仏パリ市内で3~13日に開かれた「第8回パリ映画祭」では日本特集が組まれ、邦画計105作品が一挙に上映された。会場には、2月に開催されたベルリン国際映画祭フォーラム部門の招待作品となった「川の底からこんにちは」を出品した石井裕也監督が登場し、上映後、観客との質疑応答やフランス国際放送TV5MONDEの取材に応じた。
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「川の底からこんにちは」は27歳と若手ながら国内外で高い評価を得ている石井監督の商業映画デビュー作で、日本では5月に公開された。園子温監督の「愛のむきだし」で高い評価を得た若手女優の満島ひかりさんが、妥協した日常を送る派遣社員の佐和子を演じる。佐和子は父の病をきっかけに元上司で離婚歴のある恋人と、その連れ子とともに帰郷。父が営むしじみ加工工場を立て直しながら、どん底からはい上がる姿をユーモアを交えながら生き生きと描いた。
−−作品は落語のリズムを意識したと聞きました。
演出については、映像先行ではなく音やせりふのリズムを重視しました。まず音を考えてから芝居をつける。それは落語の方法です。
−−佐和子のパーソナリティーについては?
現代の日本の若者が抱えている閉塞(へいそく)感の象徴という意味で前半の佐和子を描いています。でもそうも言っていられないだろうということで、後半は開き直って立ち上がっていく。そこからは、僕が想像力を用いた創作。前半は今の時代の精神というか雰囲気の象徴です。
−−監督の映画は、前作「君と歩こう」や今作でも男性より女性の方が積極的。日本の今の状況を表しているのですか? 女性には何かを成し遂げられると言いたい?
家庭やカップルで違いますが、えてして女性の方が強いと思います。両作品とも女性の強さを描きたかったのではなく、人間の力強さを描きたかったので、それには男性より女性の方が適しているという判断です。それゆえ男を女々しく描き過ぎたなという反省点もあるので、次回作は、男のダンディズムについて描かないといけないと思っています。
−−佐和子が男性として描かれることはありえなかったのですか。
当初は男でしたが、先ほども言ったように、開き直ったときの人間の強みやすごみは、どう考えても女性の方が面白いと思ったので女性にしました。
−−工場で毎朝社員が歌を斉唱する場面があります。これは実際日本の会社で行われていることなのですか? それともミュージカル的要素を入れるために用いた演出ですか。
今では歌っている会社はほとんどないと思うのですが、昔は社歌といって従業員の士気を鼓舞する歌が大企業から中小企業まであって、映画にとり入れたら面白いだろうと思ったので、歴史をひもといてひっぱり出してみました。
−−映画に出てくる男性は、今日本でいわれている“草食系男子”の代表として描いたのですか。
映画に出てくる男性は、草食系男子かと聞かれれば、そのカテゴリーに入ると思います。例えば世代の差は感じています。こういう車に乗って、こういう家に住んで……という所有欲が上の世代と比べるとない。それで負い目を感じているわけでなく、そういう時代の人間として何が悪いのかと。夢と希望を持てない世代です。
−−パリ映画祭に参加した感想は?
ベルリンで上映した時と反応が違って面白かったです。フランス人の方が落ち着いて考えながら作品を見ているなという感じがしました。まだ1回しか立ち会っていないから確信は持てませんが。パリはお世辞でも何でもなく、素晴らしいところですね。セーヌ川岸とか歩いていると、「おれはこの国に生まれていたら画家になっていただろうな」と思う景色が多くて、感動しました。
◇ ◇
今回、石井監督の作品を観賞したフランス人の観客は「とてもいい映画でした。笑えたし、主人公のキャラクターを気に入った。日本に住んだことはないが、現在の日本の様子を感じられました。自分のことを恥じていた主人公が、社会に立ち向かっていく。闘うのだが、認めているところもある。『私はたいした人間ではない』と彼女がよくいうせりふには心を打たれました」と感想を述べていた。
*……TV5MONDEは、203の国と地域でフランスとフランス語圏の番組を放送する唯一のフランス語国際公共総合チャンネル。日本では、09年12月から1日10時間の日本語字幕付き放送を開始した。TV5MONDEのサイト(http://www.tv5.org/cms/japon/p-328-lg7--.htm)パリ映画祭特設ページでは、会場の様子、監督や俳優インタビュー動画など映画祭の情報を掲載しているほか、一般公募で選ばれた日本人リポーターによるUSTREAM、Twitter、ブログ、ウェブサイトなどを活用した複合的なマルチメディアリポートを行った。(毎日新聞デジタル)
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