ふれる。:秩父から東京、思春期から青年期へ 青春3部作を経てたどり着いたもの 脚本・岡田麿里に聞く

「ふれる。」の一場面(C)2024 FURERU PROJECT
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「ふれる。」の一場面(C)2024 FURERU PROJECT

 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)」、「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」「空の青さを知る人よ(空青)」。秩父を舞台にした青春3部作を手掛けたクリエーター3人の最新作となるオリジナル劇場版アニメ「ふれる。」が公開中だ。青春3部作と同じく長井龍雪さんが監督、岡田麿里さんが脚本、田中将賀さんがキャラクターデザイン・総作画監督を務め、チームが再結集した。東京・高田馬場を舞台に青年3人の友情が描かれる「ふれる。」は、秩父を舞台に思春期の少年、少女たちを描いてきた青春3部作とは趣が異なる印象もある。青春3部作を経て描こうとした新たな物語とは? 岡田さんに聞いた。

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 ◇“本当の友達”って何?

 「ふれる。」は、同じ島で育った幼馴染の小野田秋、祖父江諒、井ノ原優太が20歳になって上京し、東京・高田馬場で共同生活を始めることになる……というストーリー。バーでアルバイトをする秋、不動産会社の新卒社員の諒、服飾デザイナー志望の専門学生の優太は、生活はバラバラだが、島からつれてきた“ふれる”という不思議な生き物の特別な力によって心はいつもつながっており、口にしなくてもそれぞれの言葉が流れこんでくる。“ふれる”で結びついた3人の友情は、隠された“もう一つの力”によって変わっていく。

 「空青」で青春3部作が完結し、長井監督から出た新作のアイデアは、「秩父から離れ、メインキャラクターの年齢を上げたい」「男性を主人公に、男の友情を描いてみたい」というものだった。

 「私たちは、テーマをあまり決めないというか。長井監督は、自分が面白いもの、好きだと思うものを作りたいという非常にピュアな考え方の監督なので、今回どういうことを描いていきたいと話し合っていく中で、3人の男の子の共同生活という話になりました。そこで、やはりコミュニケーションの話なのかな、と思いまして。みんなで一緒に暮らすということは、なかなかうまくいかなかったり、ずっと一緒にはいれないことも多くて、永遠がなかなか見つけられない。でも、それが可能になる状況って何だろう?というところから考えて、ストーリーを作っていきました」

 「ふれる。」の3人の主人公は、幼少期に不思議な生き物“ふれる”と出会い、互いの心の声が聞こえるという“ふれる”の力で友達になった。岡田さんは「本来だったら友達になれなかったのかもしれない子たちが友達になる、というところが自分の中で大きいテーマの一つでした」と語る。

 「思い返すと、『あの花』で私が書きたかったことの一つに、置かれたポジションが変わると友達じゃいられなくなるというものがありました。本来すごく仲がいいはずでも、見た目や趣味嗜好の変化によって昔のようにはいられなくなる。そこを乗り越えていく話にしたいなと。ただ、今回の『ふれる。』はちょっと違っていて、本来だったら友達になれなかったのかもしれない子たちが友達になる。そもそも、どうしたら友達でいられるのだろう? 本質を見ないからこそ友達でいられるのか? それって本当に友達なのか? でも“本当の友達”って何なの?と。作中で『”ふれる”がいなかったら友達になっていなかったかもしれない』というせりふもありますが、そもそも友達になるか、ならないかは奇跡的でもあるような気がして。そういうところをどう描いていこう、と考えていきました」

 ◇思春期に決着をつけられたからこそ描けたもの

 コミュニケーション、友達、状況による関係性の変化。それらを青年3人を主人公にして描く。これまで“思春期”をテーマにした作品を手掛けることが多かった岡田さんは、青年3人が主人公の物語を描くことは楽しかったという。

 「自分としては思春期にこだわりはないんですけど、オーダーとしていただくことが多くて、それは何でかな?と思った時に、もしかして私自身、いまだに思春期を消化しきれてないのかなと。あの時代に置いてきてしまって執着していることが多くて、だからこそ強く描きたがるのかもしれないと思ったんです。そういう意味で、思春期を描いていく中で、自分の中で決着をつけようとしてきた部分もあるかもと思って」

 思春期に決着をつけられてきたからこそ「このくらいの年代を書くのがすごく楽しかったです。私も友達と共同生活をしていたことがあったので、当時の気持ちや共同生活の難しさを思い出したりもして」と語る。

 「ふれる。」の舞台となる東京・高田馬場は、岡田さんが秩父から上京し、一時期暮らしていた土地でもある。

 「最初は、東京の中でも別の候補があったんですけど、長井監督が全然ピンと来てくれなくて。やはり、長井監督は私の出身地とかがいいんだろうなと思ったんです(笑)。そして多分、高田馬場は好きだろうなと。長年一緒にやってきたので、趣味嗜好がなんとなく分かるんですよね。それで『ちょっと見に行きますか?』と行ってみたら、高田馬場に決まりました。とはいえ、それでだいぶ書きやすくなりましたね。高田馬場は学生さんも多いし、上京してきたばかりの学生さんの空気もあって、見ていて物語が浮かぶ場所だなと思いましたね」

 ◇永瀬廉坂東龍汰前田拳太郎の“声の力”

 今作では、小野田秋役の永瀬廉さん、祖父江諒役の坂東龍汰さん、井ノ原優太役の前田拳太郎さんと、豪華俳優陣が3人の主人公を演じることも話題になっている。岡田さんは、「声からいただいた力がすごく大きい」と語る。

 「オーディションテープを聞かせていただいて、その中から選ばせていただいたんですけども、本当にお三方ともすごく良くて。キャラクターの絵、脚本、コンテも上がってきていて、その中で脳内で勝手に再生される声はあったんですよ。こんな感じの声かなというのが。でもお三方は良い意味で、想定の範囲内をちょっと飛び越していたんです」

 永瀬さん演じる秋は、口下手で幼い頃から手が先に出てしまう不器用なタイプで「秋はすごく難しいキャラクターで、なかなか主人公になりにくいというか、真実から目を背けたがっている子だと思うんです。純粋な優しさがあるんだけれど、その優しさが結構自分勝手というか、自分を守るためにも使われている。そこがすごく難しくなってくるんですけど、永瀬さんの声がすごく繊細で、柔らかい涼しさがあって。あの声が入ると、秋の少年ぽさというか、ほうっておけない感じがすごく出てくる」と感じたという。

 体育会系の兄貴分、諒を演じる坂東さんについても「奥底にある真面目さがちゃんと表れている声だなと。せりふだけみると陽気な感じなんですけど、それだけじゃない真面目さ、ちょっとした暗さもちゃんと内包されている声」と語り、コンプレックスが多く卑屈なところもある優太役の前田さんについても「前田さんはアニメがお好きだとお聞きしたんですけど、アニメに対しての理解度がすごいなと思って。キャラへの理解度がすごく高い演技をしていただきつつ、リアルな手触りもちゃんとあって」と称賛する。そうした3人の声優陣による“足し算”も「すごく面白い」と感じたという。

 長井監督、岡田さん、田中さんという3人のクリエーター、永瀬さん、坂東さん、前田さんの声優陣が紡ぐ3人の青年の友情物語。彼らの友情は、ある事件をきっかけに大きく揺れ動いていくことになる。青春三部作を経て描かれる“友情”とはどんなものなのか、注目したい。

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