ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
アニメ「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」(6月3日公開)。スタッフを取材する中で「田村さんがいたからできた」という声を聞くことがあった。「田村さん」とは、総作画監督・キャラクターデザインの田村篤さんだ。田村さんは「ガンダム」シリーズ、“安彦作品”への知識、愛が深く、スタッフが助けられることがあったという。田村さんに、制作の裏側、“ガンダム愛”について聞いた。
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田村さんは、スタジオジブリ出身で、「天気の子」の作画監督を務めたことで知られている。「ガンダム」シリーズは「ガンダム Gのレコンギスタ」に参加したほか、安彦監督が手がけた「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」では作画監督を務めた。
「ファーストガンダムのテレビシリーズをリアルタイムで見ていたのは、世代的に僕よりもちょっと上の人で、劇場3部作で『ガンダム』シリーズに入りました。だから、感慨深いですよね。『THE ORIGIN』の時も、まさか安彦さんのアニメーション制作に参加できるとは思っていなかったですしね。安彦さんがアニメーションに戻ってくると思っていなかったので、驚きました。安彦さんは、思ってる以上にアニメーションが好きなんだと感じました。アニメーションを信じているんです。安彦さんのアニメーター魂が燃えていたことを確認できて、驚きましたし、うれしかったです」
「ククルス・ドアンの島」は、1979年に放送された「機動戦士ガンダム」のテレビアニメ第15話のエピソードで、主人公のアムロ・レイ、敵対するジオン軍の脱走兵ドアンの交流を通じて、戦争の哀愁が描かれた。劇場版では第15話を改めて描く。「ククルス・ドアンの島」は伝説のエピソードだ。
ファーストガンダムの制作当時、スケジュールの都合で外部のスタジオに外注したこともあり、「ククルス・ドアンの島」は作画が安定しなかった。“捨て回”などと言われることもあるが、独特の魅力があり、ファンに愛され続けている。「ククルス・ドアンの島」が劇場版アニメになる、しかも安彦監督が手がけるということで、驚いたファンも多かった。田村さんもその一人だった。
「皆さんと同じようにすごく驚きました。まさかそこに焦点当ててくるとは思ってなかったですし。ただ、安彦さんらしさのある題材で、らしさが出せるのでは?と思いました。いわゆる“島編”的なエピソードですよね。ガンダムに限らずそういうエピソードが好きです。『ふしぎの海のナディア』の島編も好きですし。昔は、1年放送のテレビシリーズが多かったので、そういうエピソードが入っているんですよね。緊張感から若干外れるエピソードが時々挟まることによって、生まれる奥深さみたいなものがありますし。それが終わった後、通常のエピソードに戻ると、またちょっと違って見えてくるものもあって、楽しいですし、ちょっと得した気になるんですね。作品の別の側面が見え、奥深くなる気がするんです。キャラクターが深堀りされますし、楽しいんです」
田村さんは「作画崩壊とか言われていて、確かにそうなんだけど、あんまり気にならないというか」とも話す。
「今見てもヘタだとは思っていないんですよ。味といえば味ですし。絵のうまさをデッサン力だけで見ないところもあって、ゆがみにこそ味があると、ある程度そう思っているところがあるんです。あのカットが僕のところにきたら、作監として直すけど、全否定はしないと思います。あの絵をどう生かすのか?を考えます」
テレビアニメ版「ククルス・ドアンの島」に登場するドアンザクは、細身で“鼻”が長いなど異形だ。劇場版「ククルス・ドアンの島」では、メカニカルデザインのカトキハジメさんがMS-06F ドアン専用ザクとしてデザインし、独特のフォルムを表現した。安彦監督は、異形のドアンザクに違和感があったというが、スタッフの「ドアンのザクは異形でなければ!」という思いを受けて、劇場版のドアンザクは独特のデザインになった。
「僕もカトキさんが提案したドアンザクを推しました。ドアンザクへの愛情を感じたので、賛成したんです。安彦さんは作画の乱れだと思ってるみたいですが。当時のスタッフの臨場感なども含めて、味わいとして捉えているので、それを茶化すんじゃなくて、意味のあるものとして落とし込みたいという思いがあったんです」
「ククルス・ドアンの島」のモビルスーツは、CGで表現した。田村さんは、CG制作にあたり、“安彦風”デザインのガンダムとドアンザクのプラモデルを自作し、スタッフに参考にしてもらったという。
「カトキさんがデザインしましたが、安彦さんのコンテに合わせて動かさなければいけません。カトキさんのデザインと安彦さんの絵は、方向性が違うので、その両立を目指したいという話になり、CGのスタッフの方と打ち合わせをする際、プラモデルを使って、ここの脚の細さはこれくらいにしたらいい……と説明しました。安彦さんが描くガンダムの顔、カトキさんがデザインしたガンダムの顔も違うので、メカニカルな格好よさを見せたいところはカトキさんのデザインにするなどカットによって、いいとこ取りをしようとしました」
