はじめの1巻:「イヴの時間」 人とアンドロイドのほろ苦い物語 揺れる心描く

太田優姫さんが「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載中のマンガ「イヴの時間」(吉浦康裕さん原作)1巻の表紙
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太田優姫さんが「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載中のマンガ「イヴの時間」(吉浦康裕さん原作)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、3月に劇場版が公開された吉浦康裕さんのウェブアニメが原作で、太田優姫さんが「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載するマンガ「イヴの時間」(540円)です。

ウナギノボリ

 人々がアンドロイドを家電として扱うのが常識で、人として扱うと軽侮の意味を込めて「ドリ系」と言う未来の世界。高校生のリクオは、自家用アンドロイド「サミィ」の不自然な行動記録を見つけ、たどり着いた先に「人間とアンドロイドを区別しない」ルールを掲げる喫茶店「イヴの時間」を発見した。そこではアンドロイドが悩み、優しさのためにうそをつくなどの姿を見る。リクオの心は揺れ動きながら、「僕はドリ系じゃない」と自身も迷うなど……人とアンドロイドのほろ苦い物語を描いている。

 ◇編集部からのメッセージ YG編集部 菅谷彩花さん 「マンガでしか伝えられないことがある」

 もし今、隣に人間そっくりのアンドロイドがいたらどうしますか? 徹底的に物扱いする人もいれば、人形に話し掛ける子供のように、自分にだけ心を開いてほしいと望む人もいるかもしれません。

 この作品は、アンドロイドが普及し始めた時代の、普通の高校生の物語。社会的にアンドロイドを物扱いする風潮がある中で、人間とアンドロイドを区別しない喫茶店「イヴの時間」に出会った高校生のリクオは、そこでさまざまな不思議な体験をします。それが彼の中でどんな意味を持っていくのかが、この作品の見どころです。原作者で映像作家の吉浦康裕監督は、SF的なバックボーンも入念に作り込みながら、しかし、そういうものはひとまず置いておいて、「あなたならどうする?」と語り掛ける作品を作り出しています。

 吉浦監督作品「オリジナル版 イヴの時間」は、映像、音楽、テンポでみせていく作品ですが、映像でしか伝えられないことがあるように、マンガでしか伝えられないことがあります。コミック版では、同じエピソードでも、登場人物たちの細かい表情や心情を入れたり、太田先生なりに「イヴの時間」を解釈したオリジナルエピソードも収録されています。映像とマンガ、両方の「イヴの時間」を楽しんでみてください。

 ◇書店員の推薦文 鹿児島・ひょうたん書店の筒口征洋さん 「シーンのひとつひとつが心に残ります」

 ショートSFなどでよく見る設定をシンプルに分かりやすくまとめ、そのうえでヒューマンドラマをじっくりと語る内容なため、ライトなSF入門書としてもオススメの作品です。哀愁の漂うストーリーは作画とほどよくマッチしており、ささいなシーンのひとつひとつが映像的に心に残ります。オムニバスでもあるそれぞれの話には異なる特徴があり、叙情的なマンガなのかと思っていると、仕掛けや意外性のある展開に驚かされたりもします。特にコージとリナのエピソードが印象深くて好きですね。

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