2.5次元の誘惑:リアリティーから生まれる共感 奥深いコスプレの世界を丁寧に描く 岡本英樹監督インタビュー

「2.5次元の誘惑」の一場面(c)橋本悠/集英社・リリサ製作委員会
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「2.5次元の誘惑」の一場面(c)橋本悠/集英社・リリサ製作委員会

 集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載中の橋本悠さんのラブコメディーマンガが原作のテレビアニメ「2.5次元の誘惑(リリサ)」。原作はコスプレを題材とした“熱血青春コスプレ”マンガで、女性キャラクターの可愛さが話題になっているが、“熱血”であることが大きなポイントになっており、アニメでも“可愛さ”と“熱血”が表現されている。原作はコスプレを文化として丁寧に描いているが、アニメではどのように表現しようとしているのだろうか? アニメを手掛ける岡本英樹監督に聞いた。

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 ◇カメラのシャッター音までこだわった!

 「2.5次元の誘惑」は、現実の女性に興味がなく、2次元のキャラクター・リリエルを愛するマンガ研究部部長の奥村正宗が、「リリエルになりたい」という3次元女子・天乃リリサと出会い、コスプレーヤーの情熱や思いに触れ、苦難を乗り越え成長していく姿を描いている。2019年に「少年ジャンプ+」で連載をスタートした。

 アニメ化を企画したADKエモーションズの実松照晃プロデューサーは「熱血マンガです。可愛いだけじゃないんです。絵がすごくうまい先生なので、これをアニメ化するには根性がいる。内容はジャンプの王道ではあるのですが、主人公がオタクということもあり、このオタク感がどう伝えるかも難しいところです」と一筋縄ではいかないと考えていた。そこで、白羽の矢が立ったのが、岡本監督だ。

 実松プロデューサーは岡本監督について「そんなところまで!となるくらい、とにかくこだわる人です」と語る。岡本監督は「D.C.II ~ダ・カーポII~」「このはな綺譚」「マナリアフレンズ」などを手掛けたことで知られている。岡本監督は原作をそのように読んだのだろうか?

 「松倉(アニメを制作するJ.C.STAFFの松倉友二プロデューサー)から『コスプレものなんだけど……』と言われて、原作を読み始めました。松倉とはほぼ同期で、付き合いも長いので『お前なら分かるだろう!』という感じで、あまり説明はされなくて(笑)。読み始めると、アニメ化した際に、どう落とし込めばいいのか最初は見えてきませんでした。ただ、コスプレイベントに出るエピソードになってくると、熱い部分が見えてきて、熱血を主軸にすることを考え始めました。僕自身も高校時代にアニメ研に入っていて、コミケに参加したこともありますし、現場の熱量は理解していたつもりです。そこに共感してもらい、独特の熱気に興味を持っていただけるようにしようとしました。先生もコミケなどを経験されていることは読んでいて分かりましたし、そこをしっかり伝えることができれば、現場に行ったことがある人に共感してもらえるし、知らない人には、こんな熱い場所があるんだ!と興味が湧いてくるはずだと考えていました」

 岡本監督自身もミリタリーマニアで、カメラが好きなどオタクであることから共感できるところがあった。オタクとしての“こだわり”を理解できることもあり、アニメでも“こだわり”を表現しようとした。

 「ジャンルは違っても興味の持ち方は変わらないはずです。どこをリアルに表現するかが大切になってきます。マニアが見た時に『これは違う……』と感じると、冷めてしまいます。もちろん、アニメなのでウソもあるのですが、リアルな部分をしっかり描いていれば、見た人が冷めずに、共感してもらえるはずです。共感してもらえれば、作品を好きになる一つの大きなきっかけになると思います」

 コスプレのリアルを表現するために、岡本監督は数々のコスプレイベントを訪れ、取材を重ねた。

 「コスプレイベントの雰囲気、作法、取り巻く環境、カメラマンたちがどういう機材を使って、コスプレーヤーとどう向き合っているのか? コスプレーヤーやカメラマン以外の参加者はどういう目で見ているのか? そこをしっかり描くことができれば、リアリティーを表現できると思っていました。コスプレを撮影している際のカメラのシャッター音も録音しました。カメラは、メーカーや機種によってシャッター音が違いますし、聞く人によってはそれが分かります。例えば、キヤノンのカメラが描かれているのに、ソニーのシャッター音が鳴っていたら、知っている人は一瞬、うん?となります。分かる人には分かるんです。それではリアリティーが損なわれてしまいます。説明はしていませんが、そういう共感できるポイントを作ろうとしました」

 奥の深い世界を表現するために、細部にこだわった。

 「知らない人は、衣装を着て、メークして終わりだと思うかもしれませんが、違うんですよね。例えば、風が吹いても髪が崩れないようにどうしているのか? アニメの雰囲気を損なわずに立体化するのはどうしているのか? コスプレーヤーもカメラマンもアニメを見てくれるはずなので、その方たちが、がっかりするようなアニメにはしたくありません。コスプレもカメラも奥が深い世界です。原作がそこから逃げていないので、我々も逃げられません。コスプレの世界を知らない人は、沼にズブズブと浸かりやすいようにして、既にハマっている人にとっては心地よい温泉のように感じていただけるようにしたかったんです」

 ◇可愛いキャラクターをどう表現するか?

