名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
2007年にフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された人気テレビアニメ「モノノ怪」の約17年ぶりの新作となる劇場版「劇場版モノノ怪 唐傘」が、7月26日に公開された。「モノノ怪」は、2006年にノイタミナで放送された「怪 ~ayakashi~」の一編「化猫」のスタッフが再集結して制作。薬売りの男がモノノ怪に立ち向かう怪異譚(たん)で、スタイリッシュなキャラクターデザイン、和紙のテクスチャーなどCG処理を組み合わせた斬新な映像が話題となった。新作の舞台は情念渦巻く“女の園”大奥。メインキャラクターである大奥の新人女中のアサとカメを演じるのが、人気声優の黒沢ともよさんと悠木碧さんだ。「モノノ怪」という作品に対峙(たいじ)し、二人は何を感じたのか? 収録の裏側を聞いた。
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黒沢さん 「モノノ怪」というシリーズ自体が元々大好きだったので、改めて設定資料をいただいた時にすごい絵の細かさと、何よりも中村(健治)監督の熱量からくる設定の細かさに圧倒されました。やはり、この世界観が大好きだなと改めて思いました。
悠木さん そうですね。テレビアニメの時点で、アニメーション業界にとってものすごくセンセーショナルな作品で、いろいろな人が「その手があったか」と思ったけれど、きっと追随を許さない。これだけ時がたっても新しい表現として残っている。そういう印象の作品だなと思っております。今回、あの当時の良さみたいなものが、今の技術になって帰ってくるというか。本当に色彩と緻密さの迫力にのまれるという感じがありますね。
黒沢さん オーディションを受けさせていただくとなった時に、私は「これを作っている監督に会いたい」という気持ちがすごく強かったので、受かったと言われた時には「これで監督に会える!」とうれしい気持ちでいっぱいでした。
黒沢さん 熱量がものすごいですし、赤裸々といいますか、包み隠さずに物語を「こういう意図で作った」「こういう思いで作った」「こう見せたい」と。時間が足りないくらい面白いお話をいっぱい聞けてうれしかったです。ほぼ一方的に豪速球をいただいて(笑い)。和気あいあいとお話ししてみたいという夢はかなわなかったのですが、「監督のお話を聞けた」という喜びを感じていました。感動しました。
悠木さん オーディションでカメ役に決まったのが、自分的には意外だったと言いますか。ただ、カメの枠にはまることができない、伸び伸びしちゃうところをいとおしいなとは確かに思っていました。それが煩わしい気持ちも、いとおしい気持ちも分かるから、どっちにも取れるようにやろうとオーディションに臨んだので、それが採用してもらえたのはすごくうれしかったです。また、この作品は絵作りはものすごくアーティスティックで現実離れしている一方で、人間ドラマはリアルというのが特徴的じゃないですか。だからこそ、互いが際立つというか。だから、このカメというキャッチーなキャラクターを、どうやってみんなの生っぽい芝居に合わせていくかが結構肝だなと思いながら「気合入れていくぞ」という感じになりましたね。
悠木さん アサもカメも受けていて。アサは誰なんだろう?とすごくワクワクしていました。ともよちゃんがアサ役と聞いて、「なるほど!」と思って。
黒沢さん 意外ですよね。
悠木さん いつもなら逆だよね。
黒沢さん そうなんですよ。私はカメ役の選択肢がなくて、アサ役だけを受けたので「アサなのか」と。あお様(悠木さん)がカメ役と聞いて、「本当ですか! 心強いです!」と。
悠木さん 私は、ともよちゃんが全部尻拭いをしてくれるんだ、じゃあいっか、みたいな(笑い)。もちろん、ともよちゃんの力量は絶対的ですし、私も「やった!」と思って。これは、すごく伸び伸び演じていいやつだ、みたいな気持ちで心強かったですね。
黒沢さん アサに関しては、大奥に入るまでに結構長く暗い過去があったという設定を監督から伺ったので、現代に生きる私たちから見た価値観とは、また違った言葉の捉え方をしていく子になるんじゃないかな?という予想を立てて現場に入りました。オーディションの時にいただいたせりふが長いものばかりで、しゃべり方に特徴がある子なのかしら?と思っていたので、母音と子音のバランスをほかの作品とはちょっと変えて、ハキハキとしゃべる古典的なしゃべり方を意識していました。
黒沢さん アサの暗い過去というものが、本編には全く描かれないし、気付かずに見終わる人もいるとは思うのですが、監督からは「おなかの中にはちゃんと持っておいてほしい」と。最初の監督の“豪速球”の説明で、髪の毛の色や身長などルッキズムですごく悲しい思いをしてきたとか、父親との関係が結構複雑であったということを言われました。執着するポイントがいっぱいあるという感じでしたね。
悠木さん カメは本当に愛情をいっぱいに受けて伸び伸びと育って、甘やかされてきたし、そのせいでそそっかしい。ただ、それも「可愛い」と言われて育ってきたのでしょう、という。非常に自由な子なんですけれど、それが型にはまらないといけない、大人にならなきゃいけなくなった時にどうなるか?と。この大奥において、最も波乱を引き起こす人物になる。
