今田美桜さんが主演を務める連続テレビ小説（朝ドラ）「あんぱん」（NHK総合、月～土曜午前8時ほか）で、ヒロイン一家（朝田家）の次女・蘭子を演じている河合優実さん。第38回（5月21日放送）で、結婚の約束をしていた若き石工・豪（細田佳央太さん）が戦死したことが明らかになり、のぶ（今田さん）の前で初めて本音を吐き出した。本作への出演について「すごく意義があること」と語る河合さんが、どのような思いでこの場面と向き合ったのか、話を聞いた。

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　◇蘭子と豪、出征前夜の求婚シーンを振り返る

　第29回（5月8日放送）では、出征前日の豪を送る壮行会の日。のぶたち3姉妹がよさこい節を歌って盛り上がる中、豪はたまらず席を外し、そのまま朝田家を離れようとする。

　そんな豪を追いかけた蘭子は「豪ちゃんは足が遅いき、弾に当たらんか心配や。きっともんてきてよ。きっとやのうて、絶対や」と伝える。すると豪は「無事もんてきたら、わしの嫁になってください」と求婚。蘭子が「うち、おまさんのこと、うんと好きちや。豪ちゃんのお嫁さんになるがやき。もんてきてよ」と答えると、豪も「ありがとう。もんてきます。絶対に」と約束した。

　両思いでありながら、これまで自分の気持ちを口にすることのなかった蘭子と豪。そんな2人の思いが通じ合った場面を振り返り、河合さんは「このとき蘭子はまだ10代ですが、戦争によって人を愛すること、失うことを知り、人生においても大きな出来事を経験することになります。この経験が蘭子の考え方にも影響を与えていきますし、ドラマにとっても、蘭子にとっても、大切な軸だと思って演じていました」と明かす。

　豪役の細田さんとは、「あんぱん」で3回目の共演。河合さんは「過去に映画でも共演していたので、豪という役に真っすぐ取り組んでくれるという信頼はすごくありました」と印象を語る。

　「本番前のテストの段階から、どういうふうに心を通わせ合おうか、お互いに探っているようなところがあったので、自然と力が入るというか、背筋が伸びました。細田さんとの共演は、すごくいい時間になりました」

　壮行会のシーンでは、よさこい節を歌う蘭子と豪の視線が絡む描写があった。

　「言葉を交わさないけれど、ずっと目線を合わせながら、蘭子は歌って、豪ちゃんが聴いて、お互いの感情を交換しているような感覚がありました。私がニコっと笑ったら、豪ちゃんも笑い返してくれた瞬間を鮮明に覚えています」

　◇豪と蘭子が「戦争について改めて考えるきっかけにつながったら」

　第38回では、豪の戦死の報せを受け、朝田家は悲しみに暮れる。皆が口々に「豪は立派だ」と言う中、押し黙る蘭子。深夜、線香を絶やさず起きている蘭子に、のぶはかける言葉が見つからない。翌日、焼香に来たのぶの生徒が、いつかお国のために立派にご奉公したいと言うと、蘭子はいたたまれず出て行ってしまう。石置き場にたたずみ、豪との思い出がよみがえる蘭子。探しに来たのぶに、蘭子は「戦死のどこが立派なのか」と本音をぶつけた。

　口数の少ない蘭子が、初めて感情を爆発させるシーンとなったが、河合さんは「この場面の台本を読んだとき、蘭子を演じられてよかったと強く思いました」と明かす。

　「大切なせりふだと思ったので、とにかくちゃんとその言葉を伝えようということを一番大事にしていました。豪ちゃんはいなくなってしまって、もう何も言えなくなってしまった。世の中がのぶのような軍国主義の思想の方に流れている時に、蘭子は強い気持ちで反戦を伝えなければいけない。豪ちゃんがいないから蘭子を通して私が言わないと、という気持ちでした」

　今後の展開でも、蘭子は反戦を貫いていくといい、「初めての朝ドラで『あんぱん』に参加したタイミングが戦後80年で、戦争とまっすぐ向き合おうとしている作品に出演できたこと、蘭子のような『ノー』と言える人を今演じられたのは、すごく意義があることだと感じましたし、大切に演じなきゃと強く思いました」と話す。

　「蘭子は、内に秘めてはいるけれど曲げない強い気持ちがある人。言葉で気持ちを常に出しているわけじゃないけれど、意外に思うほど人とぶつかり合うし、強い信念がある人なので、それを感じていただけたらうれしいです。今も世界では戦争が起こっていますが、正直実感が湧かない部分もあります。でも、当時の人たちもそうだったのかもしれない。よく分からない大きなものに、気づかないうちに絡めとられていくことが戦争だったのではないかと想像しています。見ている人が、まずは少しでも豪と蘭子のことを思ってくれれば十分で、そこから戦争について改めて考えるきっかけにつながったらいいなと思います」