楠木ともり:「存在」と「不在」 共鳴する2枚のアルバム 抱えきれない大きな感情を表現

アルバム「PRESENCE」「ABSENCE」を発売する楠木ともりさん
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アルバム「PRESENCE」「ABSENCE」を発売する楠木ともりさん

 声優でシンガー・ソングライターの楠木ともりさんの初のフルアルバムが、5月24日に発売される。「存在」を意味する「PRESENCE」と「不在」を意味する「ABSENCE」の2枚のアルバムが同時に発売されることになった。2枚のアルバムには、これまでに発表してきた全16曲に、豪華アーティストによる提供楽曲を含む6曲を加えた、全22曲が収録される。楠木さんに初のアルバムに込めた思いを聞いた。

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 ◇「存在」「不在」の意味

 --2枚のアルバムを同時発売することになった経緯は?

 これまで発表してきたEPは、表題曲とほかの曲というわけではなくて、どの曲も同じように聴いてほしいという思いがありました。曲によってジャンルもいろいろありましたし。アルバムにするとなった時、どの曲も削りたくないと思ったんです。どれも大事ですし、全部を聴いていただくことで、私が作ってきた世界観を届けたかった。それで、2枚同時発売することになりました。せっかく2枚作るのであれば、それぞれにテーマを持たせたかったんです。これまで「自分とは何か?」を歌詞として書くことが多かったこともあって「存在」「不在」をテーマにしました。

 --これまであった曲を「存在」「不在」に分けた?

 「存在」は、自分が憧れている存在、目指す存在、ネガティブな意味だと自分の中に存在している嫌なところを歌った曲が多く、「不在」は、誰かがいなくなってしまうことや、自分に足りないものをテーマに分けました。分ける曲はすぐ決まりました。これまで「存在」「不在」をすごく意識して作っていたわけではないのですが、私が作る曲の共通項を見つけられたんです。

 --計6曲の新曲が収録されます。「TOOBOE」が提供した「青天の霹靂」はどうやって生まれた曲ですか?

 アップテンポで、少し毒々しい曲を考えていました。TOOBOEさんにはそれしか伝えていないんです。あとは「存在」「不在」というテーマがあって「存在」に収録される曲という話をして、「普段どういうときに音楽作るんですか?」という質問があり「気持ちを吐き出すための手段です」とお話しました。そうしたら、本当にイメージ通りの曲だったんです。レコーディングも一番早く終わりました。入り込みやすくて、感情プランを組み立てやすかったんです。

 --「Co shu Nie(コシュニエ)」が提供した「BONE ASH」は?

 自分の存在証明、自分という存在に対する向き合い方がすごく出ている曲です。「存在」と聞くとどうしてもポジティブに聞こえますが、それだけではないんです。ポジティブになる前のもがき、自分という存在を受け取れず、考え直す……というイメージもあって、そこがすごく出ている曲になりました。

 --「ABSENCE」でmeiyoさんが提供した「StrangeX」は可愛らしさがありつつ、それだけではない魅力がある楽曲です。アレンジも面白い。

 何かが足りていない女の子を表現したかったんです。虚無感、何かを無くしてしまったようなイメージで、これまでのEPにもそういう曲を入れたかったのですが、少ない曲数のEPには入れにくいところもあって、アルバムで挑戦しました。ポップで温かさのあるmeiyoさんの曲が好きで、その雰囲気でお願いしました。ちょっと不思議ちゃんですね(笑い)。最初、デモを聴いた時、歌詞も相まって、ロボットっぽさを感じたのですが、印象的なストリングが入ることで、血が通ったような温度を感じました。すごく感動しました。うまく歌おうとせずに、でもそれが良さになるように意識して歌いました。

 --「ハルカトミユキ」が提供した「それを僕は強さと呼びたい」は、心の叫びのようなものを感じました。

 一番歌うのが難しかった曲です。ハルカトミユキさんは中学生の時から大好きでした。誰かに教えてもらって聴いたのではなく、私が自分の意志で聴いたアーティストさんでして、思い出深いんです。この曲は、ライブの最後の方で照明が白っぽくなって、爽やかなアップテンポロックの曲……というイメージを伝えました。ちょっと暗さはあるんですけど、爽やかにライブを終えられるような雰囲気です。譜割がフォークっぽいといいますか、畳みかけている感じで、後ろにリズムを取らないといけなかったんですけど、私は普段、ロックばかり聴いているので、どうしても前になっちゃうんです。後ろに後ろに……と落ち着いて歌うのがすごく大変でした。

