わった録(と)り方をした」と明かす。

 「部室にいるシーンは、基本的に座って収録をしてもらいました。普段の収録は服がすれる音など雑音が入ってはいけないけど、あえてすれる音を出してもらったり、立ち上がるシーンで本当に立ち上がってもらったり……。スタジオだから限界もありますが、部室内で移動する距離感を表現するために、まずマイクに背を向けて離れてるところからしゃべり始めて、そこから振り返って、段々近づきながら話してもらったこともありました。それから他の子のせりふの途中で相づちを打つとか……。とにかく普通はやらないことだらけだったので、役者さんたちも最初は戸惑ってたけどだんだん自分で工夫してくれるようになって、結構面白がってくれたのでホッとしました。彼女たちがわいわいやってる姿がそのまま部室みたいに感じでしたね」

 脚本には声優陣の提案も積極的に取り入れた。

 「20 本もありますからね。途中で声優さんたちにアンケートを取って、演じてみたいネタをいろいろ出してもらいました。三華の子供の頃のカセットテープのエピソードは、芹澤さんの『小さい頃のエピソードってトキメクので、十子と三華のエモい昔話とか』という提案からです。彼女は親戚にちっちゃい子がたくさんいるそうで、そこでの観察が生きたのか、お芝居もめちゃくちゃよかったのでファンの方は必聴です。若井さんからは『地球村でバーベキュー』という提案をもらって、田中さんの『みんなで食レポ大会!』という案や、本泉さんからの『温泉。行きたいなあ……』という心の叫びと合体させて3本分にふくらましました(笑い)。彼女たちは、何度も多治見を訪れててキャラクターとのシンクロ度も高いので、アンケートを取ってみて本当によかったです。あと小ネタとして、若井さんから聞いた『市民プールでお父さんとほかの人を間違えて抱きついた』という話や、田中さんの『お料理に挑戦!』的な動画も元ネタにさせてもらいました」

 田中さんらは何度も多治見を訪れた。アニメのアフレコだけでは得られない経験もあったはずだ。キャラクターと声優がシンクロしているからこそできた表現もあった。

 「アニメのアフレコ初回、田中さんは最初ちょっと苦労していましたが、テストを重ねるたびにどんどんよくなって、このボイスドラマをやる頃にはほぼ完璧でしたね。個人的にはちょっと困る時のお芝居がきゅんとします。本泉さんは十子と違って激辛好きでワイルドなキャラみたいですが、すごくいろいろ計算して見事に演じてくれました。でもボイスドラマではちょっとだけリミッターが外れて、『どうしたの!?十子先輩』って感じもあったり(笑い)。若井さんは昭和ネタをちゃんと勉強してきてくれて、かたじけねえ、って感じでしたが、姫乃といいムードになるところのお芝居は絶品です! 芹澤さんの子供芝居と合わせてご堪能いただけたらと」

 ボイスドラマは最終回を迎えたが、アニメを含めた次の展開に期待しているファンも多いはず。荒川さんも「もっと書きたいですね。4人の女の子の“そこにいる感じ”を書いていて楽しかったですし、もっともっと続きを書きたいです。三華がまだ深掘りできていないですし、第3期や劇場版があれば、彼女を軸にした展開とか、松瀬と十子のちょっとだけ進んだ関係とか、原作に出てくる生徒会の子たちとのエピソードとか、進級して後輩が出てくる話とか、ヒメナの故郷・メキシコに行く話とか……。夢はふくらみまくっていて、監督ともそんな話をしています」と話す。

 ボイスドラマをじっくり聞きながらさらなる展開にも期待したい。

 「やくも」のボイスドラマの最終話が配信されることを記念した「完結感謝祭」が2月25日~3月11日に実施される。第11~20話の計10話分が通常価格の50%オフの5000円、第1~20話の計20話分が通常価格の50%オフの1万円でセット販売する。セットの購入者には、ボイスドラマの台本をプレゼント。抽選で5人に、原作者の梶原おさむさんのサイン入り台本が当たる。

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