2011年の映画「阪急電車 片道15分の奇跡」で祖母と孫として共演した芦田愛菜さんと宮本信子さん。そんな二人が11年の歳月を経て“友達”として再共演を果たしたのが、6月17日に公開される映画「メタモルフォーゼの縁側」だ。宮本さんが芦田さんを「直観的にうまくいくと思える相手」と称すると、宮本さんの言葉に「本当にうれしいです」と笑顔を見せた芦田さん。そんな二人が再共演して、改めて感じた互いの印象や、作品への思いを語った。
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本作は、「このマンガがすごい!2019」のオンナ編第1位を獲得した鶴谷香央理さんの同名マンガを実写映画化した。芦田さんは、人付き合いが苦手な17歳の女子高生・佐山うららを、宮本さんは、そんなうららとボーイズラブコミックを通じて友達となる75歳の女性・市野井雪を演じる。脚本は岡田惠和さんが手掛けた。
芦田さんは「原作がすごく好きなんですよね」とつぶやくと「自分に自信を持てないうららが、ボーイズラブという好きなものを通して、雪さんと出会うことで生き生きとしていく姿を見ていると、好きなものを好きだと胸を張って言えることの大切さを実感しました。そして自分のことを受け止めてあげてもいいのかなと、すごく励まされたんです」と作品の持つ力に感銘を受けたことを明かす。
宮本さんも「柔らかくて温かくて、素晴らしい世界ですよね」と原作の持つ魅力を述べると、「果たしてこんなことが現実に起こり得るのでしょうかと思うのですが、このマンガの世界を、人間物語としてリアリティーを持たせて着地させた岡田惠和さんの脚本が素晴らしかった。大きな応援歌のようであり、人を信じることの素晴らしさも実感できました」と「阪急電車 片道15分の奇跡」でも脚本を務めた岡田さんの手腕を絶賛する。
役に向き合う際、芦田さんは「原作の雰囲気がすごく好きだったので、それを壊したくないという思いを強く持ち、うらら像を想像して臨みました」と明かすが、実際に現場で宮本さんと対峙(たいじ)することで「私が頭で考えていたうらら像をはるかに超えるような、自然と体が動き出すような感覚を引き出してくださいました」と宮本さんに感謝する。
一方、夫に先立たれ、一人で書道教室を営み、なんの不自由なく暮らしているにもかかわらず、ため息の回数が増えていく雪という役。宮本さんは「彼女のいままで生きてきた人生はどんなものだったのだろうかというのは考えました」と話し出すと「雪さんの気持ちは本当に分かります」と感情移入する役だったことを明かす。
続けて宮本さんは「一冊の本を見つけただけで、世界が大きく変わる。ワクワクした気持ち、いきいきとした毎日。すごくすてきですよね」と笑顔を見せると「私は雪さんが偉いと思ったのは、うららさんをお茶に誘うじゃないですか。あれがすごく好きなんです」と少しの勇気で、自分の人生が大きく変わるストーリーに強い共感を覚えたという。
うららと雪には58歳という年の差がある。「阪急電車 片道15分の奇跡」では、祖母と孫という関係性を築いた芦田さんと宮本さんが、本作では“友達”という立場で対峙する。
11年ぶりの共演となった二人だが、芦田さんは「『阪急電車』のころはすごく小さかったので、あまり俳優としてどうかという感じ方はできなかったと思うのですが、この作品の最初のシーンの撮影のとき、宮本さんから『よろしくね、頼りにしているわよ』と声をかけてくださったとき、すごくうれしくて緊張がほぐれました。宮本さんがそのように接してくださったので、毎日撮影が楽しく、二人の関係性もすごく自分のなかでイメージしやすかったんです」と感謝を述べる。
一方の宮本さんは「『阪急電車』の撮影のときは、とても寒くて、ぶるぶると震えていたんです。でも『大丈夫?』と聞くと、愛菜ちゃんは『大丈夫です』ってね。本当に我慢強い子だなと思っていたんです」と撮影当時を振り返ると「今回ご一緒すると聞いたとき、愛菜ちゃんならなんの不安もないと思えたし、しっかりとキャッチボールができるだろうなと思えました。お相手が芦田愛菜さんだと伺ったとき『あぁ、良かった』と思えたんです」と絶大なる信頼感があったという。
さらに宮本さんは「パッと見て『この人とはうまくいくな』と思うことってあるんです。直観的に相性がいいなと思うことって結構大切で……。愛菜ちゃんにはそういう感じがありました」と語ると、芦田さんは「すごくうれしいです」とはにかんでいた。
ボーイズラブコミックで打ち解けた二人。芦田さんは「私は猫を飼っているのですが、すぐ人にうちの猫の写真を見せて『可愛いでしょ?』って言ってしまうんです。動物の話とか、音楽、あとは歴史が好きなので、そういう話だと、結構じょうぜつに語ってしまい、距離が縮まったりします」と語ると、宮本さんは「赤ちゃんができたら大変そうね」と笑う。
そんな宮本さんは「私はあまり趣味とかで盛り上がるような感じはないんですよね」と語ると「30年、40年、50年来の友達とは、そんなにしょっちゅう連絡を取らなくてもいい感じなんです。でもそういった関係性が長く続いているので、それはそれで快適なんですよね」と距離感の合う人が長続きする秘訣(ひけつ)だと明かす。芦田さんにとっての友情をはぐくむための秘訣を問うと「自分の苦手なところや弱いところを話せると、深まると思います」と答えた。
「自分にとって恥ずかしいと思っていることでも、きっと受け止めてくれる人がいる。勇気を持って心を開いたことで、そういう人と出会えたなら、すごく人生が変わると思うんです。その意味で前向きになれる作品だと思います」と映画の持つメッセージ性を述べた芦田さん。宮本さんも「閉塞感がある日常ですが、映画をご覧になって、自分の好きなことをしっかりと表現することで、なにか大きな変化が生じるかもしれない……そんなことを思わせてくれる作品だと思います」と語った。(取材・文・撮影:磯部正和)
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