悠木さん ただ、本人としては、波乱を引き起こしたことに罪悪感もあって、「なんでみんなと同じようにできないんだろう」という悩みみたいなものもある。それを理解してくれたのがアサちゃんで、言ってみれば、カメの出来なさがアサの居場所になるというか。「社会って、そういう凸凹でできているよね」の“凸”のほう、みたいな子ですね。監督からは、カメは女の子をイラ立たせるところがあるけど、悪い人ではなくて、善意100%なところがややムカつくと。その恐れ知らずなところが大人には怖くも見えると。それ以外は「とにかく自由にやってください」と言われました。カメ役だから、解き放たれていたんだと思います(笑い)。
黒沢さん 時代感も相まって、シーンによってはちょっと浪曲のような言い回しもあったので、何人かで言葉をつないでいってるわけじゃないけど、結果そうなっているように聞こえたらいいなと。そういう意図があるんだろうなというシーンがありました。ほかのキャストの方からもらって、つないでいくという、感情としての演技とはまたちょっと違った言葉遊び的な楽しさがありました。それはこの作品ならではだなと思いました。非常にエモーショナルにしゃべってる人がいる場で、非常に“ベタ”に演じている人もいて、“作画が違う人”たちが混ざっているみたいな感じがあって、面白いなと思いましたね。
悠木さん それで言うと、カメちゃんは、他のアニメの中にいたら正統な主人公になれた人かもしれない。例えると、カメちゃんは「プリキュア」だったらピンクのキャラなんですよ。ちょっとドジっ子だけど「頑張ります!」「みんなに愛されて育ってきました!」みたいな。それが全く違う作風の作品にぶち込まれたものだから、台風の目になる。それで、カメちゃんなりに一生懸命悩んだり、七転八倒するんだけど、カメちゃんの“形”が変わることはないんですよね。彼女の“形”が変わらないことに意味があるから、すごく面白いキャラクター性だなと思いました。彼女だけ変わらないから、ずっと違うアニメの人みたいで、それこそ作画が違う(笑い)。王道な愛され天然キャラを、こんなにも異質に描くんだというのが、すごくよかったです。
黒沢さん その解釈をぶち込まれると、他のアニメの“ピンク”キャラを見ていても息苦しくなっちゃいそうですね。「頑張らなくてもいいんだよ」って。
悠木さん “ピンク”の七転八倒がね。ほかのアニメなら、カメちゃんのような子を支えてくれる仲間が、アサちゃんだけじゃなくてほかにもいる。でも、今回は大奥という場所だから、チームワークをうまく築けなかった。何かがちょっと違えば、みんなとも仲良くできたかもね、という。そういう歯車を狂わせるモノノ怪が大奥にはいたという。王道が狂っている、常識が狂っている面白さがありますよね。
黒沢さん もしかしたらカメは、アサがいなかったらうまくやれていたのかもしれないですよね。
悠木さん たしかにね。
黒沢さん カメちゃんはやっぱり元気ハツラツ!というのと、あとは物語を動かしていってくれるところが大きかったかなと思います。
悠木さん そうだね。カメはずっと何かが“有り余っている”もんね。アサはカメの尻拭いをずっとしてくれるキャラクターなんですけど、私がオーディションでアサを受けた時は、形式的に演じていた自覚があったんです。でも、ともよちゃんがアサを演じる時に「あえて違和感を作っていった」という話をされていて。その作られた違和感によって「この人はこの形になりたくてなったわけじゃないけど、この形じゃないと、どこにも受け入れてもらえないからこうなった」という弱さがのぞくというか。こういうキャラクターバランスが正解だったんだと、納得したところがありました。対するカメは、その違和感にも動揺しちゃいけない人だと思って、「この形のアサちゃんもすてき!」とならなきゃいけないんだ、という気持ちでアサを見ていました。
黒沢さん 私は、カメに対して「目が合わないキャラクターだな」とずっと思っています。アフレコをしていても、目が合わない感じがするというか。私(アサ)はすごくカメのことを見ているけど、「カメは私のことを見てくれてないかも?」という不安がずっとあって。それはカメの魅力の一つでもあるんですよね。アクがそのままうまみになるのと一緒で。
悠木さん 自分の飼っている犬が、来客の膝の上に座った時のモヤッと感に似ているかもしれないね。「えっ、お前、誰でもいいの!?」みたいな(笑い)。
黒沢さん すごく分かります! あと、ふと引いた目線で、あお様の演じるカメを見ていると、愛されようとしている、こわばった笑顔がすごく印象的で、これを見て胸がギュッとなる同世代の女の子は多いだろうなってすごく思いました。
悠木さん そうだね。「不器用だから頑張ってるんですけど」という。でも、その「好かれたい」を媚(こ)びと捉える人もいる。一方、アサはそこが全然なくて、実力だけで見せていかないといけない過去がきっとあったんだろうね。
黒沢さん アサはカメみたいにはできないんだと思うんですよね。「ああやってできたらいいのに」と思っている面もある気がしていて。甘えられないし、甘え方が分からない。カメは、甘え上手でここまで生きてきたんだろうけど、甘えられない環境に来て、アサとしては「どうしたらいいか分からなさそうにしている人がいて、私もどうしたらいいか分からない」みたいな。カメとアサのやり取りは、メロディーとベースみたいな感じで、あお様のカメがメロディーを奏でてくれるので、私はそのメロディーが休符になった時に音を鳴らせるようにと。そういう絶妙なバランスは、全部あお様が作ってくれているなと思います。
悠木さん いやいや、お互いあってこそですよ。
インタビュー(2)に続く。
黒沢ともよ×悠木碧 対談(2)へ続く
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