 ◇感情を吐き出したいから曲を作る

 --自身が作詞作曲した「presence」は不安定さも感じる曲です。

 元々もっと明るい曲にしようとしたんです。ポップな曲を書きたかったんですけど、そういうテンションではなくて、どんどん暗くなって、これは難しいな……と思って、一度筆を止めました。でも、書きたいという衝動がすごくあって、こういう曲になりました。サビで「ブザーがなるよ」という歌詞がありますが、誰しも衝動を抱えていて、それを放出してみないと、何に対してのパワーなのかが分からないと思っていて、そこを表現しています。この曲は「遣らずの雨」とつながっていて、アナザーストーリーみたいなところもあって。「遣らずの雨」は衝動がネガティブな方向にいく曲でしたが、この曲はポジティブな方向に変えていこうとしました。

 --「遣らずの雨」は「ABSENCE」、「presence」は「PRESENCE」にそれぞれ収録されています。

 対照的なところもあって「presence」の「僕自身を笑わせるため」に対して「遣らずの雨」の「君の笑顔で誰かが救われるのに 君の笑顔は誰も守らないのか」は、誰かのために自分をすり減らしてしまったことで、パワーが悪い方向にいってしまっています。「presence」は、自分のために頑張ろうとしたことで、何とか自分を守れた……と対比として書いています。

 --2枚のアルバムは「存在」「不在」とコンセプトが異なりますが、全く別のコンセプトというわけではなく、共鳴するような関係にあるようにも感じます。

 そうなんです。「もうひとくち」「眺めの空」は同じ登場人物のことを歌っていますし、「僕の見る世界、君の見る世界」「narrow」も同じ時間軸の曲になっていますし。順番としては「PRESENCE」を先に聴いていただくことを想定しています。

 --新曲「absence」の作詞作曲を手掛けています。

 「存在」「不在」というテーマが決まりかけてきた時、ずっと担当していただいていたマネジャーさんが、別の仕事に就かれることになったんです。私はそのことをずっと引きずってしまっていて、この気持ちを残しておきたいという思いから書いた曲です。別れの曲なんです。感情を生々しく表現しようとしました。歌声を届けたいという思いから、なるべくシンプルな編成にしようとしました。

 --ピアノとストリングスのアレンジが印象的な楽曲になっています。アレンジを手掛けたのは徳澤青弦さんです。

 オーケストラに合わせて歌う「With ensemble」という企画に参加させていただいた時、青弦さんとご一緒させていただき、その時のイメージがこの曲にすごく近かったこともあって、お願いしました。青弦さんには、マネジャーさんのお話をしていなかったので、「恋愛の曲なの?」と言われたのですが、違います! 久々に自分のことを生々しく書いた曲になりました。

 --自分について書くことは、自分を削っていくようなところもあるのでは?

 そうですね。すごく苦しさもあったし、曲として形に残したので、歌う度に思い出すんですよね。ライブで歌っていてもすごく感情が湧き上がってくるんです。

 --自身が作詞作曲を手掛けた新曲2曲はどちらも心の葛藤を表現しているようです。

 自分では抱えきれない大きな感情、気持ちを残しておきたい、吐き出したいから曲を作っているところもあるんです。

 ◇ファンの声が原動力に

 --アーティストデビューから約3年がたちました、変化は?

 最初の頃は、誰かに届けたいという気持ちがあまりなくて、自分が歌いたいことを歌っているところもあったのですが、今は何かを届けたい相手が明確にいて、その誰かに対する願いや気持ちが楽曲に反映されるようになってきました。

 --ライブなどを経験し、ファンを前に歌ってきた中で変わってきた?

 そうです。ライブ自体も変化していて、段々と来てくださった方々に、こういう気持ちになってほしい、ライブを思いだした時、こう思ってほしいということをちゃんと考えるようになってきました。根本的な部分は変わってないんですけど、誰に届けるかが明確になればなるほど、書きたいことが湧いてきますし、曲を作る原動力になっています。

 --7月29日からライブツアーもスタートします。

 声出し解禁です! メジャーデビューしてから、声出しのライブはできてなかったんです。「アカトキ」はみんなで歌うパートを作ったのに、これまでできなかったので、楽しみです。みんなと一緒に楽しめるライブにしていきたいです。

 --声優としても大活躍中ですが、声優、アーティストの活動のそれぞれが影響を受け合っているところもある?

 すごくあります。曲に対する感情の込め方は、声優をしてないと身に付かなかったことだと思いますし、すごくそこは作用しているんじゃないかなと思います。

 --今後、アーティストとして挑戦したいことは?

 今回、今まで作ってきた曲を新たな形で組み直していくのが、難しいことではあったのですが、やっぱり楽しかったです。曲作りを精力的にやっていきたいです。

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