「グレート・ブルー」(88年)や「レオン」(94年)などで知られるフランス人のリュック・ベッソン監督がメガホンをとった最新作「アデル/ファラオと復活の秘薬」が、3日から全国で公開される。繊細な心の持ち主であり、それゆえに気難しい、マスコミ嫌いと評判のベッソン監督。このインタビュー当日も、決してご機嫌麗しい状態ではなかったが、「『グレート・ブルー』のころからのファンです」とこちらから切り出すと、「お互い、若かったね」とニヤリ。そして、インタビュールームに用意してあるフルーツをつまみながら、質問に丁寧に答えてくれた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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「アデル」の主人公、アデル・ブラン=セックは、ミステリーハンターとして世界中の不思議を追いかけては冒険談をつづっている美人ジャーナリスト。実は彼女には、ある事故で意識不明の重態に陥った双子の妹がおり、その妹を助けるためには、古代エジプトの王ラムセス2世に仕えた医者のミイラが必要だった。一方、パリでは、博物館に展示されていた1億年以上も前の卵が孵化(ふか)し、怪鳥となって飛び回る事件が発生。ミイラと怪鳥、この二つが融合し、物語はにぎやかに進んでいく。
もともとは、仏劇作家ジャック・タルディさんのマンガ「Les Aventures Extraordinaires d’Adele Blanc-Sec(アデルの大冒険)」シリーズが原作。9巻からなるその作品からベッソン監督がエピソードを抽出し、1本の物語にまとめあげた。老若男女を問わず愛される国民的マンガの映画化。その作業はスムーズに進んだわけではなかった。
「いってみれば、アデルのパパがタルディさんで、僕がアデルをお嫁さんにもらうみたいなもの。だからものすごく気を使ったよ」とベッソン監督は振り返る。しかも、タルディさんは当初、「ものすごく気難しかった」。なぜなら、その前に来ていた映画化の話が、いずれもボツになっていたからだ。
「最初は、米国の監督が映画化しようとしていたけど、それがボツになった。そのあと、日本人の監督が映画化しようとしたみたいだけど、これもうまくいかなかった。だから、僕が訪ねていったときには、映画の話はしたくないとヘソを曲げていた。口説き落とすのに6年くらいかかったよ」と苦労を打ち明ける。
口説き落として製作が決まった当初は、「プロデューサーとしてかかわるだけで、監督するつもりはなかった」と話す。ところが「シナリオを書いているうちにだんだん楽しくなっていってね」。その結果、監督も担当することになった。ちなみに、今作のプロデューサーを務めているのは、ベッソン監督の妻のヴィルジニー・ベッソン・シラさんだ。
これまで、凛(りん)とした強い女性を好んで描いてきた。「私が表現したいのは、男は強く、女は弱いというステレオタイプ的なものではない。強い男性にも弱い部分はあるし、弱い女性にも芯の強さがあったり、そういう(多面的な)ものにすごく興味があるんだ」。その典型的な女性が、このアデルであり、それを演じているのが、新星ルイーズ・ブルゴワンさんだ。
ベッソン監督といえば、これまで、アンヌ・パリローさん、ナタリー・ポートマンさん、ミラ・ジョヴォヴィッチさんという女優たちを映画で主役級に起用し、スターにしてきた。今回、白羽の矢が立ったブルゴワンさんは、もともとはお天気キャスター。奇抜なファッションや変装、さらに、当意即妙のコメントでフランス国民の間で人気者となり、08年の「La fille de Monaco」(アンヌ・フォンテーヌ監督)での演技が、ベッソン監督の目にとまった。
才能ある女優を見つけ出すコツを聞くと、「テニスのナショナルチームのコーチが、10~11歳の子どもを見て、その才能を見抜くことができるように、私も17歳のころからこの業界に身を置いているから、いろんなことがわかっている。ある意味、(スターの素質を)見抜くことが職業だと思っているんだ」と答えた。また、「演技ができる、集中力があるという役者としての才能に加えて、人間性。その二つがないと成功できない」としながら、その両方を持つブルゴワンさんについて、「すてきな女優になる」と太鼓判を押した。
劇中、ルーブル美術館前で「ピラミッド」に言及する場面がある。現在のルーブル美術館には、中国系アメリカ人建築家イオ・ミン・ペイさんによるガラス張りのピラミッドがあることは周知のことだ。ベッソン監督も、それを意識してそのせりふを用意したようだが、「あの建築家は好きだけれど、ガラスのピラミッドはあまり好きじゃない」というのが本音らしい。「だって、ベルサイユ宮殿にプラスチック製のジャンボ伊勢エビみたいなオブジェが置かれていたらおかしいし、京都に、ああいったガラスのピラミッドが置かれていても、たぶんそぐわないよね」
その点、この「アデル」では、そのようなオブジェは現れず、1910年代の美しいパリの街並みを見ることができる。前日の会見では、「日本の観客はフランス文化に通じている。パリの美しい景色も再現しているので、どういうふうに喜んでもらえるか、その反応が楽しみ」と話していたベッソン監督。アデルの活躍はもとより、古き良きパリの風景もこの映画で堪能してほしい。
<プロフィル>
1959年、フランス・パリ生まれ。17歳で学校を中退、ゴーモン社でニュース映画のアシスタントとして働き始める。81年製作の短編「最後から2番目の男」で注目され、それを長編映画化した「最後の戦い」(83年)は、アヴォリアッツ映画祭審査員特別賞と批評家大賞を受賞。その後、「サブウェイ」(84年)、「グレート・ブルー」(88年)、「ニキータ」(90年)などを手掛け、アメリカ進出1作目「レオン」(94年)で、人気を不動のものにする。監督作にセザール賞監督賞受賞の「フィフス・エレメント」(97年)。最近では「アーサーとミニモイの不思議な国」(06年)と、その続編「アーサーと魔王マルタザールの逆襲」(09年)ではアニメにも挑戦。プロデュース作品も多く、「TAXi」シリーズ4作(97~07年)や「WASABI」(01年)、「トランスポーター」シリーズ3作(02~09年)、さらに「96時間」(08年)、「パリより愛をこめて」(10年)など多数。
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