 キャラクターの可愛さ、美しさも原作の大きな魅力だ。

 「ファンの方が頭に思い浮かべるリリサや美花莉などは多分一つだと思うんです。そこに共感してもらえないとまずいのですが、最新エピソードのキャラクターを忠実にトレースすればいいのかと言えば、そういうわけではない。リリサのアイデンティティーを構成する部分はどこか? どういうふうに見せれば、この子がキラキラ見えるのか? そこを探ろうとして、キャラクターデザインに丸投げしました(笑)」

 こだわったのは光の表現だ。

 「光の入り方に力を入れました。原作のカラーイラストを参考にして、リリサだったら、顔の輪郭の部分、前髪、もみあげの辺りを明るくしています。ただ、ハイライトを入れればいいわけではありません。キャラクターの髪の毛量が多く、線も多いのですが、線が多ければ多いほど暗く見えてしまいます。それを緩和する技を探ってもらったところ、一部を少し明るくして、ハイライトの光の量を少し減らして、バランスを取りました。作画で指定して、撮影で調整しています。最近、髪にグラデーションを入れることがあるのですが、その技術を使っています。セルの時代にはできなかったことです」

 目も重要な要素だ。アニメならではの動きを付けることで、キャラクターの繊細な感情を表現しようとした。

 「基本は原作に忠実に目を描こうとしました。キレイに見せながら、動いても崩れないところはどこだろう?と探っています。リリサはコスプレをする前と後では目の描き方が違います。コスプレ後は特殊な発色にして、差をはっきりさせました。目の動き、視線誘導も大事です。顔のアップになった時、視聴者は、まず目を見ます。そこから感情表情を推し量るので、目力が大事です。少し揺れる、大きく揺れる、泳ぐ、少しまぶたを下げる、ガッと開き、瞳孔がキュッと閉まるなど芝居を大事にしています。それと指ですね。僕がよくやることなのですが、指先や手にも芝居をさせています。顔が見えなくても、指先の動きで緊張を表現するなど、芝居の作り方にこだわっています」

 「2.5次元の誘惑」はリリサをはじめキャラクターがキラキラしている。

 「イメージ、背景もなるべく原作を再現しようとしました。アニメに落とし込んだ時にどうすればよりきらびやかに見えるのか? 撮影と美術に相談して、微妙に動かして光を入れてみたり、逆に動かないようにしたりして、カットごとに感情の重さ、大きさが違うので、それに合わせて微妙な動きを調整しています」

 抜群のスタイルのキャラクターも多く登場する。

 「原作がそうなのですが、スタイル、全体のバランスがすごくいいんです。実際、コスプレーヤーの写真にしても、露出度が高くても、いやらしく見えるのではなく、格好よく、キレイに見えることがあります。もちろんセクシーなのですが、美しい一枚の絵のようにも見えます。そこを大事にしようとしました。ポーズや表情を変えるタイミングがあって、カメラマンがカメラを構え、一番いい表情、ポーズでシャッターを切るリズム感も出そうとしました。コスプレも撮影も全ては表現です。そこを大事にしたかったんです。奥村の目線だと、マンガやアニメに造詣が深いけど、最初はコスプレのことはよく分からなかった。いい写真を撮るとはどういうことか?などは全て初体験です。奥村がコスプレや撮影にのめり込んでいくところに、共感してもらいたかった」

 アニメは2クール目に突入し、リリサたちはコミケに初参加することになる。コミケは同作における大きな見せ場の一つだ。

 「2クールないと表現できないことが多い作品です。前半はじっくりキャラクターを深掘りして、10話以降くらいからテンポが上がっていきます。練習試合から地区大会、全国大会……と駒を進めるように、どんどん大きくなっていく中で、夏コミをしっかりと夏コミとして描こうとしています。もちろん人間ドラマが主体ですが、物語をしっかり支えるための土台となるリアリティーをしっかり表現していきたいですね。コミケに参加したことがある人は初めての時のことを追体験でき、行ったことがない人は、こんなに熱い現場があるんだ!と感じていただけるようにしようとしています」

 実松プロデューサーの「とにかくこだわる人」という言葉の通り、岡本監督は細部までこだわり抜き、「2.5次元の誘惑」をアニメ化している。アニメでも熱く、暑いコミケが丁寧に描かれるはずだ。

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