「ククルス・ドアンの島」は、モビルスーツがメカらしく格好よく見えるシーンがあれば、まるで人間のような躍動感で動き回るシーンもある。
「カトキさんのデザインは立体としての格好よさがあります。安彦さんのメカはキャラクターとしての楽しさ、肉体感があります。安彦さんのメカは、乗っている人のキャラクターが乗り移ってるんですよね。両方のいいところをどうやったら出せるんだろう?というのが、この作品のチャレンジでした」
「ククルス・ドアンの島」は、安彦監督が描くキャラクターがアニメとして動いているという感動がある。安彦監督の描くキャラクターは魅力的だ。まねしようとしてもできない絶妙なバランスで成り立っているようにも見せる。田村さんは、安彦監督の描くキャラクターを「特殊」と感じているという。
「特殊です。すごく難しいんです。安彦さんの絵は、形が決まってないっていうか、決められないんです。気分を表しているものなので、気分によって形が変わるんです。アニメーションで、そこをいかに拾うか?というのが、すごく難しい。ちょっと口の位置がずれるだけで、気分が変わってしまう。原画でできても、動画がダメになってしまうことがあります。海辺の砂の城を作るみたいな感じですね。波ですぐ崩れてしまいそうになるけど、何とか形を保つ。ちょっと無茶だなとは思いつつ、何とかやった感じですね。正直に言うと、安彦さん本人しか描けないんです。でも、魅力的なので、作りたい!という気持ちになる」
田村さんは安彦監督の描くキャラクターについて「振り幅も広い」とも話す。
「『ガンダム』シリーズは、基本的に安彦さんが作ったキャラクターをベースにして、いろいろな方向に進化していきました。『閃光のハサウェイ』は、安彦さんのスタイリッシュなところを進化させていくとああいう形になりますし、『ろぼっ子ビートン』とかギャグも描いていましたしね。振れ幅もすごく広いんです。『ククルス・ドアンの島』は、その振り幅を広めにとったつもりです。子供たちもいっぱい出てくるし、戦争をしてる大人も出てくる。その両方が共存できる幅を考えるのも難しいところでした。全部、安彦さんのキャラクターにしたいんだけど、できるんだろうか?という戦いがずっとありました」
田村さんは話しながら、自身が描いたアムロの絵を見せてくれた。テレビシリーズ、劇場3部作、「THE ORIGIN」のアムロが描かれていた。
「それぞれ微妙に違うんです。『めぐりあい宇宙』が最高!という人もいます。僕もその気持ちがよく分かります。でも、安彦さんは『今の絵で描きたい』とおっしゃるし……。今まで『ガンダム』を見たことがない人にも当然、楽しんでいただきたいですしね。基本的に『THE ORIGIN』のスタイルで描くけど、昔のニュアンスを入れようとしました。さじ加減が難しく、悩み抜きました」
「ククルス・ドアンの島」で、安彦監督と一緒にアニメを作る中で、刺激を受けた。
「全く衰え知らずです。原画も描いてくださってるんですけど、とんでもないスピードで、とんでもないクオリティーなんです。なんてことない鳥や煙を描いてもらったんです。ほかの人に頼んでたんだけど、間に合わなくて、どうしよう……となっていた時に、安彦さんが『僕がやるから』と言ってくださって、次の日にはもう出来上がっていました。ほかの人が半年かけてできなかったものを2日でやったり。本当に惜しいですよ。普通にアニメーターをやってほしいと思ってしまう。安彦さんのすごさを目の当たりにして、すごくいい経験をさせていただきました。これまでも、すごい人の作品に参加させていただいてきて、みんなすごいですけど、安彦さんもやっぱりすごかった。自分は全然自信が持てないです。僕も一生懸命、階段を上ってきたつもりなんだけど、上の人がまだ上っているので、全然追いつけないんですよ」
監督としての背中を見て「『THE ORIGIN』以降、コンテを描くし、カットのチェックもするけど、一歩引いているようにも見えます。任せていただいたので、現場としては、作業に打ち込めます。ただ、違うところは、きっちり言ってくださいます。そのスタンスもいいですよね。信用してくださっている以上は裏切れない。だからこそ精いっぱい頑張ろうとするんです」と感じたという。
田村さんの言葉は「ガンダム」シリーズ、安彦監督へのリスペクトや愛にあふれている。リスペクト、愛を込めて「ククルス・ドアンの島」を作り上げた。
「それがないとやっちゃいけない題材だと思いますしね。愛情がある以上、全身全霊で、後悔がないようにやることが大切だと思っています。それが礼儀ですし。自分なりに思いを込めたつもりです。『見せてもらおうか!』と待っているファンの方々に楽しんでいただけるといいのですが」
田村さんをはじめとしたスタッフが込めたリスペクト、愛を存分に味わってほしい。
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