古川登志夫:「優しさがなければカイ・シデンではない」 「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」で改めて感じた魅力

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」でカイ・シデンを演じる古川登志夫さん
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「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」でカイ・シデンを演じる古川登志夫さん

 アニメ「機動戦士ガンダム」のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が6月3日に公開される。1979年に放送された「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」のテレビアニメ第15話「ククルス・ドアンの島」が劇場版アニメとして制作されることになった。ファーストガンダムから40年以上にわたって人気キャラクターのカイ・シデンを演じる古川登志夫さんは、「ククルス・ドアンの島」で改めてカイの「優しさ」を感じたという。古川さんに、カイ、「ククルス・ドアンの島」への思いを聞いた。

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 ◇最初はすぐ死ぬと思っていた カイの優しさを表現

 カイは、主人公のアムロ・レイらと共に戦争に巻き込まれ、ホワイトベースのガンキャノンのパイロットとなる。皮肉屋だが、弱者の視点に立つことができ、優しさがある。人間らしさがあり、正義感も強い。

 「上辺だけを見てると、ちょっと皮肉っぽいところがあるんだけど、実は優しいキャラクターですよね。よく見ると、ホワイトベースでも、自分以外の人のことを気にかけているところもありますし。ニュータイプじゃないですし、見ている人に一番近いところにいる普通の人間です。いろいろな意味で人間らしいですしね。脇のキャラクターなので、最初は、すぐに死ぬのかな?と思っていたんですよ。でも、カイは生き残る。ユニコーン(機動戦士ガンダムUC)まで出てきますしね」

 カイは「機動戦士Zガンダム」「機動戦士ガンダムUC」などでジャーナリストとなって登場する。カイはブレないキャラクターだ。ジャーナリストとして正義のために行動する。

 「『Z』では、ジャングルで白いスーツを着て出てきて『フリーのジャーナリストってさ、いつバチカンに取材に行くか分らないだろ?』と言いますよね。いつかローマ法王に会う時のために白いスーツを着ているんです。彼の中で、神への思いがあるから、『バチカン』という言葉が出てくる。人類同士で殺し合う愚行がなぜ終わらないのか?という思いがあると僕は思うんですね。そこも好きです。他者への思いというのが、高校生の時からジャーナリストに至るまで一本筋が通っています。なので、ジャーナリストに至るまでのメンタリティーをせりふの中でどう表現するのか?を考えています。ことぶきつかさ先生のスピンオフ『カイレポ(カイを主人公とした機動戦士Zガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのレポートより-)』も好きです。ことぶきつかさ先生に会ってみたいと思いましてね。ことぶきつかさ先生と対談させていただいたこともありました」

 ◇第28話辺りまでピンときていなかった

 古川さんはかつて「月刊ガンダムエース」(KADOKAWA)でカイについてつづった「カイ想録」というエッセーを連載したこともある。カイは「脇役だけど自分の代表作の一つになったキャラクター」になったというが、最初は「ピンとこないところもあった」と明かす。

 「最初は端役だと思っていましたからね。カイが注目され始めたのは、第28話『大西洋、血に染めて』のミハルのエピソードの辺りからですし。正直、第28話辺りまではやっていても自分の中でピンときていないところもあったんです。今、ファーストガンダムの最初の頃を見ると、自分としては、ちょっと恥ずかしいところもあります。当時は、富野さん(富野由悠季総監督)には、何度も意見をいただきました。富野さんは床に座って、僕の顔を見て『こういう物語の背景、状況があるから、こういうせりふなんだ』と説明していただくこともありました」

 古川さんの言葉からは、カイへの愛を感じる。自身のツイッターで、自宅にある大量のガンプラ(ガンダムのプラモデル)やフィギュアの写真を投稿したことがあった。

 「ガンキャノンばかり作っちゃってね(笑い)。シンプルだけど、デザインが優れているし、何体作っても飽きませんね。手のひらに乗る1/144モデルが好きです。どんどん増えて、積みプラもあるんです。元々、オタクなので、気に入ったら集めてしまうんですね」

 ◇恥ずかしくて、うれしかったこと

 テレビアニメ第15話「ククルス・ドアンの島」は、主人公のアムロ・レイ、敵対するジオン軍の脱走兵ドアンの交流を通じて、戦争の哀愁を描いた伝説のエピソードだ。安彦監督の強い思いがあり、劇場版アニメとして制作されることになった。

 「当時は、徳丸完さんがドアンを演じていましたよね。最初の頃のお話ですし、エピソードとしては、あまり印象に残っていなかったんです。改めて見てみると、安彦先生が、この作品を改めて作る意味がよく分かります。『ガンダム』は、先生がおっしゃっているように、小さき者が戦争に巻き込まれ、愛する者を守る物語で、それがシリーズの通底するテーマにもなっています。そのテーマが凝縮されているエピソードですよね。カイにも小さき者への視点がありますし」

 古川さんが特に印象に残ったのが、ガンキャノンに乗ったカイが、島の子供たちを見つけて、驚くシーンだ。収録では「自分を恥じたこと」があったという。

 「リハーサルが終わった後、安彦先生がブースに入ってこられて、ダメだしがあったんです。すごい熱弁で、安彦先生とは、これだけ長いことお付き合いしていますが、初めてのことでした。これだけ、長いことカイと付き合ってきたのに、分かっていなかったんだ……と恥ずかしい気持ちになりました。ガンキャノンが、子供たちを踏みそうになって、危ない!と脚を上げるシーンです。僕は『邪魔くさい』という芝居をしたんです。安彦先生から『それはカイの視点ではない』『優しく演じてほしい』というお話があり、『やってらんねよ!』『この子を踏み潰したらどうなるんだ!』と泣きを入れました。それがカイの視点ですよね。自分を恥じました。安彦先生のおっしゃる通りです。優しさがなければカイではないんです」

 古川さんは「安彦先生が命を削って取り組まれてることを感じて、恥ずかしかったのですが、うれしさもありました」と安彦監督の熱量に感動した。

 「安彦先生は『もしかしたらこれが最後になるかもしれない』とお話しされていて、『いやいや、そんなことをおっしゃらず』と言っていたのですが、やっぱり相当の思い入れがあって、突き詰めて作っています。だから見応えがある作品になっているんです」

 声優陣も命を削っている。古川さん、アムロ役の古谷徹さんらベテランの演技にも圧倒されるはずだ。

 「徹ちゃんは、僕よりも年齢は下ですが、付き合いも長く、戦友みたいなものです。イニシャルも同じ『TF』ですしね。あっぱれな表現者だな!と思いますね。この年齢になってくると、クオリティーを保てるのか?というのが心配なわけです。やっぱりプロなんで、千に一つでも『劣化』なんてこと言われると気にするんです。それを言われたら終わりだろうと思います。だから、緊張感があるし、頑張っています。徹ちゃんも秀ちゃん(シャア・アズナブル役の池田秀一さん)もこうやって一緒にやらせていただけるのが本当にうれしいです。ありがたいことです」

 「ククルス・ドアンの島」は、安彦監督らスタッフ、古川さんらキャストの熱い思いが込められている。その熱量を感じてほしい。

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