2020年に公開された長澤まさみさんの主演映画「MOTHER マザー」(大森立嗣監督、2020年公開)で、祖父母を殺してしまう少年を演じ、鮮烈なデビューを飾った奥平大兼さん。同作で新人賞を多数受賞し、その後、ドラマにも出演して注目を浴びた奥平さんが、映画2作目となる、公開中の「マイスモールランド」(川和田恵真監督)で、主演の嵐莉菜さん演じるクルド人の高校生サーリャが心を開く少年・聡太を好演している。「デビューしてからずっと、自分の芝居に自信が持てなかった」と、壁にぶち当たった時期に撮影し、悩みを吹っ切ることができた今作について、また今後の目標などを来阪した奥平さんに聞いた。
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「マイスモールランド」は、日本で育ったクルド人の高校生サーリャと、日本人の少年・聡太の交流が描かれている。サーリャは、同世代の日本人と変わらない、ごく普通の高校生活を送っていたが、在留資格を失い、これまで当たり前だった日常が一変。アイデンティティーに悩みながらも、聡太との出会いをきっかけに成長していく……というストーリー。第72回ベルリン国際映画祭で、日本作品で初めてアムネスティ国際映画賞・特別表彰を授与された。
映画「MOTHER マザー」で、「第63回ブルーリボン賞」新人賞、「第30回日本映画批評家大賞」新人男優賞、「第94回キネマ旬報ベスト・テン」新人男優賞、「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した奥平さん。2020年10月期の「恋する母たち」(TBS系)でドラマに初出演し、以降はドラマ出演が続いた。
映画出演は2年ぶりだった。「映画に出られるチャンスだと思いました。『絶対やりたい!』と貪欲になるのは好きではありませんが、僕(の俳優人生)は映画で始まったと考えているので、頑張ろうという気持ちでオーディションに臨みました」と振り返る。
今作で演じた聡太は、東京都内に住んでいる高校3年生。絵を描くのが好きで、将来は大阪の美術大学に進学したいと考えている。劇中では、サーリャと一緒にスプレーアートに興じるシーンがあったが、この設定は、奥平さんが川和田監督に「絵が好きだ」と伝えたことがきっかけで、脚本に加えられたという。撮影前に、奥平さんや嵐さんらが参加したワークショップが開かれ、「川和田監督が僕らを見て、演じる人物に反映するよう、台本を変えることが多かった」という。
奥平さんは嵐さんとは初共演。「今まで年下の方と芝居で共演する機会が少なかったので、どう対応していいのか分からなかったんです」というが、「嵐さんが着ていた服を見たことがあり、服の話をしたところ、同じ洋服屋さんに行っていると分かった」ことで意気投合した。「それがなければ、どうしていたんだろうと思います」と笑顔で語る。
「マイスモールランド」「MOTHER マザー」と、社会派の作品での演技で高い評価を得ている奥平さんだが、「デビューしてからずっと、自分の芝居に、全然自信が持てなくて……」と心情を吐露。
新人賞も多数受賞したが、「なぜ自分が賞をもらえるのか分からなかったんです。お芝居に対してすごく詳しいわけでもないですし、自分が特別すごいことをしたという思いもなかったので。評価していただけるのはありがたいことだったんですが、素直に喜べませんでした」と悩んだ時期もあったという。
「次のステップに行きたいと思っても、行き方が分からない。複雑な気持ちになっていた時期に、壁にぶち当たっているということを認めたくなかったんだと思います」とも語る。
そんな中、撮影に挑んだのが「マイスモールランド」だった。「当時、周囲の人にいろいろ相談させてもらいましたが、最初に相談したのが川和田監督でした。真正面から向き合ってもらい、的確なアドバイスをいただくことができ、とても救われました」と感謝する。
監督のアドバイスで印象的だったのは、「考えすぎじゃない?」という一言だ。これは劇中で聡太が、アイデンティティーについて葛藤するサーリャにかける言葉でもあり、「それがすごく大きくて、この言葉で吹っ切れました。僕の転機になった作品の一つです」と語る。
現在18歳の奥平さんが目標としている俳優は、「長澤まさみさんをはじめ、尊敬する役者さんは数多くいます。ただ、この人のようになりたいというのはなく、あくまで自分なりにやっていきたい。尊敬はしても、まねはしたくないと思っていて、そういう意味では(目標とする俳優は)いない」ときっぱり。
今後演じてみたい役柄は「嫌われる役」といい、「芝居をする上で、良い役をやる機会の方が多いと思います。それこそ聡太もすごく良い子で、これまでもそういう役が多かった。でも『MOTHER マザー』で、嫌われるような役を演じていた先輩の演技を間近で見ていたので、僕もチャレンジしてみたいです」と意欲を語る。
取材は、舞台あいさつのため訪れた大阪で実施した。大阪に初めて来たという奥平さんは「すごく興奮しています」と笑顔を見せる。
大阪の印象を聞くと「大阪は良い意味で個性的。にぎやかで楽しいです。東京とは違った空気感で、すごく面白いですね」と目を輝かせる。「グルメを満喫したい」といい、「やっぱり大阪といえばたこ焼きとか、お好み焼きなので、いろいろと食べてみたいです」と話していた。
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